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【嘘】月弦琴

この楽器は、月弦琴という。
月との間に三十本の弦を繋ぎ、それらをはじいて音を奏でている。

一般的な弦楽器は、地球上で弦が空気を揺らし音を出し、その空気の振動を音として認識している。
しかし月弦琴の場合、それとは大きく異なる特徴を持つ。

なにしろ、地球と月との間には、空気の無い宇宙が隔たっている。音になるのは、いわゆる大気圏内の弦によるものだけだ。
実際は、宇宙との間に明確な境などは無く、グラデーションで空気は薄くなっていて、それらがそれぞれで違った振動をするため、音はうねり、混ざり、その重なりが音色となっている。

他にも、場所毎の振幅の影響、月の公転による張力の増減、音が地上に届くまでの時間差など、その規格外の大きさ故、通常の楽器では発生しない様々な要因で音が出来上がっている。
そしてなにより、その音楽は、空から降り注ぐのだ。

この楽器が奏でる神秘的な音楽は多くの人を魅了していたが、数年前、月にいる友人から驚きの事実を伝える連絡があった。

月では全く異なる音楽が聴こえているとのことだ。

当然、月には空気が無い。普通、音は聞こえない。しかし、弦が繋がれている月の大地は振動し、共鳴した住居の中の空気が音を鳴らしているらしい。

つまり、月が奏でる音楽というわけだ。

この事実が広まり、その音楽を一度は聴いてみたいと多くの音楽好きが月へと旅立ったが、俺はいまでも、空から降ってくる地上での音楽の方が好きだ。
宇宙が作るこのビブラートが最高なんだ。


ありがとう