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中村奨成が正捕手を掴むために必要なこと

中村奨成が甲子園1大会新記録の6本塁打を放ったのはもう4年前になりますが、プロ入り後の3年は順風満帆とはいかず非常に苦労している印象です。
実際にプロ入り後の成績は一軍出場僅か4試合で無安打と、あれだけ騒がれた甲子園での印象を思い返すと、チーム内にライバルは多いとはいえ物足りなさは否めません。

しかし、成長が止まっているかと言われるとそうではありません。
強烈な肩の強さだけが持ち味だった守備面は、地道な反復練習の効果があってかブロッキングやスローイングのレベルは向上し、打撃面でも昨年の開幕前には二軍ながらOPS1.381を記録、その後のシーズンでも途中まで首位打者を走るなど、プロレベルでも甲子園で見せた爆発力を少しずつ発揮しつつあります。

この春のキャンプでも、実戦では會澤翼、磯村嘉孝、石原貴規と出場機会を分け合いながらも、球界を代表するリリーバー・宮西尚生から三塁打を放つなど着実な成果を収めて、自身初の一軍キャンプ完走を果たしました。

以上のように成長の跡を感じさせる奨成ですが、一軍に定着するとなると上記3捕手の壁を越えなくてはならず、厳しい道のりが待っていることが想像されます。
果たして奨成が正捕手あるいは一軍戦力として活躍するには、どのような道を進んでいくべきかについて以下にて考察を加えていこうと思います。

1.プレーヤーとしての特徴と直近の成長

奨成の今後の指針を考えていく前に、彼のプレーヤーとしての特徴やどのような部分が成長してきたのかについて、触れていこうと思います。

1-1.プレーヤーとしての特徴

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プレーヤーとしての特徴を探るために、上記のような昨年の二軍成績をベースにしたまとめフォーマットを利用していきます。

打撃面の特徴でいうと、純粋な長打力を示す指標のISOが.091でリーグ平均以下と、思いのほか長打は出ていない点が挙げられます。
一方、BB/Kは0.72とリーグ平均を大きく上回るアプローチの良さを見せ、どちらかというと剛というより柔の部分が際立つ成績です。
トータルの打撃力という点でwRAAを活用してみると、-1.9でリーグ平均以下と二軍でもシーズントータルではまだ抜けた成績を残せていないのが現状と言えそうです。

打撃面はまだ課題が多そうですが、走塁面においては元々その快足に対する高評価そのままに、捕手ながら8盗塁を決めています。
走塁指標のwSBも0.7でプラスの値と、成功率もセイバー的に許容範囲内ですから二軍レベルではその快足を生かせていると言えそうです。
↓その快足ぶりは、大盛穂や野間峻祥といったチームトップクラスの俊足野手とも肩を並べるレベルだそうです。

守備面では、捕逸と失策をベースにした守備得点では0.1と平均以上の成績をマークしています。
プロでも武器となるツールとされた強肩ぶりは、二軍の盗塁阻止率データが公になっていないために何とも言えませんが、この春のキャンプでは下記記事のように、スローイングに定評のある石原貴規を上回る盗塁阻止を記録するなど、それなりに高いレベルにあることが窺えます。

ただ配球面には課題があり、シート打撃で大瀬良大地とバッテリーを組んだ際には、大瀬良の意図をくみ取れず何度も首を振られるシーンが見られました。

3/9のオープン戦でローテ入りを狙う矢崎拓也とバッテリーを組んだ際にも、一巡目で捉えられたスライダーをその後は活用できず、選択肢から消してしまったことが炎上の一因ともなってしまっています。
まだまだ経験が浅く、この辺りは実戦経験を積みながら勉強が必要な部分です。

1-2.直近の成長

通年の成績的にはまだまだですが、昨秋や今春には打撃面で成長を感じさせるような場面も増えてきています。

元々バットのヘッドが投手の方に強く向くフォームのため、軌道が遠回りする傾向にありますが、ボールと距離の取れるアウトコースやインロー付近は捉えやすいコースとなります。
昨年のフェニックスリーグでの本塁打や、先日の日本ハムとの練習試合での三塁打はいずれもこの得意ゾーンを仕留めたもので、多くの投手が使わざるを得ないこのゾーンを長打に出来る確率が高まってきているのは、ポジティブな要素ではないでしょうか。

守備面でもブロッキングレベルの向上は確かで、今年行われた実戦(3/15まで)でデータを取れた中で暴投阻止率(暴投数/ワンバウンド投球数)を算出してみると、會澤の3.7%に次ぐチーム2位の4.3%と、ライバルである石原や磯村以上の数値を叩き出しています。
サンプル数が少ないという側面こそありますが、矢崎、薮田、遠藤といった比較的制球が荒れている投手と組んでのこの数値ですから、一定の価値はあると考えられます。

このように少しずつではありますが、成果は出始めています。

2.出場機会をどのように与えるべきか?

過去3年間の成績が図抜けているわけではありませんが、この秋から春にかけての成長や類い稀なる爆発力を見ると、そろそろ一軍レベルに混ぜて少しずつ経験を積ませたいところですが、現実はそう簡単にはいきません。
何といっても大きな問題は、チーム内の捕手の層の厚さです。

ベストナインを3度受賞し、日本代表で正捕手を務めた経験も持つ會澤翼がまず正捕手にどっかり座っています。
その下には、天性のミートセンスで既に一軍レベルの打撃力を有し、スローイングやフレーミングといった守備力も兼ね備える坂倉将吾、フェニックスリーグ3本塁打の長打力とチームトップレベルのスローイング能力を持つ石原貴規がいることから、地元出身のドラ1といえども出番はそう簡単には訪れないことは容易に分かるかと思います。

このような状況の中、どのように一軍経験を積んで戦力化を目指せばよいのかを考えると、現実的なのは守れるポジションを増やすことではないでしょうか。
現正捕手の會澤も、一軍定着前には外野に挑戦して打席経験を積みましたし、坂倉も2年前に外野に挑戦し出場機会を増やそうとしました。
その他の例でいうと、西武の正捕手・森友哉も当初は外野やDHで出場機会を得ていましたし、周囲の状況を鑑みると奨成もその他のポジションへの挑戦を本格的に検討しなければならない状況なはずです。

そこで挑戦すべきポジションはどこか考えてみると、近い将来鈴木誠也がチームを去る可能性が高い上に現時点でも右打者の層が薄く、奨成の持つ身体能力を存分に発揮できる外野手というのがベストではないかと思います。

3.歴代捕手の正捕手に至るまでの過程

捕手というポジション柄、実際に守備についてみなければ何とも言えない部分も大きいと思いますが、上記のように他のポジションで一軍経験を積みながら正捕手を目指す過程は遠回りではないのでしょうか?
歴代捕手を例に、どのような過程をもって正捕手へと定着を果たしたのかを確認することで、他のポジションを経由しながら正捕手を目指すことに対する影響度を測っていきたいと思います。

中村奨成1

歴代捕手を通算1000試合を果たした捕手と活躍度の高かった捕手(通算WAR捕手歴代上位5%)に限定し、彼らがレギュラーに定着するまで(シーズン100試合捕手として出場)どのようなポジション過程を辿ったのかをまとめたものが上記表となります。

他のポジションを経由せずに正捕手へと定着したケースがどちらもおおよそ75%を占め、やはり継続して捕手を務めながらレギュラーへと至るケースが王道のようです。
一方で1B、3B、OF等を守る機会もありながら正捕手に定着するケースは、残りのおおよそ25%あることも分かります。
田淵幸一や矢野燿大といった実績十分の捕手もこのルートを辿っていることから、少数派のこのルートでも十分成功を収めることは可能なのでしょう。

ただこれだけでは、他のポジションを経由することへの影響度を測るには不十分です。
そこで両者の正捕手へと定着するまでの年数に差はあるのか、守備負担の少ないポジションを経由することで打力に影響はあるのか、総合的な貢献量に影響はあるのかの3点を比較し、影響度を測っていこうと思います。

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まず正捕手に定着するまでの年数についてですが、捕手のみの場合が4.4年で他のポジションを経由する場合が7.1年と年数的には約3年の差があることが分かります。
やはり正捕手定着ということを考えると、他のポジションを経由することは年数的に大きく遠回りとなっています。

マイナスな側面ばかりでなくプラスの側面もあり、他のポジションを経由した方がwRC+は高くなっており、攻撃力の高い捕手を生みやすくなるメリットもあります。
もちろん元々打力を評価された捕手がコンバートされるという側面も大きいでしょうが、打撃力という点では負担の少ない状態で一軍経験を与えた方がプラスに働きやすいのでしょう。

ただ上記だけだと「攻撃力の高い捕手を生みやすくなる」という言説の説明としては不十分感が否めないため、負担が大きくなかったであろう正捕手定着前の打撃成績と捕手としての打席数が増える正捕手定着後の打撃成績を比較し、打力にどのような影響があるのかを調べてみます。
手法としては、正捕手定着前後3年のwRAA(平均的な打者が同じ打席数立った場合に比べて増やした得点)を比較してどのような推移だったのかを、そのまま正捕手に定着したケースとその他のポジションを経由したケースそれぞれで比較していきます。

※以下表のwRAA向上は前後比+5.0以上、wRAA維持は±5.0以内、wRAA低下は-5.0以下を示しています

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他のポジションを経由したケースでは、46.7%がwRAAを伸ばしているのに対し、そのまま正捕手に定着したケースでは33.3%しかwRAAを伸ばせていません。
逆にwRAAを低下させたケースだと、他のポジション経由では20.0%でそのまま正捕手に定着するケースでは47.2%と、ここにも大きな数値の開きがあります。
ということから、正捕手定着後の打撃の伸び率は他のポジション経由のケースの方が上であることが分かりますし、守備負担が軽い方が打撃も伸びやすいのでしょう。

加えてWARで見ても、正捕手定着に時間のかかる他ポジション経由組の平均が17.3なのに対し、早々に定着する捕手のみを務める組は18.3と大きな差はありません。
ですのでトータルの貢献量を考えると、遠回りでも何でもないのです。

年数こそかかってしまいますが、トータルの貢献量に差はなく、他のポジションを守りながらでも正捕手奪取のチャンスはあるため、奨成に対して今はとにかく捕手であることにこだわらず一軍での経験値を優先すべきだと言えるのではないでしょうか。
それによって課題の打力の向上も目指せますし、坂倉や石原との差をここで埋めることにも繋がっていき、捕手争いはますます加熱したものになるはずです。

以上より、奨成の将来を考えても、他のポジションを挑戦させた方がプラスに働きそうなのが分かるかと思います。
捕手から他のポジションに飛ばされることは、守備面がマイナスに捉えられているようで何となくマイナスなイメージですが、決してそうではなく将来的な正捕手取りへ向けた準備なのです。
あの森でさえ捕手として100試合出場を超えたのは6年目ですから、とにかく今必要なのは一軍で経験を積むことでしょうし、どうすれば最も選手として奨成を生かすことが出来るのかを考える必要があるのではないでしょうか。

追記

このnoteを出す直前のタイミングで行われたウエスタンリーグ開幕戦にて、奨成がRFにてスタメン出場を果たしました。

高二軍監督は今後の3Bとしての起用も示唆しており、あくまでオプションですが出場機会増のために捕手以外のポジションへ挑戦していくようです。
おそらく出場機会は増えるでしょうし、これが覚醒のきっかけになってくれればうれしい限りです。

データ参照

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #中村奨成 #捕手

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