森下暢仁の成績低下の要因を考えてみる
10勝3敗防御率1.91と、ルーキーイヤーとしては傑出した成績を残した森下暢仁ですが、2年目となった2021年は8勝7敗防御率2.98と成績を落とすこととなってしまいました。
2年目に入って対戦球団からのマークが厳しくなったこと、11月までシーズンが続いたことで2020年→2021年のオフ期間が短かったこと、シーズンを中断して行われたオリンピックへ参加したことによって疲労が蓄積してしまった、
等々の理由は考えられますが、実際のところ一体何が最も成績低下に結び付いてしまったのでしょうか?
当然内情は分かりませんので、各種データからその実態を解き明かしていこうと思います。
1.データから見える昨年からの変化
森下が登板している試合を見ても、ボール自体は昨年から大きな変化ないように感じます。
実際に平均球速を見ても昨年から低下した様子は見られず、球速が落ちて打ちやすくなったという具合ではないようです。
ただ様々なデータを見ていくと、前年比で大幅な変化が見られる項目が見つかります。
それは①K%、②HR/9の2点です。
まずK%についてですが、25.6%から19.6%へと大幅に低下している様子が見て取れます。
80イニング以上に限ると2020年はNPB4位(40人中)の高水準でしたが、2021年は29位(56人中)と相対的な位置も大きく落としてしまっています。
24登板中19試合がQSと大崩れすることなく試合を作っていたにもかかわらず、昨年と比べて圧倒感がなかったのはこの辺りが要因なのでしょう。
続いてHR/9ですが、こちらも0.44から0.88と倍増してしまっています。
1試合3本塁打を浴びた試合が2試合あったように、1試合で複数本塁打を浴びた試合が2020年の1試合から5試合に増加と、まとめて一発を浴びるケースが多く、防御率の悪化にはここが大きく結び付いてしまったと考えられます。
フライ性の打球が増加していることや、好投手故に一発狙いのアプローチを敷かれていることが要因なのかもしれません。
では成績低下の要因となったと考えられるこれらの変化は、何故生じてしまったのでしょうか?
以下では、この2点の変化が生じた要因を詳細に解き明かすことで、成績低下の要因を探っていこうと思います。
2.K%の低下
まずなぜK%が落ち込んだのかについて、考えていこうと思います。
ざっと考えられる三振が奪えなくなる要因を挙げてみると、①追い込まれる前に早打ちされる、②追い込んでからの決め球で仕留めきれない、③追い込んでからの制球が甘い、といったことが挙げられるかと思います。
これらを一つ一つ森下に当てはめて検証してみたいと思います。
①追い込まれる前に早打ちされる
三振は2ストライク取られないと起きない事象なので、逆に捉えれば2ストライク取られる前に前に飛ばせば三振を喫することはありません。
2ストライクまで追い込まれると基本的に打率は極端に落ちるため、特に森下のような好投手相手となると、最もチャンスのあるファーストストライクから積極的にスイングを仕掛けるようになるのは自然の流れではないでしょうか?
実際各ストライクカウント時の打数を比較しても、0ストライク時で今年は昨年と比べて4.7%の増加が見られ、若いカウントから積極的に打ってこられている様子が垣間見えます。
スイング率自体も、追い込まれる前の1ストライクまでは小幅ですが上昇していることから、やはり追い込まれる前に勝負していく考えは各球団持っていたのでしょう。
逆に森下としては前へ飛ばさせないよう、空振りやファウルを取れれば問題ないかと思います。
しかし空振り率は横ばいでファウル率は微減と、積極的にスイングを仕掛けてくる各球団の対策を振り払うほどのボールの威力は見せられずじまいでした。
やはり、各球団の若いカウントを狙う対策によって、追い込む局面に持ち込めずに三振が減った側面は少なからずありそうです。
②追い込んでからの決め球で仕留めきれない
三振を奪うのに最も重要となってくるのが、2ストライク時に投じる決め球の威力ではないかと思います。
威力があると空振りを奪えて三振は増えるでしょうし、逆に威力がないとストライクからボールになる変化を見逃されたり、ファウルで粘られたりするのではないでしょうか?
ということで、各球種の威力を測るべく球種別の2ストライク時のPlate Disciplineデータを比較してみると、大幅な変化が見られる球種があります。
それはカットボールです。
コンタクト率が73.6%から82.1%まで悪化し、それによって空振り率も17.5%から11.1%へと大幅に低下と空振りを取れなくなっています。
追い込んでからストレートに次いで投じられる、このボールが威力を発揮出来ていなかったことが、K%の低下に結び付いてしまっていた可能性は高いと考えられます。
③追い込んでからの制球が甘い
また、いくらボールに威力があっても、追い込んでから甘いゾーンにボールが投じられれば、打者側も対応しやすくなるのではないかと考えられます。
甘いコースから落とすフォークやチェンジアップといった球種はまた話が変わってくるでしょうが、森下が追い込んでから多く投じるストレートやカットボールは、ボールの威力+コーナーに投じられる制球力が大事になってきそうです。
コースを25分割したものを投手目線で見たものが上記となります。
追い込んでからのストレートの各コースへの投球率を見ると、今年は左打者のアウトコース、右打者のインコースへの投球率、全体的に低めゾーンへの投球率の上昇が見られます。
真ん中ゾーンへの投球率も大きく上昇は見られないため、前年比で制球が甘くなっているとは言えなさそうです。
一方、カットボールになると少々話が変わってきます。
真ん中ゾーンへの投球率が17.5%→25.8%へと大幅上昇しており、右打者に対するアウトロー、左打者に対するインローと追い込んで最もカットボールを投げ込みたいゾーンについても、35.5%→30.6%と投げ切れていません。
ボールゾーンへの投球が増えている点を見ても、カットボールが決め球として機能しなくなっているのは、このような制球面の低下が要因なのかもしれません。
3.HR/9の上昇
続いてHR/9の上昇についても、上記と同様に考察を加えていきたいと思います。
このような事象が発生した要因を考えてみると、①フライ率の上昇、及びその質の悪化、②球質、制球の変化、③他球団の研究の成果、といったものが考えられます。
これらを一つ一つ検証していきたいと思います。
①フライ率の上昇、及びその質の悪化
まず最初に考えられるのが、単純にフライ性の打球を浴びることが増えた、もしくはその質が悪化してハードな打球を飛ばされるケースが増えたという点ではないでしょうか?
フライにおける本塁打の割合は長い目で見ると一定値に収束する傾向にあることから、フライが増えればその分本塁打を浴びる確率も上がりますし、そのフライの質が悪化したなら尚更でしょう。
ということで、2020年と2021年のFB%、及びフライ性の打球時の打球方向とHard%/Soft%を比較してみました。
FB%は37.7%→44.2%まで上昇し、逆方向への打球を示すOppo%は47.2%→36.1%まで低下、Hard%は28.6%→35.0%まで上昇していることが分かります。
要するに、フライ性の打球が増えて、かつ強い打球になりやすいセンターから引っ張り方向への打球も増加、その打球の強さも悪化しているということになります。
これだけフライ性の打球に対する指標が悪化しているとなると、被本塁打が大幅に増えてしまうのも当然と言えそうです。
②球質、制球の変化
上記のようなフライ性の打球増加、及びその質悪化はどのように引き起こされたのでしょうか?
考えられるのは、フライ性の打球を打たれやすい球質への変化、制球力が落ちて真ん中や高めといった打者の打ちやすいゾーンに入りやすくなった、といったことになると思います。
球質の変化を探るために各球種のGO/AOの変化を確認してみました。
最も顕著な変化を見せたのがストレートで、1.00→0.54とフライ性の打球を浴びるケースが明らかに多くなっています。
ということから、ストレートに関しては元々ホップ系だった変化がより大きくなったのかもしれません。
その他の球種も全て前年比でフライ系に寄っているため、ストレートに限らず全体的にホップ成分が小さくなっていた可能性も考えられそうです。
制球力については、K%の低下の考察部分のようにコースを25分割したものを球種別に確認していきます。
まず最も本塁打を許しているストレートですが、真ん中ゾーンに入るケースは21.3%→23.6%とやや増加していますが、高めに浮くケースは36.4%→34.5%に減少しています。
両サイドの制球に苦労していたようで、実際に真ん中に入ったボールが3本本塁打になっていることから、両サイドへの制球の乱れが被本塁打の上昇に繋がっていると考えられます。
最も甘く入るケースが増えているのが、2ストライク時と同様にカットボールで、真ん中ゾーンに入るケースが4.5%増、高めゾーンに浮くケースは3.5%増となっています。
その高めに浮いたカットボールで3本中2本の本塁打を許しているため、この球種に関しても制球の甘さが多少は影響していると言えそうです。
2020年は被本塁打0本だったにもかかわらず、2021年は4本の被本塁打を許したカーブはどうなのでしょうか?
コースを狙う球種ではないため高さのみに着目すると、低めへの投球率が58.7%→61.8%と上昇しており、むしろ低めにボールが来るケースの方が増えていることが分かります。
カーブに関しては、制球の乱れが被本塁打増に結び付いたとは言えなさそうです。
最後にチェンジアップですが、左打者からは遠く、右打者からは近いコースに投じられていたのが、今年はより内のコースに流れる傾向が強まっていることが分かります。
ただ今年許した2本塁打はベルトゾーンに浮いたものという共通点を考慮すると、あまり内に流れていることと被本塁打増の間に関係はないのかもしれません。
③他球団の研究の成果
昨年あれだけの活躍を見せたことやデータが蓄積されたことで、当然ながら他球団のマークは厳しくなるものと予想されます。
それがどこに現れるか考えてみると、スイング率ではないかと考えます。
蓄積データからこのカウントはこの球種といった傾向は出ているでしょうから、それに基づいて対策を立ててるとしたら、スイングの仕掛けの部分に変化は生じているはずです。
ということでボールカウント別の各種成績を見ると、一定の打数があって最もスイング率に変化が見られるのがボールカウント0、もしくは1の際のカーブです。
スイング率に10%以上の上昇が見られ、カーブの被本塁打はいずれもこのカウントとなっています。
比較的カーブが多く投じられるカウントであることから、ボールカウントが浅い段階でのカーブは昨年の傾向から、しっかりケアされるようになったことが、この結果を生んでいるのかもしれません。
カーブの被本塁打増加に関しては、制球が問題ではないと述べましたが、この他球団の研究の成果が実を結んでいると捉えられそうです。
4.立て直しに必要なこと
K%の低下、HR/9の上昇の要因についてまとめると、下記のようになるかと思います。
K%の低下
・若いカウントから積極的にスイングを仕掛けられることで、2ストライクまでカウントが進むケースが減少した。
・追い込んでから、カットボールで空振りが取れなくなった。
・そのカットボールが、追い込んでから振らせたいコースへ制球出来なくなった。
HR/9の上昇
・フライ性の打球増加、かつその質の悪化によってハードなフライを打たれる数が増加した。
・球質が更にホップ方向に変化した可能性がある。
・ストレートやカットボールの全体的な制球力低下
・若いカウントのカーブをケアされることで、取りに行ったカーブを捉えられるケースが増えた
球質的に被本塁打が増えるのはある程度仕方ないのかもしれませんが、K%の低下については明確に立て直しが効く部分だと思います。
立て直しに何が必要かと考えると、今年課題となったカットボールの精度とともに、スプリット系の新たな縦変化の球種習得ではないでしょうか。
今年からスプリットと称する球種を投じていますが、実態は少し抜いたツーシームのようなボールで、空振りを多く誘えるボールではありません。
チェンジアップもストレートとの緩急差を利用するボールなので、空振りを誘う上で最もポピュラーな鋭く縦に落ちるボールがないのが現状です。
となると、フォーク、スプリットのような球種を習得するのが手っ取り早いように感じます。
チェンジアップとスプリット系の両立自体は、日本ハム・上沢直之や楽天・則本昂大ら多くの投手が実践しているように、決して不可能な話でもないので、今オフは疲労を抜きながら新球習得をテーマに掲げて取り組んでほしいと思います。
データ参照
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