【過換気体験記①】突然手足が動かなくなる
それは一週間ほど前の夜、突然に起こった。
その日は保育園で長男の面談があったため、仕事を終えて急ぎ足で電車に乗り込んだ私。「なんとか間に合いそうだ……」と安堵したのと同時に、いやな寒気を感じたのを覚えている。
車内の空調が強すぎるんだろうか、それとも少し疲れたんだろうか?
なんとなく重だるい肩を回しながら、そんなことを思っていると、徐々に体の節々が痛みはじめた。
「あー……こりゃ、チビ達のがうつったかな……」
保育園の面談前、しかも終われば3連休(=ワンオペ地獄)というのに、まったくツイてない……。そう思いながら、電車を乗り継ぎ最寄り駅へ向かう。
面談同席予定の旦那に寒さ対策の上着を持ってきてもらい、なんとか面談は終了。
「面倒だし夕飯食べて帰ろっか」とバイクにまだがりながら言う旦那に「いや、体調悪いんで私は帰るわ……」と、息子達2人を自転車に乗せて押して家路を急いだ。
面談の際は耐えられたのに、熱が上がってきたのか関節がギシギシと音をたてるように痛む。そして、とにかく「寒い」!
家に着いて子ども達を部屋にあげるやいなや、寝室の布団に潜り込む。
綿布団を1枚かぶるが……まだ寒い。
旦那のもまとめて2枚かぶる……それでも震えが止まらない。
熱を計ってみると、39.9℃だった。
横になれない息苦しさと胸痛・腹痛
我が子ならば、40℃近い熱となれば医療機関の受診を検討するが、大人にもなれば「熱くらいなら解熱剤飲んで寝てりゃいい」と判断するものだ。
私も体温計を見ながらこのまま寝てしまおうと思っていた。
「夕飯を作るのも面倒だろうから、ピザでも頼もう?」(正確には面倒なのではなく、作れる状態ではないのだが……)と言う旦那にピザを注文し、しばらく布団のなかで丸まっていると、じわじわとみぞおちのあたりからおへそくらいまでの腹部に鈍い痛みが出てきた。
痛みは徐々に強くなり、胸まで痛み出すように……。
「痛たたた…痛い!痛い!」
横になってもいられず、ダンゴムシのような体制で痛みに耐えようとするものの、どんな姿勢になろうと一向に楽にならない。
揉んどり打つ私の姿が死にかけの虫にでも見えたのか、なんだ、なんだ?と息子たちが寄ってきて「ママ、がんばれー!好きだよー(+超絶笑顔/長男)」「ちなないで!ちなないで💢(+ビンタ/次男)」と応援?してくれる(笑)。
旦那はと言えば、テーブルでスマホゲームをポチポチやり、しきりに私がピザを注文したのかを気にしていた(おのれ……)。
文章に書き起こしていると、なんだ、大したことないなと思うが、当事者からすればかなり苦しい。
この時点で陣痛時の「あー、まだ子宮口6センチですねー。まだまだですよー(ニッコリ)」と同等レベルだ。
(※経験者の方はおわかりかと思いますが、絶望の縁に立たされる瞬間です)
親指、機能停止
さて、発熱に加えて腹痛と胸痛くらいなら、我慢しているうちになんとか治まるだろうと思っていた私。
問題はここからだった。
胸とみぞおちの痛みが激化し、息子達の絡みにもはや応えられなくなってきた。
痛すぎて、息をするたび変な声がでる。
おそらく、端から見ればわざとらしい演技と思うことだろう。しかし、そんな変な声を出さないと息を吐けないし、吸えないのだ。
このときになってようやく旦那がややめんどくさそうに、「はぁ、まったく……大丈夫なの?」 と聞いてきたが、答えている余裕はもはやない。しかたなくハンドサインでも出そうかと思い、あることに気付いた。
親指が動かない……。
両手の親指が、内側に折れ曲がり、「4」のポーズ状態で固まっていた。
感覚はあるのだが、なぜか動かせない。反対の手で押し広げてもすぐにもとに戻ってしまう……。
「あ、これはヤバいかもしれない……」そう思った瞬間だった。
広がる痺れと硬直
「4」のまま硬直した指は、だんだんと痺れてきた。採血の際にゴムチューブで上腕を縛るが、あれをずーっと続けているような感覚だ。
それに加えて、足先からも痺れが広がっていった。構造的には分かっても、感覚的に「どこに足があるのかわからない」状態。しだいに足首を曲げるのも難しくなり、いよいよスマホで医療機関を探すことにした。
枕元のスマホに手を伸ばす。
いつものようにそれをつかんでロックを解除して……そう思ったのだが……
スマホが取れない。
何度拾いあげようとしても、ボトッと床に落としてしまう。
いつの間にか指は5本とも硬直し、殺虫剤をかけられて死んだゲジゲジのように、親指が曲がった方向に不自然に折りたたまれたまま、動かせなくなっていた。
↑こんな感じ
最初は軽く指を内側に曲げるくらいならできたのだが、そのうち手首も内側に曲がったまま固まり、動かせないように……。
息苦しい、寒い、手足が痺れる、胸と腹が締め付けられるように痛い、そして手足が動かないうえに痛い!
痺れも硬直も、末端からどんどん広がっていく。
このままではまったく動けなくなる。
それどころか、手遅れになれば一生このままかもしれない……死ぬかもしれない。
一番に子ども達が浮かぶ。
この子達に絵やピアノを教える前にこんなことになるのは嫌だ!
二番目に母と弟が浮かぶ。
さぞや心配と迷惑をかけることだろう。
三番目に旦那が浮かぶ。
(正確には、スマホポチポチ「ピザは頼んだのか」と問われて自動的に視界に入ったのだが)
……ダメだ。この人に介護なんかできっこない。ローンの手続きは?保険請求はどうする?毎月の支払い口座の変更も、万一死んだときの親族への連絡も、葬儀の手続きも、そのあとのもろもろの相続も、子ども達学資保険のことも、ピザのクーポン駆使も、キッチンのフィルター交換も、フローリングのワックスかけも、庭木の剪定も、オムツの大量一括購入も……きっとなにひとつわからない。
干からびたミイラ状態で自分の死体が床下に転がり、旦那がうるさく言う嫁から解放されて深夜までポチポチとスマホゲームに勤しみ、息子達が二人ぼっちで遊び疲れて寝ている姿が目に見えるようだった……。
だれか大人を……体が動くうちに……!
枕元に落ちたスマホをひっくり返し、動かない手を肩ごと動かして、私はなんとか電話をかけた。
……②へ続く
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