広島はなぜ高卒左腕投手育成が下手なのか?
広島で活躍した左腕投手と言うとどんな名前が挙がってくるでしょうか?
かなり古いところになると、王貞治のライバルとして注目された大羽進や西鉄から移籍して1年だけ大活躍した藤本和宏らになるでしょうか。
もう少し時代を進めてみると、江夏豊や大野豊や川口和久といったレジェンドクラスの投手の名前が挙がってくるでしょう。
ただ、ここ20年を見てみると活躍した左腕投手が異常に少なく、日本人だと高橋建くらいで、外国人投手を含めるとベイルやジョンソンの名前が挙がってくるくらいといった寂しい状況です。
このように近年は左腕不足が深刻で常に補強ポイントに上がっているような状況ですが、その中でも高卒左腕育成は近年の問題というより数十年に渡ってもなお残存し続ける永遠の課題となっています。
ドラフト制導入後に入団した高卒左腕で、年間二桁勝利を挙げた選手がいないということが、上記の課題を如実に表しているのではないでしょうか。
では、以降では高卒左腕育成がなぜここまで上手く行かないのかについて検証していきます。
表①はドラフト制導入後に広島が獲得した高卒左腕をまとめたものですが、育成に成功したと胸を張って呼べるような選手はいません。(他球団を介してだと永射や菊池原がいますが…)
そもそも高卒左腕の獲得自体が1980年台中盤までは稀で、大野や川口といった主力左腕の後継者が必要になってきたという点で1980年台中盤から獲得が増え始めたのではないかと推測されます。
2000年台にも多くの選手を獲得していますが、戦力となっているのは齊藤と戸田くらいで、特に戸田は2014年~2016年にかけては一軍に定着し一定の活躍は見せていましたが、2016年の完封勝利を挙げた後に転倒により骨折してしまったのが尾を引いているのか、その後の2年は活躍できたとは言い難い成績となっています。
表②はドラフト制導入後に通算200試合登板もしくは通算20勝を達成した高卒左腕(広島は抜き)を一覧にまとめたものですが、一応全球団が1名以上は輩出しています。(ソフトバンクが前身のダイエーや南海時代も含め山田1名のみの排出というのは少々意外ですが)
基本的にはどの選手も指名された球団にて活躍していますが、上述の通り広島に関しては菊池原は78試合登板こそ果たしているものの、キャリアハイはオリックス移籍後ですし、永射も広島では通算21試合登板のみということですから、広島が育成したとは言い難い状態です。
逆に育成が上手く行っている球団を挙げると、中日が継続的に選手を輩出しています。
素質のある上位指名選手のみならず、下位指名選手も戦力に仕立て上げていることから、何か育成メソッドなるものを持っているのかもしれません。
このように、表①②を見ると広島が高卒左腕をいかに育成できていないかがわかると思います。
その要因としては以下の3つが挙げられるのではないでしょうか。
①過去の成功体験の少なさ
上述の通り球団レベルで過去に育成に成功した経験がほぼないことから、育成のためのノウハウが球団に存在しないことが考えられます。
広島のコーチになる人物は基本的に広島生え抜きであることから、当然コーチも左腕育成に関する知見は持ち合わせていないため、育成が上手く行かないのではないでしょうか。
あまりに純血にこだわっている弊害が、育成面においても影響を与えているわけです。
また、主に育成を担う二軍投手コーチに左投手が就かないため、左投手に合った指導ができていないという点もあるでしょう。
過去の二軍投手コーチを見てみると、現役時代左投手だったのは、清川栄治と山本和行くらいで、これでは左腕育成が進まないのも納得です。
ただ、来年度から二軍投手コーチにオリックスに在籍経験がある菊池原が就任することが決定し、広島の高卒左腕はトップクラスの成功を収め、かつ他球団所属経験のあるので、その手腕には大きな期待がかかるところです。
②ドラフト上位での獲得が少ない
表②をパッと見ると分かるように、ドラフト1位や2位といったドラフト上位指名された選手が活躍していることが多いです。
その割合を見てみると、26/41で63%がドラフト上位指名となっています。
各球団の育成力という問題も当然ありますが、そもそもの選手の素質の問題も大きいウェイトを占めてくることが窺えます。
一方で広島の指名した高卒左腕のドラフト上位指名の割合を見ると、9/30でわずか30%という結果です。
ここから、そもそも活躍できるような素質のある選手を獲得していないことが分かります。
おそらく下位で指名して、その中から活躍してくれる投手が出てきてくれたら儲けものくらいの気持ちなのかもしれませんが、ノウハウもまともにないようなチームが下位まで残っている高卒左腕を育成できるとは到底思えません。
その辺りの楽観的な思考や見通しの甘さを露呈するデータではないでしょうか。
③制球を意識しすぎて縮こまってしまう
得てして高卒で入団してくる投手(左右に限らず)は、高校時代とプロのストライクゾーンの違いや、少々甘目のコースでも力でねじ伏せることが出来ていたのが出来なくなったりすることにより、多少球速を抑えてでも制球を重視することに重きを置くケースが多いように思います。
この流れ自体は、何らおかしいことだとは思いませんが、広島に限らず多くの球団は制球(=四球を出さない)という部分に重きを置き過ぎて、長所を消してしまっている部分も一つあるのではないかと思います。
中でも広島は、今季も一軍で何度か先発投手が失点は少ないものの制球を乱したため、早々に降板させられることがありましたが、広島というチームの中で四球を出すことを忌み嫌う考え方が根付いているように感じます。
当然その考え方は選手にも大きく影響を及ぼし、四球を出さないことを意識し制球を重視するあまり、高校時代の力強いボールが見る影もなくなり、かつ制球も平凡という何の特徴もない投手になってしまう、というルートに入ってしまうのではないでしょうか。
高卒で入団してくる投手は、技巧派よりも圧倒的に本格派で鳴らした投手が多いわけですから、そこは短所を潰そうとするのではなく、より長所を生かす指導をしてもらいたいところです。(当然最低限の制球力は目指しつつですが)
以上の3点が、私の考える高卒左腕投手育成の失敗続きの要因です。
このように失敗が続いている中、球団としてももう左投手への指導力がないのは分かり切っていますから、あえて育成に自信のある大型右腕投手に対象を絞っていこうという動きも見られます。(例:2017年ドラフト)
ただ同じタイプの投手ばかり揃えてしまうと、それだけ敵チームのスカウティングも容易になり、実力通りに結果を出せなくなる恐れがあるのではないでしょうか。
様々なタイプの投手で投手陣を構成するためにも、左腕は必要だし、右腕と左腕が共存することで相互にプラスに働くはずなので、高橋昴也を筆頭に将来が楽しみな選手の多い今こそ何とか左腕の育成環境の構築にも力を入れてほしいところです。
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