見出し画像

スーツを着なくなって5年過ぎると!

定年退職まではネクタイを締めて会社に行っていた。
いつ頃からかクールビズといった風習が世間にいきわたり、夏場はネクタイを締めなくてもよくなった。
しかしネクタイを締めなくていいというだけで、上着は小脇に抱えて持っていたものだ。


スーツのステータス以外の役目は?

スーツはサラリーマンにとってステイタスだった。
スーツさえ着ていると「この人はサラリーマンなんだ」と見て頂ける。
そう考えるとスーツは便利だった。
スーツを着るだけで社会的地位や社会的な信用まで得られたという訳だ。

スーツを捨てた日

ある日、妻が衣類を抱えて私の前に持ってきた。
「これもう捨ててもいい?」
定年退職して1年が過ぎた頃だ。

私がうううっと唸っていると「1年以上着ていないからもう着ることないんじゃない?」と妻が追い打ちをかけてきた。
私はその中から一着だけ引き抜いた。
どれも同じような色のスーツだったが、その中でも最も気に入っているスーツだ。

その時一着だけ置いておく理由を咄嗟に考えた。

もし一番下の子が結婚する時、相手のご両親と顔合わせをしなければならなくなったら着るものがないからこれだけは捨てないでくれと言った。

咄嗟に出た理由だったが、本心はスーツとお別れするのが寂しかったのだ。
とうとう最後のステータスが消えてしまうとでも感じたのだろう。
仕事をしていなくても、スーツを着て外に出るだけで社会的地位が戻ってくると思いたかったのだ。

結局残されたスーツも、その後着ることはなかったから数年後にお別れした。

スーツの利点

スーツを着ていた頃は、スーツを着なくていいような人生を送っている人が羨ましかった。
まるで首輪のようにネクタイで首を締め働くことに嫌気が指していたいた頃だ。

しかしスーツを着なくなってから振り返ると、スーツを着るだけで背筋が伸び社会的にも信用されていた時のことが懐かしかった。
家ではぐうたらの私も朝ネクタイを締めるだけでしゃんとした。

ネクタイがサラリーマンに変身するスイッチだったのだ。

ましてや着やせするタイプの私にとって、濃い目のスーツは格好のお洒落着だった。
多少太り気味だったが、A5サイズのタックなしのスーツを着るだけでスリムに見えた。
中身以上にグレードアップさせるアイテムだったといっていいだろう。

営業職で生きた人生はスーツが制服であり仕事着だった。
スーツさえあればどこにでも行け仕事ができた。

学生服と同じように極端に流行りが変わることもなく、夏冬用に数着持っていれば何を着て行こうかと迷うこともない。
更に黒の革靴さえ持っていればコーディネートで迷うこともない。

スーツを捨てた今の方が何を着て行こうかと迷うことが多くなったほどだ。

スーツのない生活

もう家にスーツは一着もない。
あるのは冠婚葬祭用の黒いスーツだけだ。
何十本もあったカラフルなネクタイも少しだけ残っていたが、その最後のお気に入りのネクタイも数か月前に妻の手によって捨てられた。

定年退職から5年以上も過ぎれば、過去のステータスを思い出すようなことはあるはずもない。
やっと悔いなくスーツと別れることができたという訳だ。

サラリーマンでなくてもスーツを着てはいけないというルールはどこにもない。
しかしよほど儀礼的なことでもない限りスーツを着るという概念は私にはない。

スーツを着ていた頃を思い出すことがないとは言ったが、このように振り返っているのだからまだどこかに未練があるのだろう。
未練があるとすれば社会的な価値観に他ならない。

スーツで身を包んだだけで社会的価値が上がるという訳でもないのに、40年近くもスーツを着ていたせいでそのような概念が先入観になったのだろう。

この頃はどこへ行くのもジーンズやポロシャツといったラフな格好をしてしまうが、それが少し気にはなっている。
せめて人と合うような場では、さりげなく少しだけでもフォーマルを意識した服を着たいと思っている。

これはいい格好をして見栄を張りたい訳ではなく、社会と繋がるスイッチと捉えたい。
家でくつろいでいる時と同じ服のまま人が集まる場に行って悪いわけではないが、仕事と同じように社交のスイッチを入れるためにも服を意識したい。
これはこの歳になってからでも社会と繋がろうとする意欲だ。

それで人生にメリハリが生まれるのなら悪いことではない。

そうは言っても服を選ぶといったことには慣れていないためセンスがない。
スーツなら紺色か濃いめのグレーと自分なりに相場は決まっているが、スーツ以外の服には何の知識もこだわりも持ち合わせてはいない。

取りあえず明るめのジャケットでも羽織ってみるしかなさそうだ。
少しずつ服を選ぶ楽しさを学ぶしかないだろう。

最後の人生を心豊かに過ごすために。

#サラリーマン #人生 #スーツ #定年退職 #老後ファッション #第二の人生


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?