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DU缶物語04「ツギハギだらけの宝物」

Ⅰ.チュウとドラサン


森の中の小さな村に、ネズミのチュウと、
ドラゴンのドラサンが住んでいました。

ドラサンは今をときめく
ファッションデザイナー兼ファッションリーダー。
そのスラッとした長身と、
控えめだけど存在感のある着こなしで
若者に大人気。

チュウとは10年来の友達で大事な相棒。

ある日隣り町で大きなお祭りが
開催されることになり、
チュウとドラサンはメインイベントの
ファッションショーの準備をしていました。

ショーに使う服は全て完成し、
後は自分たちの支度だけ。
チュウはいつものジャージを。
ドラサンは迷った結果、
少しく色あせたみどり色のドレスを
取り出しました。

「なんだい、ドラサン。
 いつも以上に地味なドレスだね。
 明後日は君が主役なんだから
 もっと目立つドレスを着ればいいのに」
「いいんだよチュウ。これで」

この緑のドレスは大好きなおばあさんから
もらった大事なもの。
小さい頃から自分のファッションショーを
開くことが夢だったドラサンが、
夢が叶ったら着ようと大事に取っておいた
思い出のドレスなのです。

Ⅱ.大きな地震


こうして2人は急いで準備をし、
森を抜けて湖を横切り、
お祭りが行われる町へと向かいます。

ーグラグラ、グラグララッ!ー

しばらく経って険しい山道に差し掛かった時、
2人は大きな地震に襲われました。

「助けてくれー!!」

さっきの地震で土砂崩れが起き、
ドラサンたちの前を歩いていた人たちが
巻き込まれてしまいました。
積もった土砂の中からは、
助けを呼ぶ声が聞こえます。

「チュウ!?」
その声を聞く前に、
チュウの体は崩れた土砂に向かって駆け出しました。

Ⅲ.みどりのドレス


そんな彼を追いかけようとした時、
ふとドラサンの脳裏にあることが過ぎります。

(自分が着ているのは、
 大好きなおばあちゃんが残してくれた
 大切なドレス。
 もし助けに行くことで万が一ドレスに
 何かあれば、私は…)

「そんなことを思ってはダメだ!」
ドラサンはすぐに思い直します。

自分に厳しく人に親切だったおばあちゃんなら、
きっと自分の身のことは考えず、
人助けに行くだろう。
私はこのドレスと一緒に、
そんなおばあちゃんの誇りを受け継いだのだ。
ここで躊躇する方が
おばあちゃんに叱られてしまう。

ドラサンは決心をし、
先に飛び出したチュウの背中を追いました。

Ⅳ.ドラサンの決意


2人の協力により、
土砂崩れで閉じ込められた人たちは
無事に救出することが出来ました。
その中には昔からの顔馴染みの
オオカミのウォルフの姿も。

「チュウ、ドラサンありがとう」

そうお礼を伝えるウォルフは
ドラサンの姿を見て気づきました。
ドラサンの着ているドレスは
彼女のおばあちゃんが仕立てた大切なドレス。
そのドレスがビリビリに破れてしまっていることを。

「ドラサン、そのドレスは……」
何かを言おうとしたタイガの言葉を遮って、
ドラサンがこう告げました。

「ウォルフ。君が無事で本当によかった。
 このドレスは明日のお祭りに来ていく服でね。
 無我夢中で岩を退けていたせいで
 破いてしまったみたいだ。
 君を助けたお礼に、
 町で代わりのドレスを買ってくれないか?」
「ドラサン……。分かった、
 早速恩が返せて私も嬉しいよ。
 とびきりの素敵なドレスをプレゼントしよう」
軽口を叩きながら、笑い合うドラサンとウォルフ。

こうしてウォルフは他の仲間と離れ、
3人で街へと向かいました。

Ⅴ.ドレスの切れ端


次の日町では無事お祭りが開かれ、
ドラサンのファッションショーは大盛り上がり。
それを見守るチュウの所に
ウォルフが何やら見慣れた生地を持ってやってきた。

「チュウ。これは昨日ドラサンが
 破いてしまったドレスの切れ端だ。
 さっきまで山道に戻って集めれるだけ
 集めてきた。
 これを繋ぎ合わせてドラサンのドレスを
 仕立ててくれないか?」

チュウはおばあちゃんの事。ドレスの事を聞き、
なんでドラサンがあのドレスを選んだのか。
なんであの時ドラサンが駆けつけるのが
遅かったのかを理解しました。

「分かった。僕に任せて!」

いつもは体の小ささを理由に任されない
「縫い合わせ」。
チュウ自身、自分の体では
どうやったら上手く出来るのかわかりません。

でも躊躇することはありませんでした。
「自分のできる限りをやろう」
ここにいるのは、
土砂崩れから人々を救ったチュウなのです。

Ⅵ.2人からのプレゼント


お祭りが終わり、
片付けの様子を見ながら物思いにふけるドラサン。
浮かんでくるのはおばあちゃんとの思い出でした。

「ドラサン、お疲れ様」

そんなドラサンにチュウとウォルフが話しかけます。

「2人とも今日はありがとう。
おかげで町のみんなが喜んでくれたよ」

先ほどまでの悲しげな表情は見せないように、
とびっきりの笑顔で2人を向かい入れるドラサン。

「そんなみんなを幸せにしてくれた君に、
僕たち2人からのプレゼントだよ」

Ⅶ.ありがとうの言葉


そういいチュウが取り出したのは、
ツギハギだらけのみどり色のドレスでした。
すぐにそれが何なのかを理解したドラサンは、
そのドレスを手に取ります。

「な、なんで?このドレスは捨てたはずなのに…」

「ウォルフが生地を集めてくれて、
 僕が縫い直したんだ。
 なかなか上手くいかず、
 ツギハギだらけで申し訳ないけど、自信作だよ」

そういいウインクするチュウを見つめ、
ドラサンの目には涙が浮かぶ。

「ありがとう……」

そういいドラサンは泣き崩れてしまいました。

Ⅷ.ツギハギだらけの宝物


おばあちゃんとの思い出と、
ウォルフとチュウが頑張った証が、
このドレスを他のどんなものよりも
素敵でキレイなドレスへと変えました。

ツギハギだらけのみどりのドレス。
みんなとの絆が仕立てた、
彼女の大事な大事な宝物。

ドラサンは優しくギュッと
ドレスを抱きしめました。

おしまい。

⚫︎あとがき


第3話「からーパレット」から続く、ドラサンとチュウの物語。
いかがだったでしょうか?
前回チュウが悩んでいた時、実はドラサンも色々な思いと闘っていました。
「人によって大切なものの形は色々ある」という事を伝えられたらと思い、
このシナリオを書きました。

このシナリオはyoutube「ユメひろびろ」で公開予定の、オリジナルシナリオ「DU缶」第4弾となります。
「ユメひろびろ」では、オリジナルシナリオの他にも、世界の童話の読み聞かせなど、幅広く活動予定。
是非応援してもらえたら嬉しいです。

それではご覧いただきありがとうございました。
また次回の記事もよろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ


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