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崖っぷちからの覚醒?〜中村恭平〜

2010年当時、投手力不足に苦しんでいた広島は、同年のドラフトにて多数の投手を指名しましたが、その中で1位指名された福井優也(現楽天)に次いで、ドラフト2位で指名されたのが中村恭平でした。

今や多数のプロ野球選手を輩出する富士大学の出身で、当時は中村自身中央球界では無名の存在でしたが、しなやかなフォームから繰り出すMAX153㎞の速球と将来性が認められ、ドラフト2位という高評価を得ました。

しかし、プロ入り後は制球難に苦しみ、2013年や2016年には一時先発ローテーションに入ることはあっても定着とはいかず、年齢も30歳を迎えるということもあり、そろそろ整理対象選手に入ってもおかしくない、崖っぷちの存在でした。

そんな中村ですが、崖っぷちに立ち開き直ったのか、数少ないチャンスをつかみOP戦中に一軍に昇格すると、150㎞近い速球と130㎞中盤を記録するスラッターを武器に、昨年までとは別人のようなボールを投げ込み、一軍レベルの打者を圧倒して見せました。

その後、制球難が顔をのぞかせ、開幕一軍メンバーからは外れたものの、4月中旬には一軍昇格を果たし、まだ登板数は少ないものの、ここまで圧巻の投球を見せています。

そんな覚醒の気配を見せる中村について、以下にて分析していこうと思います。

1.昨季までの中村恭平

入団当時はストレートに威力はあるものの、ろくな変化球を投げられず、かつ制球難も重なり、一軍では活躍できない時期が続きました。

2013年と2016年には、一時期先発ローテーションに定着し、それぞれ1勝を挙げたものの長続きはせず、プロ入り後8年間は一軍に定着することはありませんでした。

概略を振り返ったところで、ここからはもう少し細かい投手としての特徴を見ていきます。

2014年以降の球種配分と平均球速をまとめたものを見ると、わずか1試合の登板に終わった2015年を除くと、140㎞そこそこのフォーシームとフォーク(シンカー)が中心のボールとなっています。

30%付近のフォーク(シンカー)の投球割合は、NPB内でも屈指の投球割合(2016年は10位、2018年は2位)で、このボールでフォーシームの球威不足をカバーするような投球スタイルでした。(2018年はシンカーでの割合)

そのような目くらましの投球スタイルは、一時は通用すれども長く通用することなく、入団時に期待した姿とは全く別ベクトルへと進んで行っていました。

今度は、打球性質や打者の反応から読み解いて見ると、K%を上回るBB%を記録しており、球威に欠け、かつ制球難に陥っていたことが分かります。

また、SwStr%(全投球に対する空振り率)はフォーク(シンカー)主体の投球ながらもリーグ平均を下回るもので、昨年に至ってはO-Swing%の大幅下降から、ボール球にも手を出してもらえなくなってきていることが分かり、FB%も大きく上昇と、この投球スタイルの限界を感じさせるような数値が並んでいます。

ここまでの振り返りからも分かるように、フォーク(シンカー)主体の投球にしては厳しい数値が並んでおり、年齢や実績を鑑みても昨年の時点で見切られてもおかしくない選手でした。

2.今季の進化

そんな中、2019年シーズンもプレーを行うチャンスを得たわけですが、そこから自身の中でも開き直りがあったのか、プロ入り当時のフォーシームで押していくような投球スタイルへの回帰を推し進めました。

>「結果を気にせずに、2軍でやってきたことを出せるように。(対阪神も)相手は気にせずに自分の投球ができれば」。今季は原点回帰で真っすぐの精度を高めてきた。

上記は昨年の記事からの引用ですが、原点回帰で真っ直ぐの精度を高めてきたとあるように、実は昨年からフォーシームを磨きなおそうという意識があったことを感じ取れます。

昨年一年ではその取り組みは結実しませんでしたが、首の皮一枚繋がった今季は結実の時を迎え、フォーシームのスピードは大きく向上し、それと比例して変化球の球速も上がりました。

今季の球種配分と平均球速を見ると差は歴然ですが、フォーシームの球速は前年から5.2㎞上昇し、かつスライダーの高速化に伴いスラッター化に成功することで、前年までのフォーク(シンカー)で躱すスタイルから、フォーシームとスラッターの2ピッチで押していくスタイルの確立に成功しました。

加えて、今季の打球性質や打者の反応を確認すると、大きな変化点としては、K%やBB%の高さ、FB%の高さ、Contact%の減少、SwStr%の増加、Zone%の増加の4点となります。

FB%の異常な高さは、おそらくホップ型のフォーシームを投じているという点が大きいのでしょう。GBPの多い広島投手陣の中にあっては、アクセントとも成り得る貴重な存在です。

Contact%の減少とSwStr%の増加には、おそらく相関関係があり、この数値の変化には、上記のように150㎞のホップ型フォーシームを手にしたことと、スライダーのスラッター化により、打者の空振りを誘えるボールになったことが要因と思われます。

最後にZone%の増加は、自身の投じるボールに自信を持ち始めたからなのでしょうか。ただ、ボールへの自信があるためにストライク先行の投球が出来ているという側面があるのは間違いないはずです。

ここまで大きな変化をもたらした要因には、フォーシームが自身のウリであると認識した意識の変化だけでなく、フォームにもその要因は求められます。

こちらも比較すると一目瞭然ですが、2016年はスリークォーター気味に出ていた腕が、2018年には首の位置を傾け縦振りの意識が見え始めて、2019年にはチームメイトのフランスアばりの強烈な縦振りとなり、リリース時に上からボールを叩けるフォームへと変化しました。

そのため、空振りの誘える高回転のホップ型フォーシームを投げることが出来るようになり、スライダーは縦に切れ込むような軌道へと変化し、球速アップも相まってスラッター化に成功しました。

3.今後の起用法

ここまでは、敗戦処理のポジションから徐々に位置付けを上げていき、直近では1点負けの終盤や崩れかけた先発の後を受けるなど、首脳陣の中での格付けは上がりつつあるように見えます。

現状、勝ちパターンを担う投手としては、一岡竜司、フランスア、中崎翔太の3名がおり、その下にはK・レグナルトがいるなど、ボール自体は勝ちパターンで投げられるものを持っていますが、今すぐこの枠に入り込むのは難しいでしょう。

当面は、現状と同様の起用が続くと思われますが、個人的には、打者をねじ伏せ、チームに流れを引き寄せるような投球が出来るところから、試合中盤のピンチを摘み取るような「ストッパー」的起用も可能なのではないかと感じています。

また、勝ちパターンの投手の疲労度や状態によっては、勝ちパターンに組み込むことも当然アリでしょう。

4.まとめ

・昨季まで
速球派左腕として期待されたものの、制球難に苦しみ、フォークやシンカーを多く混じえながら躱していく投球スタイルで、一時的に一軍に定着したもののそのスタイルは限界を迎え始める。
・今季の進化
昨季から取り組んでいたストレートの精度向上の成果が表れ、150㎞を超えるストレートを取り戻し、かつ身体を縦に使えるようになったことからスライダーのスラッター化にも成功。

以上が、本noteのまとめとなります。

誰も予想だりしない覚醒を見せている中村ですが、個人的にはまだ伸びる余地はあると思っています。

それは、昨季まで多く投じていたフォーク(シンカー)を今季ここまではほぼ投じていない点です。

フォーシームとスラッターで90%以上の投球割合を占めており、左打者相手にはこれでも十分やっていけるでしょうが、右打者相手には逃げていくボールがないため、短いイニングを投げる上でそうはないでしょうが、今後攻め手不足に陥るかもしれません。

実際、今季ここまで浴びた安打3本は、いずれも右打者から浴びたものです。

ですので、今後楽な場面ではフォーク(シンカー)も試しながら、自らの投球の幅を広げていくことも必要になってくるのではないでしょうか。

いずれにせよ、左腕不足かつリリーフ陣に不安要素を抱えていたチームにとっては、非常に貴重な存在であるため、新しいおもちゃを手にした幼児のようにすり減らすような起用を行うのではなく、キチンと管理された起用を行ってもらいたいものです。

※最後に中村恭平の投球動画を置いておきます。

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #中村恭平 #左腕

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