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【嘘】終わりの夜

夜は明るい。街灯もコンビニも、星々より強く主張をしているからだ。
こんなにも明るいので、普段はどうしたって月明かりを浴びる事なんて出来ない。

しかし今夜は違った。

夜空のとても低い位置、厚い雲を突き抜けて、細長い月が薄暗い黄赤色の光を放っていた。
強烈なその光は街をギラギラと照らし、奇妙な光景が作られていった。
それはどんどんと赤みを増し、街行く人々の顔がもう真っ赤に見える。
あんなに主張をしていたはずの街明かりは全て消え、呼応するように音も無くなり、赤い静寂が風景を包んだ。

やがてアスファルトが少しずつ歪みはじめ、どうやら遠近が出鱈目になっているようだ。地平線はめくれ上がり、地面が空を覆わんとしている。

夜は小さな円形だけが残り、そこから真っ赤な月明かりが注がれている。

そのまま世界は絞り取られるように捻れて捻れて、一本の赤い糸になった。

誰かが大きな欠伸をすると、シュルシュルと音を立ててほどけた。
細切れな欠片が宙を舞い、そうしてまた最初から創る事になるのだろう。

ありがとう