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歴代遊撃手の守備指標推移から見る、小園海斗守備力向上の可能性

2021年シーズン、二軍スタートから見事にSSのレギュラーの座を奪ってみせたのが、高卒3年目を迎えた小園海斗です。

起用当初から3割を大きく超える打率をキープし続け、後半戦開始後には落ち込みを見せて.300を割り込んだものの、最終的にはあと1安打で3割到達となる.298まで戻してみせました。
本塁打は5本と、期待された長打力を完全に発揮は出来てはいませんが、後半戦以降は外野深くまで運ぶような力強い打球も増えてきており、打撃面に関しては一定の成果があったと考えても良いでしょう。

一方で守備面では苦労が続きました。
試合を見ていても横の守備範囲が狭く感じられ、それが抜けていくかと感じる場面が少なくありません。
UZRで見ても、SS内で下から2番目の-13.2と大きく低迷してしまいました。

中でも大きな問題は、UZRの内訳の中でも、守備範囲を示すRngRで大幅なマイナスを叩き出してしまっている点です。
坂本勇人や菊池涼介といった現在守備の名手とも呼ばれる選手は、守備範囲は広いながらも失策も多かった若手期間から、年を経るごとに徐々に確実性を増して名手と呼ばれるまでになりました。
そう考えると、21歳の小園が守備範囲の面で大幅なマイナスを出してしまっているのは、将来的に守備面の改善が見込みにくく、SSに止まり続けられるかといった問題にも繋がってくると考えられます。

確かによく足が動くであろう若手の間に守備範囲が狭いと、その後の改善もあまり見込めなさそうですが、本当にそうなのでしょうか?
ここでは歴代SSの守備指標の推移から、現時点で守備範囲の狭い小園にも守備力改善の可能性はあるのかについて、迫っていこうと思います。

1.年齢ごとの守備範囲推移

そもそもですが、直感的に若いとしっかり動ける分、守備範囲が広いように感じてしまいますが、それは果たして真なのでしょうか?

ここではNPB STATSさんが算出されている、守備範囲指標のrRngを使用して、この指標の推移から守備範囲の変化を確認していきます。

手法としては、上記noteに記されているような年齢間での指標の変化を、少ない方の試合数で加重するような形を取りました。
なお対象は1946年以降にSSを規定以上(チーム試合数×2/3)守った選手としています。

SS守備範囲1

横軸を年齢、縦軸をrRngの変化量として、年齢ごとにrRngの推移を示したものが上記表となります。
上下こそありますが、基本的にはFS(フィールディング・シェア)のAging Curveと同じように25歳、26歳あたりで守備範囲向上のピークを迎え、その後はほぼ上昇することなく低下し続けるという結果になりました。

以上より、直感通り年齢が若い方が守備範囲は広くなると言えそうです。
また、20台前半だと年齢が上向くとともにrRngがプラスに働いていることも多いため、若いうちは失策抑止だけでなく守備範囲面にも伸びしろは残されていると言えるのではないでしょうか。

2.大幅なマイナスを記録した守備範囲が改善されることはあるのか?

前章から、20台前半から中盤までの年齢が若いうちは、守備範囲向上の伸びしろが残されていることが分かりました。
ただ小園のように若いうちに大幅なマイナスを記録してしまった選手が、その後年月を経るにつれて指標を改善させる例はあるのでしょうか?
ここでは若いうちに大幅なマイナスを記録してしまった選手を対象にして、改善の見込みはあるのか検証していきます。

ここでは22歳以前に140試合あたりのrRngが-5以上の大幅なマイナスを記録してしまっている選手を対象とし、その選手がその後どのような指標の推移を見せていったのかを確認していこうと思います。

SS守備範囲2

まず以上の14選手が対象となります。
宇野勝、河野旭輝、山崎裕之、池山隆寛、立浪和義といったタイトル獲得経験もあるような名選手も名を連ねていることが分かります。
ではこれらの選手のSSとしてのrRngの推移を確認していきましょう。

SS守備範囲3

23歳以降でSSから他のポジションにコンバートされるケースが多いようで、多くの選手がSSとしての指標の推移を読み取ることが出来ない状態となっています。
そもそも守備能力が低いと、SSとして起用され続けることが困難になるようです。
その中でもSSに残り続けていたのが、宇野、河野、小川博文、水上善雄、池山の5名です。

SS守備範囲4

彼らのrRng推移に絞って見ていくと、河野や池山は平均前後を行ったり来たりしており、強みと言えるまでの改善は見られませんが、大きな弱みにもなっていません。
水上は良い時と悪い時のブレが非常に大きく、宇野や小川に至っては一度もプラスの値を出すことが出来ていません。
この5名のrRng推移から、平均前後まで改善することは出来るようですが、強みにするというところまで持っていくのは難しそうだということが分かります。

サンプルが少ないためあくまで参考レベルですが、守備範囲指標が大幅なマイナスの選手はそもそもSSに残れないケースが多く、残れたとしても守備範囲の改善は平均前後までで大幅な改善は見込めないと言えそうです。

3.小園がコアプレイヤーとなるために必要なこと

以上より守備範囲という点については、平均前後まで改善させることは可能ですが、大幅な改善は見込めなさそうなことが分かりました。
ただここで名前の挙がった宇野や池山といった選手は、30歳を超えるまでSSの座を守り抜いています。
それは単に彼らが活躍した時代に守備指標が可視化されていなかったためではなく、別に突出した武器を持って大きな貢献をチームにもたらしていたからです。

SS守備範囲5

歴代SSの個人WAR総計(2019年時点)を並べてみると、池山は10位、宇野は29位と歴史的に見ても非常に高い位置にいることが分かります。
なぜこのような高い位置にいるのかというと、SSとしては破格の長打力で他の選手と差をつけたためです。

この両者はSSをメインポジションとした選手として過去2人しかいない、通算300本塁打以上を放っている選手で、どちらかというと打力が重要視されないSSにおいてその打力で圧倒的な傑出を見せていました。
そのために多少守備力に難があろうとも、それを覆い隠すほどの高い貢献度を誇っていたのです。

以上を踏まえると、守備範囲の大幅な向上が見込めなさそうな小園がSSに残り続けてチームのコアプレイヤーとなるには、圧倒的な打力、それもアベレージというよりは得点創出に直結する長打力の面で抜けていくしかないと言えそうです。

「ノーステップだと本塁打はない。長打が出ないと自分の持ち味もなくなってしまう」

上記の記事でこのようなコメントを残しているように、幸い小園自身も長打力を持ち味と捉えているようですし、1年目に年間15本塁打放ったことから分かる長打力の資質を考えると、取り組み方さえ間違えなければ長打力も大きく成長していくことでしょう。

鈴木誠也の来季からのMLB挑戦が決定的になる中、新たにチームの屋台骨を担うべき小園の成績は間違いなくチームの成績に直結してきます。
なので、一刻も早く宇野や池山のような傑出した長打力を発揮して、高WARを稼ぎ出せるようなチームのコアへの成長を期待したいところです。

データ参照


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