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9話 依存

 ゴールデンウィークになると、私は守り人さんを避けるようになった。
 アプリに『ログイン非表示』の機能が搭載されたからだ。
 こちらからは、守り人さんがログインをしていることが確認できたが、向こうからは見えない。

 タナトス:謝るべき?ログインしてたけど、非表示にしてたの。

 守り人:うすうす気付いてた。まぁ、避けられる事をしてたのは事実だしね…

 タナトス:うん♪避けてたの♪

 守り人:やっぱり。

 タナトス:だって、話したい気分じゃなかったし。

 守り人:だから先達て、タナさがログインしてすぐに声を掛けた。
     そのまま離れていくと恐れたから。

 タナトス:……。私が離れていくのが怖い?

 守り人:色んな意味で怖い。

 私は、守り人さんを利用していた。
 私が依存する先として守り人さんを、求めていると思った。
 守り人さんが私に依存するということは、共依存が起きているということ。
 最悪、共倒れになってしまう。それだけは避けなければならないと思った。

 守り人さんの言葉は、私に『早くこの関係を、終わらせなければいけない』と感じさせるには十分だった。
 避けるだけではなくて、私がこの関係を切るためのきっかけがほしかった。

 それは、意外な形でやって来た。

 タナトス:あのね~。切ったの~♪

 守り人:毎日切ってるのに?

 タナトス:お盆を落として壊したの~。で、欠片を拾うときに切った。

 守り人:切った話を、そんなに明るく云われても困るな…と思った。
     割れたヤツの先端は、思う以上に鋭利になってるから、簡単に切れる。
     …って、それを良からぬ方向に考えるんじゃないよ。

 タナトス:……考えたけど。う~ん。さすがに昼間の会社は人目があって止めた。

 守り人:夜でも、家でも、途中の道でもやめて。お願いだから、しないで欲しい…

 即座に『毎日』という、キーワードが出てくる事に引っかかった。
 私は別に、毎日切っているわけではない。
 さらに、あれだけ「やめて」と言われても、どうしようもないどころか負担だと言っていたはずなのに、『やめて』と言ってくるのも、ウンザリした。
 誰だって、『目の前で知り合いを殺したくはない』という気持ちでみれば、守り人さんの言葉は当然なのだ。
 けど、私の中で『目の前でなければ、死んでも構わない』と変換されてしまうので、意味をなさない。

 さらに守り人さんはこの後、大きな失言をした。

 タナトス:守り兄ちゃまは、私がなぜ切るのだと思ってる?

 守り人:平たく云えば、精神的に追い詰められているから…だと思っている。(うんぬんかんぬん長文)

 タナトス:簡単にしちゃえば、単語一つで切る理由は片付くよ。

 守り人:切りたいから。

 空気が凍りついた。
 これだけ話して、切る理由に『切りたいから』が出てくる。いや。これまで話してはいたけれども、守り人さんは「聞きたくない」のだ。だから、「聞いていない」

 さらに、守り人さんは「…この話、まだ続ける?」と聞いて、話を切り上げてきた。
 私はもう、この話をやめた。と同時に、『もう、無理だ』と思った。

 もう、この関係を続けることは無理だった。
 ゆがみは、どうしようもないほど広がって、見ないふりも出来ない。

 けれど、私はこの関係を終わらせる方法が見えなかった。
 私は、まだ守り人さんを失う事が怖かった。

 




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