深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説(ネタバレ感想)

作者:辻真先

出版:創元推理文庫

あらすじ

昭和12年5月、銀座で似顔絵を描きながら漫画家になる夢を追う少年・那珂一兵を、帝国新報の女性記者が訪ねてくる。開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会に同行し、記事の挿絵を描いてほしいというのだ。超特急燕号での旅、華やかな博覧会、そしてその最中に発生した、名古屋と東京にまたがる不可解な殺人事件。博覧会をその目で見た著者だから描けた長編ミステリ、待望の文庫化!(http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488405168より)

感想

本格ミステリ・ベスト10という本が毎年出版されるのですが、今まで作品名は気にかけていたものの、しっかり買うようにしました。そして、2021年度に第1位に輝いた作者が辻真先さんだったんですね。
恥ずかしながらそれまでは名前は知っているものの、作品には全く触れたことがありませんでした。
本当は受賞された「たかが殺人じゃないか」を読もうと思ったんですが、今作の方が時系列的に先なのかなとか思って手に取ることとしました。

まず読後に思ったことなのですが、ものすごく若さを感じました。作者の辻先生は80歳を超えるご年齢なのですが、おそらく自分がそれくらいの年齢だったらコテコテの作品って書いてて疲れてしまうんじゃないかと思うんですよね。(80歳を超えて推理小説を書くこと自体異常ですが)普通は枯山水みたいな作風になるような気もするのですが。
しかし、本作は建物のギミックあり、名古屋と東京を舞台としたトリックあり、と結構字面で見ると、豪華絢爛な感じなのですよね。まず、そういった作品を生み出せるパワーが本当に凄いことです。私は現在28歳で衰えを感じてますが、そんなこと言ってる場合じゃないですね。

あとこれはみんな思うと思いますが、昭和12年が舞台ということで、当時の街並みや流行が描かれているのがなんだか楽しいです。よく考えてみると、戦前が舞台の作品って推理小説以外で考えてもほとんど読んだことがないような。日本が太平洋戦争に突き進んでいく雰囲気、これが犯人の動機にも繋がっているのですが、実際に体験したような人が小説という形に落とし込めるのはやっぱり凄いことです。

推理小説という点から見てもかなり好きな作品でした。実際に起きたこととしては、犯行は杏蓮の意図したものであり、澪が犯行現場を東京だと誤認していたことだったのですが、この辺も規模感を活かしていてよかったと思います。

大きな謎としては、何故澪は1度で裸にされなかったのか、髪の毛は切られていたのか。これにもある程度納得のいく回答がされていてよかったです。行きの新幹線で吐瀉物で汚れ、帰りはまた服が汚れないようにあらかじめ裸にしておいたというものでした。髪の毛を丸刈りにしたのは、澪に対して現場を最終発見地(=東京)であると認識させるための印象付けでした。

また、動機も面白かったです。誰が何を考えているのか分からない、特に宗像昌清なんて腹の底で何か考えていることがあるというのは作品内の至る所で現れるのですが、これが素晴らしい。宗像の元恋人である杏蓮の希望を叶える、そしてまた刎頚の友である崔の決断を邪魔しないように自分の命を絶つ。この二つの目的があったのですが、詳細を語るのは野暮な気がするので読んだ方が早いです。全ては宗像の掌の上で踊らされていたのだなと理解できます。

初めて推理小説を読む人には何が謎なのかということがわかりづらいし、クローズドサークルのように追い込まれる展開でもないのでスリルもないのかもしれませんが、一読の価値があると思います。「たかが殺人じゃないか」も買います。

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