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西川龍馬の長打力向上についての分析

2020年シーズン、鈴木誠也に次ぐ野手の柱として期待されるのが西川龍馬ですが、「天才」とも称されるその打撃力は年々進化を続け、昨年は自己最多の16本塁打を記録するなど長打力を開花させました。

2020年シーズンも既にOP戦が開幕するなど実戦モードに入っている中で、既に3本塁打をマークするなど、本人が目標とする20本塁打も十分に狙えそうな勢いで打ち続けています。

そんな本格的に開花した西川の長打力について、データの側面とメカニクス的な側面から解き明かしていきたいと思います。

1.以前の考察

昨年の8月にも同様に西川の長打力向上について、一本のnoteにまとめましたが、その時の考察の結論としては下記のようになりました。

・データ面
6月以降の長打への意識の高まりからかフライ性の打球の割合の上昇と、ある程度の自由が利き、待球意識が必要な1番打者という打順がマッチして、長打増へ
・メカニクス面
5番に座っていた時期は、チーム打撃を意識してか、高めに対して上から被せるようなスイング軌道を取っていたが、1番に座ったことによる意識の変化からか、高めに対しても下からのスイング軌道へと変化した

ただ個人的にはこれだけでは何とも腑に落ちない部分があったため、第二弾の考察を以下にて行っていこうと思います。

2.データ面からの分析

まずデータ面での分析を再度行っていきますが、以前の考察からは大きく変化はなく、夏場以降に質の高いフライ性の打球を大きく増やしたことが長打力の向上に大きく結びついたと考えられます。

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月別成績を見ると、いわゆる夏場の時期にあたる6月~8月の3か月間で16本塁打中12本塁打をマークしており、純粋な長打力を示すISOも高めに出ていることが分かります。

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もう少し詳細に月別打撃成績をかみ砕いていくと、最下段の2018年の数値と比較すると一目瞭然ですが、FB%が前年の28.5%より常に高い状態が4月から続いています。

GB/FBが1を切り、フライ性の打球の割合がゴロ性の打球の割合を追い越した6月と7月には高いISOの数値を記録するなど、フライ性の打球の増加とともに長打力も向上に向かったことが、ここから読み取れるのではないでしょうか。

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そのフライ性の打球ですが、実は前年からその高品質さは際立っており、上記表を見ても分かる通りフライ性の打球のOPSは1.289(350打席以上立った80名中18位)を記録していました。2019年はOPS1.073と多少その質こそ落としてしまったものの、その母数を79から202まで大きく増やしたことで長打力の向上に繋げていきました

以上より、データから長打力向上の要因を読み取ると、高品質なフライ性の打球を打つ割合を高めたためと言えるでしょう。

3.メカニクス面からの分析

データだけでは、まだまだ腑に落ちない部分があるため、メカニクス的な部分を変化から、その長打力の向上について読み取っていきたいと思います。

まず西川の打撃の基本を確認すると、2018年に前田智徳氏との対談の中で語っているように、バットを寝かせて耳の後ろに構え、でんでん太鼓のようにバットを身体に巻き付けるようにして、身体をくるっと回すことでスイングするような形が基本的な形となります。

体重移動が少なくバットを内から出せる分、正確にボールを捉えることは出来ますが、そもそも身体が大きくなく体重移動も使えていなかったため、長打力が発揮されることは少なく、2018年までの3年間でシーズン最多本塁打は6本と、打者のタイプとしてはアベレージタイプでした。

では、そんな西川がなぜ大きく本塁打数を伸ばすことが出来たのかについて以下にてその真相に迫っていきます。

①打撃始動時に体重移動を意識

2018年以前に行われていなかった動作で、2019年から確認できるのが、下記ツイート中の動画のように打撃始動時に右足左足に大きく体重を移動させながらタイミングを図っている点です。

下記記事に「打撃始動を「静から動」から「動から動」に変えた。軸足となる左足に残した重心を極端に右足へ一度移して再び左足に戻して打つようになった」とあるように、どうも打撃不振に陥っていた昨年4月頃にこのような調整を行ったようです。

これまでは体重移動を極力抑えた打撃フォームであったのが、始動時に両足に交互に体重を乗せ換えながら軸足に体重を乗せることで、しっかりと軸足に加重でき踏み込み足への体重移動も行いやすくなったのではないかと推察します。実際の打撃時の体重移動も軸足から踏み込み足に動いていくため、このような動作を行うことが自然な体重移動に結び付いたのでしょう。

下記の比較画像を見ても、2018年に比べて重心が軸足側にあり、軸足への加重が2019年はしっかり行われていることは明らかです。

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②並進運動が大きくなった

踏み込み足を上げて、そこから投手の方へ踏み込んでいくまでの動きのことを並進運動と言いますが、ここの動きが大きいと当然ながら勢いがつくため、より大きなエネルギーを生むことが出来ます。一方でそれだけ動きが大きくなるため、正確なインパクトが損なわれてしまうリスクもはらんでいます。

そんな並進運動ですが、下記比較動画を見ても明らかですが、西川の場合は軸足にしっかり体重を乗せる分、2018年から2019年にかけてその動きが大きくなっています。

これによって、この後のフェーズである回転運動に必要な勢いを付けることで、より大きなエネルギーを得られるようになりました。その一方で、打率は2018年の.308から2019年は.297と大きな落ち込みはないことが分かります。並進運動は大きくなったものの、頭や目線のブレは最小限に抑えられたために打率の低下も抑えられたのでしょう。本人に合った適切な並進距離を手に入れられたのかもしれません。

ただ投手やタイミングの取りやすさによって使い分けているようで、今年のOP戦1号では足上げを最小限に抑え、体重移動を抑えた形でボールにコンタクトしています。ですので全てのボールに対して並進運動が大きくなったというより、体重移動がしっかり出来るようになったことで新たな選択肢が生まれ、使い分けが出来るようになったという方が正しいのかもしれません。

③骨盤の回転が鋭くなった

2018年までのプロ入り3年間で放った11本塁打中、打った球種はストレートが8本、ツーシームが1本、スライダーが2本と、スピードの速いボールを捉えるケースが多く、体重移動が少ない分ボールのスピードによる反動を貰うことでボールをスタンドまで運んでいました

ただ2019年は上記動画中のように、緩いカーブのようなボールをスタンド上段まで運ぶなど、ただ単に反動を生かすだけでなく、自らの身体から生まれる力を使ってボールを飛ばせるようになっています

なぜこのような変化が起きたかというと、より体重移動を使えるようになったことで、骨盤の回転が鋭くなったことが考えられます。

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西川の打撃は、元来より並進運動後は③~⑤にかけてのように支点となる踏み込み足を伸展させながら、体重移動によるエネルギーを回転運動に転換させ、軸足の股関節を内旋させながら骨盤を鋭く回して強い打球を飛ばすという、坂本勇人、柳田悠岐、吉田正尚らと同じようなフォームでした。ただ一点異なる点があるとすれば、体重移動の大きさです。この体重移動の大きさが小さかったために、骨盤の回転に十分な鋭さが生まれず、ヘッドスピードも上がり切らなかったために、上記の打者のように長打を生むことが出来なかったと推測されます。

それが2019年は、上述のように体重移動をしっかり使えるようになりました。これによって、より大きなエネルギーを踏み込み足にかけられ、回転運動に費やすエネルギーが大きくなります。そうすることで、骨盤をより鋭く回せ、ヘッドスピードの上昇に繋がったことで、強い打球を打つことが出来るようになりました

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2018年と2019年のインパクト時の比較画像を見ると、2019年の方が軸足の股関節がより伸展した状態で、インパクト時にへそが前を向くまで骨盤をしっかり回せていることが分かるかと思います。

④スイング軌道の変化

上記3ポイントによって、打球はより力強くなったわけですが、それでも打球に角度が付かなければスタンドまでボールを運ぶことは出来ません。その点西川は合わせて打球に角度を付けることが出来ていました。28.5%から44.0%というFB%の伸びを見てもそれは明らかでしょう。

5月の27試合連続安打中に見られたように、高めに対して上から被せるようにして点で捉えるスイングをしている傾向が見られます。(動画中の時間1:34、1:57、3:04、3:58)

それが1番に入ってからは一変し、6号本塁打以降は高めに対して低めや真ん中と同様にボールの軌道にバットを入れるスイングに変貌しています。27試合連続安打中は5番に座っていたため、走者を確実に進めたり返すことを意識しておそらくゴロを打ちに行ったという点が考えられますが、1番に入ることで変にチーム打撃に徹する意識を取っ払えたのではないでしょうか。

このように、おそらく打順が変わることによる意識の変化がスイング軌道にも変化をもたらし、打球に角度を付けられるようになったことが、本塁打の量産に繋がったのでしょう。

4.まとめ

そもそも長打を打つのに必要な要素として、何が挙げられるのかというポイントをBaseball Geeksさんの記事を参考に整理すると、下記のようになります。

・スイングスピードを上げるための筋肉量
・アッパー気味のバットの軌道でややボールの下を叩く

スイングスピードを上げるための筋肉量については、下記記事に「オフごとに、それぞれの課題に取り組みつつ、体重増は毎年テーマにしている。計画的な体重増は、そのまま長打力アップにつながっている。オフごとに平均3~4キロ増し、1年目から二塁打や本塁打の数を年々増やし、昨年は本塁打数が自身初の2桁となる16本を記録」とあるように年々体重とともに筋肉量も増やしていることが分かります。

加えて、体重移動をしっかり行う打法の習得により、骨盤をしっかり回すことが出来るようになったことでよりスイングスピードも上がっています

アッパー気味のバット軌道でややボールの下を叩くという点についても、高めに対して被せに行く点で捉えるスイング軌道から、高めも低めと同様にボールの軌道にバットを入れるスイング軌道に変わったことで、それが可能となりました。

以上より、プロ入り当初から毎年増やしてきた筋肉量+体重移動を使える新打法+ボールの下を叩くバットの軌道の3点の実現によって、長打増に繋げることが出来るようになったと言えるのではないでしょうか。

昨年のオールスター終了後に1番に座って以降、59試合で11本塁打(通年換算で27本塁打)、.333/.380/.514/.893とのスラッシュラインを記録しましたが、コンディションさえしっかり維持出来れば、通年成績でこのクラスの成績を収めても全く不思議ではありません。鈴木誠也に次ぐ野手のコアとして、大いに期待しながら2020年の活躍を見守りたいと思います。

参考

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #西川龍馬 #長打力 #本塁打

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