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蛙が帰る道。

お酒が湧き続ける井戸があった、という伝説がそのまま地名になった土地で生まれて育った。
小学校の低学年の頃、社会の授業でそれを習った時は何も思わなかったし、寧ろ胡散臭さ故にバカにさえしていた気がする。

学校までは徒歩1時間弱。
一番大きな建物は駅か学校で、畑か田んぼしかない。
蛙がうるさくて眠れないし、何しろいちいち虫がデカイ。
道に古いロープ落ちてると思って見たら蛇だったり、向こうから歩いてくる知らないおばあちゃんは何故か私がどこの子かを知っている。

引っ越しを数回、幼い頃は関東から外は最早外国とさえ思っていたのに気付けば今、大阪で生活をしている。

暮らしやすい都市、世界3位。
利便性や安全性、物価、そして食事。
居心地が良いのは多分、それだけじゃないはずだと思えるのは、ここに住んでいるからこそ言える事だと思った。

でもたまに、ベッドに倒れて天井を睨んでる時とか、駅の階段を登りきったその瞬間とか、タバコの煙越しに透けるビルの形に見覚えがない時とかに、ふと社会の授業中を思い出す。
道端で轢かれて伸びてる大き過ぎる牛蛙と目が合って、そして言われる。
「君はここの子だろう?」
ほら。

大人になってから思い出した時、地名の伝説が何だか無性に気になって調べまくった。
親孝行をたくさんした青年に、神様が贈ったプレゼントの井戸だったらしい。
バカにしまくっていたくせに、今こんなにも誇らしいのは何でだろうか。
故郷とはきっと、そういうもの。