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なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?その4

ジェンヌは男役をどう学ぶのか

宝塚の男役には本当の男性には無いほどの美しさ、また、男性以上のたくましさまで感じてしまう不思議さがあります。
しかし、未婚の女性ばかりの宝塚でどのように男性について学ぶのでしょうか。
不思議に思ったことはありませんか。

上級生・映画・舞台、日々研究。生活のすべてを男役らしく

宝塚音楽学校に入学するのは全員十代です。若い女性たちがどうやって男性を演じることを学んでいくのでしょう。

音楽学校では、バレエや声楽など授業の種類も多く、芸事の基本を学ぶ毎日です。
男役を実際に演じる時期ではありません。
歌劇団に入って舞台で男役としての出番をもらうまでには一、二年はかかります。
でも自分に男役が回ってきたときに慌てて男役らしくしたのでは間に合わないわけですから、「もう自分は男役でいく!」と決めたときから研究ははじまります。
宝塚はすべての生徒が、トップスターに憧れてトップスターになりたい! という強い気持ちで入るのですから、まずはその憧れに少しでも近づきたいと思うのです。

男役への第一歩は、まずは「見る」ことからです。

上級生の姿、歩き方、声、表情を細部にわたって見て、真似をすることからはじまります。しかし真似をしてすぐにできるといいのですが、そう簡単にはいきません。

稽古着も普段の生活もすべて、男役はパンツスタイル、娘役はスカートやワンピーススタイルなど、服装や鞄、小物などに至るまで、男役は「格好良い!」、娘役は「綺麗! かわいい!」といわれるような生活をします。
でもそれは外見の工夫です。未婚の女性ばかりの劇団で、男性と接するのは稽古場での演出家かその助手、あとは振付の先生くらいです。舞台以外では朝から晩まで稽古場にいることがほとんどですので、実際にサラリーマンや学生さんと話すことも極端に少ない日常なのです。

映画、特に洋画を見て俳優の仕草や表情、感情の表し方などを研究していきます。
私が在籍したころは、今のようにDVDやインターネットで気軽に洋画を見ることができなかった時代です。映画館に行って何度も何度も鑑賞して、取り入れる工夫をしたものです。
休みが少ない劇団生活の中でそれは本当に大変なことでした。
どうしても「これだけは見ておきたい!」と思った映画を、地方公演先で何とか時間を捻出して鑑賞に行ったこともありました。

男役、娘役を演じるために日々研究の毎日でした。

「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」桐生のぼる著書より 
                       つづく・・・・