潮騒の窓

さわさわという音とともに、私の目はぱっちりとさめた。枕もとのスマホを探して手を伸ばすとふわっとした君の髪が肘をくすぐる。
そうか、昨日私は。
思い至ったことに青ざめる気持ちと、うれしさに似た高揚感で本格的に目が覚めてしまった。
朝五時の海辺はもう明るく、散歩するにはもってこいのさわやかな気温。
起き上がろうと体を起こすと、まだ眠っているはずの君は私を探すように手を腰に回してくる。
「今何時?」初めて聞くかすれた寝起きの声にドキッとしながら答えると、そのまま寝息とともに回された腕の力が抜けていく。
さて、どうしたものか。
夫のことは大好きだ。だけど、君のことも大好きっていう気持ちも本当。
こんなはずじゃなかった、なんて言いたくないし言えない。
でも、現実この先のふたりがわたしにはみえない。
窓を開けるとさわさわという潮騒の音がやけに心に刺さる。
まるで私たちを責めているような音が部屋いっぱいに広がっていく。
私は窓を閉めると、まだ眠っている君の横に潜り込む。
目を閉じても潮騒はまださわさわと音を立てている。
大丈夫。大丈夫。
おまじないのように唱えて眠りにつく。
目が覚めたら襲ってくるであろう波におびえながら。

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