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つまずき石



ある県境に、村から町へと続く小道があり、小道の真ん中あたりに親指の爪ほどの石が地面から突き出ていました。
その小道を通る人は決まってその石につまずいていました。

「おっとっと、またつまずいちまった!この石、危ないよなぁ~」

ここを通るたびにつまずいて転びそうになっていた男がそう言った矢先、後から来た妊婦が石につまずき、お腹が地面につくすれすれのところを男が助けました。
この時、男はこのままではいつか怪我人が出るかもしれないと思いました。そして翌日、男が石を掘り起こそうと、道具をもってやってきました。
しかし、石は思っていた以上に大きく、いくら掘っても取り出すことが出来ませんでした。
一人では無理だと思った男は、人手を集めることにしました。
数人の男たちが集まり、毎日せっせと掘り続けましたが、数日が過ぎても数週間が過ぎても、石の全貌は見えてきませんでした。

「何なんだこの石は!いったいどうなっているんだ?」

ここまで来たら後戻りもできず、途中で投げ出すことも出来ません。
男たちはそれからも諦めずに堀り続けました。
三年後、そこには巨大な石の姿がありました。
掘った石は、なんと、山ひとつ分もあったのです。
町まで遠くなった!と近所の住民から苦情が殺到しました。

「こんなにデカいもん、どうすりゃいいんだ・・・」

男は、運ぶこともできないこの巨大な石をどうしたものかと悩みました。
皆に相談しても良い考えが浮かばず、最終的に話し合った結果、石を砕いて運ぼうということになりました。
それは気の遠くなるような作業でしたが、コツコツと砕き続ける内に、石は少しずつ小さくなっていきました。
九年の月日が流れ、男は最後の石のかけらを拾いました。
夢中で取り除いた巨大な石があったところには、とても大きな穴が出来ていました。
これもまた、近所の住民からは、落ちたら危険だ!という苦情が来たのです。
今度はこの穴をどうしたものかと悩んでいたある日、季節外れの嵐がやって来ました。嵐は三日三晩続いたあと、大雨が14日間降り続けました。
ようやく雨が止み、男が穴に来てみると、そこには池が出来ていました。
池の中を覗いてみると、驚くことに生き物まで住みついています。
男はこの場所が大変気に入り、池のそばに小屋を建てて住み始めました。
池の周りには木や花も植えました。季節ごとに新しい苗木を植えては育て、それが男の生きがいになっていきました。

月日は流れ、池は男の手によって美しい森になりました。
今では人々が癒やしの場所として訪れるようになり、この森は「つまづき石の森」と名付けられました。

森に出かけた時には
誰かにその森の名前を尋ねてみて下さい。
もしかしたら
その森は「つまづき石の森」というのかもしれません。

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