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大瀬良大地の2021年は復権の一年となるのか?

佐々岡政権2年目となる2021年、開幕投手に指名されたのは新人王・森下暢仁でも、昨年初の規定投球回到達を果たした九里亜蓮でもなく、過去2年開幕投手を務めながらも昨年は怪我に泣いた大瀬良大地でした。

手術明けでどの程度コンディションが戻っているかが心配されましたが、2/28に対外試合初登板を果たして以降、怖いくらい順調な結果を残し続けてきたことで心配を払拭した点は、さすがエースといったところです。

昨年は右ひじへ不安を抱えていたことから、球速が低下し思ったような投球が出来ませんでしたが、そこからこの春どこまで状態を上げてきているか、結果だけでなく内容が気になる方も多いのではないでしょうか?

そこで本稿では対外試合4登板分のデータから、大瀬良のボールの質や投球内容がどれほど手術前の状態に戻っているかについて迫りつつ、エース復権の一年となるかについても考察していこうと思います。

1.投球成績

大瀬良1

4試合18イニングを投げて無失点と文句のつけようのない成績です。
特に光るのが奪三振率の高さで、35.5%というと昨年の山本由伸(30.2%)や千賀滉大(29.6%)をも上回る数値だというと、その高さが想像つくかと思います。
被打率.121、被OPS.315という成績もずば抜けたもので、3年連続の開幕投手へ向けて死角なしと断言できる出来です。

大瀬良3

昨年は被OPS.833を記録するなど大瀬良が長年苦手としてきた左打者に対しても、被OPS.294と圧倒しており、打者の左右でK%やBB%に差がないのも好材料です。

大瀬良2

もう少し踏み込んで、打球性質やPlateDisciplineデータから投球成績を読み解いてみます。

ゴロアウトとフライアウトの比率を示すGO/AOでは0.61との数値で、これは即ちフライアウトの割合の方が多いことを示しています。
過去2年は逆にゴロ率の方が高く出ている一方、自身のキャリアハイの成績を収めた2018年はフライの多い打球性質を示していることから、大瀬良本来のボールの質が戻ってきているとも捉えられるのではないでしょうか?

PlateDisciplineデータを見ても、O-Swing%(ボール球スイング率)以外はほぼ2018年の水準に戻っており、とりわけ過去2年低下傾向だったSwStr%(空振り率)が上昇傾向なのは、かなりポジティブな要素なのではないかと思います。

2.球種別成績

続いてもう少し大瀬良の投球を掘り下げていくため、球種別に昨年の成績と比較しながら、どのような変化があったのか確認していきます。

2-1.ストレート

大瀬良4

大瀬良5

右ひじを痛めていた影響か昨年は平均球速が1.2㎞低下してしまいましたが、今年の4登板平均球速も同程度となっています。
ただ登板を重ねるごとに球速は上昇してきて、最終登板では147.3㎞までその水準を上げてきているため、特に心配は不要でしょう。

画面越しに投球を見ていても、ストレートの威力が戻ってきたと感じられますが、数値で見ても空振り率は向上し、ストレートを打たれての安打は僅か1本(それもどん詰まり)ということからもそれが実感できます。
投球の根幹となるストレートの威力向上が、その他のボールへの相乗効果も生んで、トータルでの好成績へと結びついているように思います。

大瀬良6

左右打者別のストレートのコースプロット図(投手から見た図)ですが、右打者にはインコースとアウトコースを満遍なく投げ分け、左打者に対してはアウトコースを突くケースが多いことが分かるかと思います。
特に左打者のアウトコースにキッチリ決まっていることは、同じくアウトコースに投じられるバックドアのカットボールやフォークといった、ストレートの軌道から変化していくボールにも良い相乗効果を与えており、それが対左打者への好成績に結び付いているのでしょう。

2-2.カットボール

続いて大瀬良が得意とし、球界でも屈指の切れ味を誇るカットボールはどうでしょうか?

大瀬良7

大瀬良8

とりわけ平均球速や投球割合に大きな変化はありませんが、ストレートの威力が増した相乗効果からか空振り率が3.7%向上しており、被打率も.120と圧巻の成績です。
特に直近2登板では80%以上の高いストライク率を維持しながら、空振り率も20%を超えるハイレベルぶりで、かなり仕上がっている様子です。

大瀬良9

カットボールのコースプロット図を見ると、右打者にはほぼアウトコースにコントロールしきり、左打者にはバックドアを多用していることが窺い知れます。
左右両打者どちらにおいても、カットボールをアウトコースにきっちり投じることが生命線と言えそうです。
また、数は少ないながら右打者に対して意図的にインコースを狙った、いわゆるフロントドアのカットボールも投じており、今後は更に使い方の幅が広がりそうな予感です。

2-3.スライダー

カットボールと似た軌道で、10㎞ほど球速差があるため緩急を付けられるスライダーは、ここまではそれほど大きな威力は発揮していません。

大瀬良10

大瀬良11

被打率は.000ですが、空振り率は昨年から大きく低下している様子が窺えます。
登板別に見ても、直近2登板ではストライク率が大きく低迷しており、あまり上手く活用できていない様子です。
曲がる系のボール中で緩急を付けられるのが大瀬良の強みでもあったので、このスライダーの使い方は再考の余地がある部分かもしれません。

大瀬良12

スライダーのコースプロット図を見ると、基本的にはカットボールと似たような使い方で、右打者には徹底してアウトコース、左打者にはバックドアで入れてくるものと、膝下に曲げて空振りを狙いに行くものの2種類あると言えそうです。
それほどコマンドにブレはなく、ボールの軌道におかしい印象もないので、使い方さえ間違えなければそれなりに武器となるボールなのではないでしょうか?

2-4.カーブ

非常にスピンが効いており、昨年は被打率.087と地味に武器となっていたボールですが、こちらも数値的にはスライダー同様そこまで大きな威力は発揮していません。

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カウント球で使用されるボールのため、被打率を見ても仕方はありませんが、空振り率は昨年の水準には及んでいません。
ただストライク率に関しては、60.6%を記録した昨年と大きな差はないですし、ボール自体が昨年から何か変化があったわけでもないので、自然と使っていくうちに数値も向上していくのではないかと思います。

大瀬良15

カーブのコースプロット図を見ると、右打者にはブレなくアウトコースにきっちり決まっていますが、左打者にはゾーンの中でバラついている印象です。
打者のタイミングを外すことが目的なため、コースにはそこまで拘る必要はないとは思いますが、若いカウントであまりに甘めにスッと入ると、好打者はそれに反応して痛打を浴びせてきますので、特に左打者に対してのコントロールは少し気を使った方が良いのかもしれません。

2-5.シュート

昨年それまで投げていたものから改良し、開幕から2戦連続完投勝利の主要因ともなったシュートですが、3/13の登板から使用を解禁したようです。

大瀬良19

大瀬良20

昨年は左打者に多用していましたが、今年はどちらかというと右打者に多めに使っているのが相違点になります。
まだ使用頻度は低いですが、今年も140㎞前後で右斜め下に食い込む独特の軌道は健在で、生かし方によってはかなり武器になるボールかと思いますので、開幕してからはこのボールの使い方に注目していきたいと思います。

大瀬良21

シュートのコースプロット図を見ると、右打者には投じたいコースであろうインコースにきっちりコマンドされていることが分かる一方、左打者には僅か3球のサンプルですがアウトハイに浮く傾向にあることが分かります。
特に左打者に対してアウトコースに決まると、球速帯の被るカットボールとの出し入れが強力な武器となるため、ここのコマンドは要改善です。

2-6.フォーク

長年の課題であった落ちる系のボールですが、ここまではフォークが非常に威力を発揮している様子です。

大瀬良16

大瀬良17

これまでのボールと比較すると、しっかり落差が出るようになった印象で、その印象通り空振り率が28.0%まで大幅に向上しています。
左打者に落ち際を拾われるケースがありましたが、フォークを本格的に活用し始めた直近3登板では空振り率が高いレベルで安定しており、決め球として申し分のない威力を誇っています。
このボールが威力を発揮することで、大瀬良がよく活用するバックドアのカットボールが威力を増しますし、左打者に対する成績が劇的に向上しているのもこのボールの精度向上が大きな影響を与えているのではないかと思います。

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フォークのコースプロット図を見ると、左右両打者に高めに浮くことなくきっちり低めにコマンドされていることが分かります。
しっかり落差が出るようになったことも、空振り率の大幅向上の要因でしょうが、それにコマンド能力が追い付いていることも、主要因の一つなのでしょう。

3.復権の一年と出来るのか?

最後に2021年を復権の一年と出来るかについて、私の見解を示すことで本稿の締めとしたいと思います。

最初に結論から述べると、プレシーズンで投じられたボールを公式戦でも投じられれば、間違いなく復権の一年となると言えます。
そう言える理由を挙げると、キャリアハイの成績を残した2018年と様々な部分で酷似してきているのが一番です。

上記にて述べたように、PlateDisciplineデータはキャリアハイ時とそん色ないものですし、フォークの質が向上して左打者を封じた点も非常によく似ています。
2019年の夏ごろから身体(おそらく右ひじ)に違和感を抱えた状態で投げ続けてきたいたそうでで、その不安が払しょくされれば2018年~2019年前半のボールが投げられるようになっても全くおかしな話ではありません。

身体の状態が万全に整い、ボールの質が復活してきた大瀬良がどれほどのパフォーマンスを見せてくれるのか、ここから長いシーズンが始まりますが、非常に楽しみです。

データ参照

2021プロ野球オール写真選手名鑑(日本スポーツ企画出版社)

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #開幕 #大瀬良大地

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