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小説「愚行録」の読書感想文、映画版との違い

小説「愚行録」

映画版の愚行録をサブスク配信で観て非常に面白かったので小説版も読んでみた。こちらも本当に良かった。

複数人物の口述形式の小説だ。なので物事の直接描写はおろか主人公のセリフさえひとつもない。

たとえば「田中は歩き始めた」とかいう描写はまるでなくて、全ての文章が、主人公が話す相手の「俺はこう思いました。そういえば…」みたいなセリフで成り立っているのだ。かと言って戯曲や脚本でもない。この形式に正式な呼び方はあるんだろうか。

ゲームで言えばドラクエ形式と言ったら良いだろうか。ドラゴンクエストも主人公はまるでセリフがなく話さないから。

このように本作では多くの人物の「語り」が集まって段々と事件の輪郭が明らかになって行く。読者の視点は常に物言わぬ主人公であり、人の話を聞く役だ。

そういえば湊かなえの「カケラ」もこの形式で書かれていた。

映画版と小説版の違いといえば、映画版の方がより「人間の愚かさ」がグロテスクなほど伝わってくる作品であり、この原作小説はロジカルな仕掛けがメインの作品だったと思う。

自分は映画を先に観たのだが、原作を読んでみて、よくこの作品を映画化できたなと思った。

作者の作家デビュー30周年らしく文庫版には特別カバーがかぶされていた。良い表紙。

「六人の嘘つきな大学生たち」もそうだったが、こんな風に読者に考えさせ、想像させるタイプの小説は本当に読み応えがある。名作だと思った。

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