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四球を減らすアプローチの考察~島内颯太郎を例に~

ルーキー投手の躍進が光った2021年の広島において、既存の投手で最も成長を見せたのが島内颯太郎ではないでしょうか。

平均150㎞超で質の良いストレートを持ちながら、投球の7割以上をストレートに頼る投球構成であったり制球難が災いして、入団から2年はこれといった結果を残せずにいました。
ところが、昨年はチェンジアップをレパートリーに加えたためか課題が解消され、シーズン終盤にはセットアッパーに定着しました。

ここでの課題が解消されたとは主に制球難の部分を指し、BB%は16.9%(2020年)→6.8%(2021年)と類を見ないレベルで四球を減らすことに成功しました。
ではなぜここまで四球を減らすことが出来たのでしょうか?
以下ではデータ面から、島内がどのようにして劇的にBB%を低下させたのかを探り、四球を減らすためのアプローチ法の一つとして考察していきたいと思います。

1.過去の制球難を紐解く

まず2年前までの制球難に陥っていた状態について、様々なデータ面から紐解いていきたいと思います。

そもそもなぜ島内は多く四球を出してしまっていたのでしょうか?
そもそもゾーンにボールが行かないのか、ボール球を振ってもらえずカウントが苦しくなっているのか、様々な要因が考えられます。
ここではゾーン率、ボール球スイング率を平均と比較することで、何が要因なのかを探ろうと思います。

2019年にボール球スイング率が平均以下となっている以外はいずれも平均以上で、相対的に見ても決してゾーン率、ボール球スイング率が低くないことが分かります。
島内が四球を多く出してしまっていたのは、何か別の部分に理由があると考えられそうです。
そこで、以下では別の部分と考えられる2点について、考察を加えていきます。

1.ストレート偏重の投球スタイル

島内の投球で最も特徴的なのは、70%以上もストレートを投じるストレート偏重の投球スタイルです。
2020年に70%以上ストレートを投じた投手(30投球回以上)は、この島内と増田達至(西武)のみという事実が、NPBの中でもどれほど偏重な投球スタイルかを伝えてくれるかと思います。

では、なぜこの投球スタイルが四球を多く出すことに結び付くかを考えると、打者側のケアが容易になるからではないでしょうか?

ストレート偏重で、その他の球種はほぼフォークのみという球種構成な以上、打者側の視点で見るとどうしても球種や球速帯を絞りやすくなりますし、対応はしやすいと考えられます。

そのような状態で打者を抑えるには、上記画像のAttackZoneで言うところのShadowやChaseといったより厳しいコースに投げ切る必要性が出てくるでしょう。
しかし、島内にストライクゾーンの厳しい部分に投げ切る制球力はないため、ボールボールとなってしまうといった事態が発生してしまっていたのではないかと推測されます。

2.メンタル面

加えてメンタル面にも課題があったように感じます。

2020年の島内のボールカウント別ストレートのストライク率を、参考までに2021年広島投手陣のボールカウント別ストレートのストライク率を比較してみると、1ボールまでは遜色ないものの2ボール以降は大きくストライク率が下がってしまっていることが分かります。

特に3ボールに関しては、0ストライクだとやや審判のゾーンも広がることから、アバウトに投げ込んでもストライクは取れますし、2ストライクなら打者もゾーンを広げるためにストライク率は高く出ます。
にもかかわらず、島内レベルの球威抜群のストレートをもってしても、10%以上ストライク率が低く出ているのは問題でしょう。

もちろん制球力不足という技術面も大きいのでしょうが、ストレートに完全に張られた中でストレートを投じることへの恐怖や、自分の能力に疑心暗鬼になっていた部分もあるのではないかと察します。
技術不足に加えて、自分のボールに自信を持てていなかったメンタル面が、足を更に引っ張ってしまう状態だったのではないでしょうか。

2.改善ポイント

そんな状態だったルーキーイヤーから2年の島内でしたが、一体何が良くなって大きく四球を減らすことに成功したのでしょうか?
2020年までの課題であった上記2点を中心に、改善ポイントを以下にて分析していきます。

2-1.ゾーン率、ボール球スイング率の変化

まずゾーン率、ボール球スイング率はどう変化したのでしょうか?

ボール球スイング率が3%ほど上昇していますが、四球を大幅に減らすほどの劇的な変化は見られないことが分かります。
投球全体を通してよりゾーンに投じられたり、ボール球を振らせたりといった変化が主ではなさそうです。

となると、どこに四球を大幅に減らすような変化が生じていたのでしょうか?
球種別成績の変化から、それを読み取ってみようと思います。

2020年と2021年で比較してみると、被打率は横ばいながらストレートの被出塁率が.408→.313大幅に低下していることが分かります。
ということは、ストレートに何かしらの変化があったことが、四球の大幅減に結び付いたと考えられそうです。

先ほど挙げたゾーン率、ボール球スイング率をストレートのみに絞って見てみましょう。

ゾーン率については3.4%上昇しており、こちらの上昇も四球減の一因と考えられます。
加えて、ボール球スイング率は更に極端な傾向が出ており、実に9.4%の大幅上昇を見せています。
ゾーンにより投じられるようになったとともに、投球の7割近くを占めるストレートについて、ボール球を振らせられるようになったのが、四球を減らせた大きな要因と考えられそうです。

2-2.新球チェンジアップの波及効果

では、なぜボール球のストレートを振らせられるようになったのでしょうか?
平均球速の上昇といったようにストレートに目に見える変化があれば、非常に説明しやすいところですが、あいにく島内のストレートの平均球速は150.9㎞(2020年)→150.9㎞(2021年)と横ばいで大きな変化は見られません。
ここには、新たにレパートリーに加えたチェンジアップの効果が大きいのではないかと推測します。

そのチェンジアップは元々ルーキー時には投じていましたが、大学時代から握りを変えたこともあって感覚にズレが生じ、2年目は封印する形となっていました。
それを昨年は大学時代の握りに戻したようで、コントロールしやすく、より良い感覚で投げられるようになったようです。

この制球や感覚の安定によって、チェンジアップを追い込んでから使うのではなく、入りのカウントといったストライクの欲しいカウントで投じられるようになりました。

カウント別投球割合を比較してみると、ボール先行ではストレートに頼る面もありますが、有利or平行カウントでは2S1Bを除いてストレートの投球割合が減少し、より積極的にチェンジアップを中心とした変化球を投じれるようになっています

これによって、打者側からすると基本的にストレート一本に絞れば対応できたところに、30㎞近い球速差のあるチェンジアップにも対応せざるを得ない状況となったのです。
加えて、130㎞台中盤を記録するフォークと120㎞台のチェンジアップの落ちる球の間にも緩急が作れ、ストレート含め3つの球速帯が生まれたことも、その状況をより困難にしました。

ストレート偏重の投球の脱却に成功した結果、打者は変化球にある程度意識を向けざるを得なくなり、ストレート一本に絞ることができなくなったことで、威力のあるストレートをより振らせることができるようになったと考えられます。
そして、それが四球を大きく減らすことに結び付いていったのです。

2-3.メンタル面の改善

これらに加えて、自分のボールに自信を持てなかったメンタル面が改善に向かったことも、一因と考えられるでしょう。

「あの試合をきっかけに、自分の球に自信を持って投げられるようになった。ゾーンをめがけて、強い球を投げれば通用するんじゃないかと。コースではなくゾーンで勝負できることで、投球スタイルも変わった」

上記記事からの引用ですが、ここでいうあの試合とは、7/9のヤクルト戦で1点リードの8回に登板した試合のことを指しています。
栗林良吏を温存する関係で回ってきた8回のマウンドを、山田哲人、村上宗隆、オスナのクリーンナップを三者凡退に仕留めたことで、一気に自信を手にしたようです。

加えてボールカウント別ストレートのストライク率も見てみると、2ボール時は前年比で18%、3ボール時は14%と大幅な上昇が見られます。
ボールカウントが増えても決して慌てることなく、通用すると確信した威力のあるストレートを強くゾーンに投げ込んでいくことで、しっかりストライクカウントを稼ぐことが出来ていました

上述のような確かに手にした技術があり、あとは自信だけといったところでこのような困難な場面を乗り越えられたことにより、一つ皮がむけたのでしょう。

3.結論

ここまで島内の四球減のプロセスから、四球を減らすアプローチとして考えられるものをまとめたものが以下のようになります。

・細かな制球力を身に付けることだけが、四球を減らす絶対条件ではない

BB%にして実に10%以上も低下させた島内ですが、彼の投球を見れば分かるように決して細かな制球力を身に付けたわけではありません。

四球を減らすためには、ボール球を減らす必要があります。
そのボール球を減らすためには、ゾーンに投げ込むという考えの他に、打者にスイングを仕掛けさせるという考え方もできるでしょう。
島内の場合は、前者に加えてボール球のストレートを振らせる後者の側面も付いてきて、初めて四球を減らすことが可能になりました。

ということから、四球を減らす上で打者にスイングさせるにはどうすればいいかという考え方は、持っておくべき発想だと考えられます。

・一つの変化球による相乗効果で、その他の球種の威力が向上しストライクが稼げるようになる

島内の場合はチェンジアップがそうでしたが、信頼のおける変化球が身に付くことで、それが他の球種にも相乗効果を与えます。
ストレート一本で対応できたのが、チェンジアップも頭に入れないといけないことで、よりストレートが通りやすくなったと考えると非常に想像しやすいかと思います。

これによって、以前は振ってもらえなかったボール球にも手を出してもらえるようになり、四球減に繋がっていきました。
これも打者にスイングを仕掛けさせることを増やすことで、ボールカウントを増やさないという考え方に繋がってくるところになります。

・ストレートに威力のある投手は、もっと自信を持ってゾーンに強く投げ込むべき

これに関してはストレートに威力のある投手に限定されますが、もっと自信を持って強いボールをアバウトにゾーンに投げ込む意識も重要になりそうです。

MLBの例ですが、上記分析のようにど真ん中のストレートの得点価値が継続してマイナスを記録しているというデータも出ています。
それが高速、かつホップ量の大きいストレートが特に有効ということから、島内のような高品質なストレートを持つ投手にとって、真ん中目掛けて投げ込むくらいの意識はデータ的にも正解と言えそうです。

2006年に広島の監督に就任したマーティーブラウンが、ストライク先行を奨励し意識付けたことで、与四球を前年の539から382に激減させました。
この島内の例を見ても、技術面だけでなく精神的な面も四球減に繋がってくるように思います。
今年の広島もチーム全体としてリーグワーストだった四球減をテーマに掲げ、高橋建コーチを中心にストライク率65%以上などの意識付けも見られますが、これがどれほど成果を生むのか注目していきたいところです。

データ参照


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