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人生で一番の青春の記憶 1998年雪組「凍てついた明日 ーボニー&クライドー」

※2023/2/7追記 
コロナで緊急事態宣言、外出自粛により精神がやられていた頃に、突然それまで離れていた宝塚のことを思い出して色々見ていた時の日記です。御園座ボニクラ万歳!!!

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2020年4月。毎日配信で宝塚歌劇団星組の「バビロン」を観ている。レンタル期限が来たので、すぐに再度購入した。課金は任せてくれ。上演当時はハンカチを握りしめて放心しながら見ていたのだが、現在は作品世界にのめり込み、妖しく、豪華なショーをウッキウキで楽しんでいる。

さて、息を吹き返した私は、どうしても映像で見たい作品がある。実家にビデオテープがあるのだが、取りにも行けないし再生機器もない。

宝塚歌劇団雪組公演「凍てついた明日」。22年前のこの作品。検索すると、復刻DVDという形で再販されていた。こんな社会情勢の中、大変申し訳ないが、通販で取り寄せることにした。本当にありがとうございます。

こちらのDVD、パンフレットの復刻版が同梱されていた。これだけで1億円くらいの価値があるのではないか。感染症の流行で休業を余儀なくされ、減収に怯えていたが、急に1億円を手にしてしまったようなものだ。あまりの興奮に震えが止まらない。

早速再生だ。現れるメニュー画面。チャプター!!!チャプターに分かれている!!!もうビデオテープの再生時間のカウンターを記憶しなくてもいいの!?いつでもフィナーレが頭出しできる!?

震える手で再生ボタンを押す。あああ〜何度も何度も見た映像。4:3の映像。日本青年館で初日を見た時の衝撃が思い出される。とんでもない作品がきてしまった。これは語り継がれる伝説になる。まさにその予感は当たり、2020年現在、この名作に命を救われる事態になっている。

ところで上演当時、この重い空気漂う、不景気な社会で、すれ違う愛に身をやつし、犯罪を重ね破滅に向かう主人公たちをどんな気持ちで見ていたかというと、それはウッキウキで見ていた。何せ主演男役スターの大ファンだったのだ。歌が上手い。ダンスが綺麗。スーツが似合う。帽子の角度。後ろから抱きしめた時の美しい手。情感こもった台詞の数々。見どころが多すぎる。つい先日までの和物の芝居ではよく分からないまま死ぬ役(失礼)だったので、あまりの違いに、こういう役、芝居が見たかったんだよ!!!と毎日息巻いていた。

主演スターだけでなく、演者たちは誰も彼も素晴らしかった。安蘭けいさんは子ルドルフから大好き。あの大きな瞳から涙が流れる熱演にこちらも毎回涙した。この主題歌を数年後、別の組でサヨナラショーで歌ってくれるとは夢も思わなかった。運命だったのだろうか。

月影瞳さんはそれまでのイメージから想像つかない、大人で、優しく、孤独で、弱い。カフェのカウンターでタバコを吸う場面の似合うこと!それまでは目の芝居が印象的だったけど、何気ない場面の手の使い方が上手い。つい先日までの和物の芝居ではよく分からないまま死ぬ役(…)だったので、グンちゃんこんな役も似合うんだ!すごい!となっていた。グンちゃん、みりちゃん、まひるちゃんと、それぞれヒロインが務まる娘役が勢ぞろいで、なんとも豪華だった。特に、まひるちゃんのビリーは本当に可愛かった。キスしたら付き合ってるよ!!と力強く同意していた。

作品の世界観を再現した趣きと奥行きのある舞台装置、常に登壇し人物を見ている(時々芝居に参加する!)オーディエンスたち。心に残る、数々の名曲。やっぱりとうこさんのBlues Requiemが一番好き。フィナーレのダンス(雪組のダンスはレベルが高い!)、黒と赤のメチャメチャカッコいい衣装。全部大好き。何度も観に行った。

友人と観劇した時は、門限までお喋りして帰った。帰宅してなお、宝塚を全然知らない母に評論家気取りで語っていた。母は優しく聞いてくれていた。宝塚を観に行く時は、目一杯綺麗にして出掛けた。メイクを濃いめにし、髪を整え、綺麗な靴を履いた。まだ殿方と手も繋いだことのない頃の、純粋で、きらきらした宝物のような思い出。一番の青春の記憶だ。

さて上演当時はスターの無限大の輝きにウッキウキの毎日を過ごしていた私だが、あれから22年…今見返すと、あまりの脚本の完成度に卒倒する。無駄な場面が一つもない上、場面転換の目を見張る鮮やかさ。風早優さんが雪組にいたのも奇跡のひとつ。

また、作品の印象が全然違う。以前は一幕をよく見返していた。ミュージカルナンバーが多いし、明るい雰囲気のジェレミー&ビリーのカップルも可愛い。美しい星空の下でのアニスとの別れ。クライドがボニーにキャンディをあげる一連の場面は、未だに人生で一番好きだ。あの、空気がすっと変わるところ。

しかし真髄は二幕だ。すれ違う二人、仲間の離脱、破滅に向かう閉塞感…芝居は引き込まれる、最後は泣くけど、実はよく分かっていなかった。まずボニーが前科者DV野郎の前夫のロイを忘れられないのが分からない。クライドがボニーを愛したい、と言うのも分からない。愛せばいいじゃない。好きだから一緒に旅してるんじゃないの?

22年経った、今なら分かる。ギュイイイインとドリルで胸を抉られるようだ。正直胸を押さえながら見ている。どちらか一人ならなんとかなると思うのよ。でも過去に愛に敗れた者同士が寄り添ったら、新しい愛はすんなりとは手に入らない。

満天の星空の下、二人は身を寄せ合っているのに、通い合わない心を感じている。

クライド、星がこんなに…こんなに暗い世界に星の光と私たちだけしかいないのに…

こんな暗闇に浮かんで、俺たち二人しかいないのに…ほんとに二人しかいないのに…こんなに近く抱き合っているのに

ねえクライド、どうして私達、こんなに遠いの…

何という美しく、哀しい場面。シビさんの歌がまた胸をうつ。

ここまでに、二人はたくさん傷ついてきた。それが今なら分かる。大人は傷つかないと思っていた。何歳でも、男でも女でも人は傷つくのに。どうして気づかなかったんだろう。

辛い…辛いよ…傷ついたボニーのこと、抱きしめに行きたい。可愛いビリーに共感していた私は、いつの間にかボニーの母、エンマ寄りになっていた。これが22年の月日か。

旅は終わりに近づいていく。晴れ晴れとした二人の笑顔からのジェレミーの魂の歌、凄まじい銃撃音。真っ白な衣装の二人。旅の最後の最後で、やっと探していた愛を見つけたのだ。一点の曇りもない、愛してる、の台詞。どこまでもどこまでも美しい。

お芝居に没頭してしまったので、フィナーレを観ながら放心状態。抜け殻だ。フラットに見返すと、人物それぞれの感情、生き方・死に様を深く描いているのがよく分かる。清らかではなく、正しくもないけど、それはそれは最高に宝塚歌劇だった。宝塚歌劇の好きなところってどこだろうと思うのだが、私にとっては、スターが、特に主演カップルが魅力的でカッコいい事。それに尽きる。

ああ〜〜良いものを見た。金銭的にも心情的にも辛い毎日の中、本当に救われている。あとはスカステでタータンの出演作品や荻田先生の作品の放送を待ちながら、とりあえず1日を生きることを頑張る。凍てついた明日は再演もあったそうなので、そちらもいつか機会があれば見たい。

また今回、香寿たつきさんの退団CDも取り寄せた。絶対に持っているのだが、あまり覚えていない。ウキウキしてCDを開けたところ、その盤面を見て、「持ってた〜〜〜!!!」と記憶が蘇りバタバタしている。せっかくなので最近出されたCDと合わせて聞き比べをしてみよう。

なんとか今日も生き延びました。とにかく、エンタメを胸を張って見に行ける日まで生きていたい。

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