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森浦大輔の起用法について考えてみる

圧倒的な成績を残した新人王・栗林良吏の陰に隠れる形となりましたが、ルーキーイヤーから54試合に登板し、17ホールドと水準以上の成績を残したのが、森浦大輔です。

当初からリリーフでの起用が検討され、開幕後もそのままリリーフに定着しましたが、多くのファンからは先発を待望する声も聞かれました。(かく言う私もその一人です)
当初の印象はどちらかというと技巧派タイプで、回跨ぎの登板では色んな持ち球を駆使して好投していたのを見ると、そのような感想は抱かずにはいられないでしょう。

しかし、後半戦には空振りを取れるストレートとチェンジアップでゴリ押しする、「リリーフ」らしい投球スタイルを手に入れ、見事に勝ちパターンに定着したのを見ると、リリーフにも少なからず適性があることを証明したように思います。

そこで、森浦はどちらのポジションで起用するのがベストなのかについて、様々な要素から検討を進めていきたいと思います。

1.先発/リリーフ向きの条件とは?

ポジションの適性を探る前にまず大前提として、先発向き/リリーフ向きの投手というのは、それぞれどのような特徴があるのか整理する必要があるかと思います。
そこで先発向き/リリーフ向きの条件について、まずは考えていきます。

1-1.先発適性

Baseball Geeksさんの上記記事を参考にすると、先発に必要な条件として下記のようなことが言えそうです。

①豊富な球種の投げ分け(先発平均で4.7球種)
②緩いボールを投じられる(カーブ/チェンジアップ)、
③小さい変化のボールを織り交ぜられる(カット/ツーシーム)

これを森浦に照らし合わせてみると、
①ストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップの4球種が持ち球のため不適
②カーブ、チェンジアップともに持ち球として持っているため適合
③小さい変化の球種は投じないため不適

となります。

持ち球から見る先発適性によると、持ち球の数が多くなく、小さい変化も持たない森浦は適性が薄いと捉えられそうです。
ただこれだけで適性がないと捉えるのは、条件が足りないようにも感じるので、以下条件を加えて再度適性を確認してみたいと思います。

Ⅰイニングを消化するために必要なスタミナはあるか
一定イニング出力を維持できるかどうかを測ります
基準は1回と6回のストレート平均球速を見て、その差が2㎞以内とします
Ⅱゴロを打たせるグラウンドボーラーか
ここでは被長打を防いで失点を最小限に抑えられるかをチェックします
基準はリーグ平均のゴロ率47.0%以上とします
Ⅲ球種の数だけでなく一定の質を持つ球種が3つ以上
多くの球種を機能させられているかをチェックします
基準はPitch Valueがプラスの球種が3つ以上とします

Ⅰについては自己最長が2回と、出力の維持を確認するには短すぎるため、不明とするのが正しいでしょう。
Ⅱについてはゴロ率58.2%と非常に高率なため、クリアしています
Ⅲについてはストレートとチェンジアップはプラスなものの、スライダーとカーブはマイナスのため、不適となります

※ここでのPitch Valueは下記記事のxPVを参考に算出

以上より、ゴロ率の高さから被長打という点では優秀ですが、不透明なスタミナ面、球種のバリエーションや機能性がもう一つであることから、データ的に適性が高いとは言えなさそうです。
では、逆にリリーフ適性は如何程のものなのでしょうか?

1-2.リリーフ適性

リリーフ適性について個人的に思うところを挙げてみると、完全アウトをどれだけの確率で取れるかが重要になってくると考えます。
というのも、接戦の終盤を任される投手は、失点リスクを減らすために極力何かが起きてしまう状況を作りたくないからです。
となると、三振や内野フライの完全アウトをどれだけ高い割合で取れるかが重要なのではないでしょうか。

加えて、持ち球の中に絶対的な球種があるかどうかも、重要な要素なのではないかと考えます。
打者を押し込むことを計算できる球種がないと、接戦の試合終盤を乗り切ることは不可能でしょう。

以上より、
①完全アウトの割合
②絶対的な球種の有無(PV/100が1.0以上の球種)

がリリーフ適性を示す条件になると思います。

まず①の完全アウトの割合について見てみると、リーグ平均と比べても完全アウト率は低いことが分かります。
K%もIFFB%もともにリーグ平均以下で、支配力という点では課題が残る結果となっています。

続いて絶対的な球種の有無については、プラスの値のストレートとチェンジアップのPV/100がいずれも1.0に満たず、絶対的とは言えない球種となっています。
ということから、絶対的な球種も持っていないとみなせるかと思います。

以上より、完全アウト率、PV/100ともに基準に満たないため、リリーフ適性が高いかと言うとそうは言えないことが分かりました。

2.前半戦/後半戦で分割してみる

ここまでは森浦のシーズントータル成績から適性を追ってきました。
ただ実際に森浦の投球を見ていると、前半戦と後半戦で投球スタイルが変わっているため、トータル成績で見るのはあまり適切ではないように思います。
そこで、どちらかというと先発投手が無理してリリーフをこなしている投球だった前半戦と、完全にリリーフに馴染んだ後半戦に分けて、再度適性を測っていきます。

2-1.前半戦

先発適性

スタミナ面は置いておいて、それ以外の被長打を防げるか、一定の質の球種が3つ以上あるかの2点のみチェックしていきます。

Ⅰゴロを打たせるグラウンドボーラーか

手持ちのデータではゴロ率の算出が不可能なため、GO/AO(ゴロアウトとフライアウトの比率)を用いて、ゴロアウトが優勢の1.0以上をグラウンドボーラーとみなし、ゴロを多く打たせられているかを判定したいと思います。

上記表より前半戦のGO/AOは2.50となっていることから、非常にゴロを打たせることには長けていたことが分かります。
四球数が三振を上回っていることから分かるように、支配力には欠ける内容でしたが、ゴロを多く打たせることで被長打のリスクを減らし、被本塁打は1本のみと大量失点のリスクを小さくすることには成功していました。
ということから、前半戦は極端なグラウンドボーラーと言えそうです。

Ⅱ球種の数だけでなく一定の質を持つ球種が3つ以上

前半戦の各球種のPitch Valueを確認してみると、被OPSは.566と優秀なストレートでカウントが稼げずマイナスの値となっており、持ち球4球種でプラスなのはチェンジアップのみとなっています。
ですので、こちらは満たすことが出来ていません。

リリーフ適性

Ⅰ完全アウトの割合

三振の数が少ないことが響いて、完全アウト率は14.7%に低迷しています。
リーグ平均より10%以上も低く、前半戦はリスクの低い投球は出来ていませんでした。

Ⅱ絶対的な球種の有無

各球種のPV/100を見ると、チェンジアップ以外はマイナスで、かつそのチェンジアップも0.5のプラスにとどまっていることから、絶対的な球種も持っていなかったことが分かります。

以上より、先発で1個、リリーフで0個適性判定に○が付くものがありました
ということは、印象通りどちらかというと先発に適性を見せたような前半戦の投球であったと言えそうです。

2-2.後半戦

先発適性

Ⅰゴロを打たせるグラウンドボーラーか

前半戦時同様にGO/AOを見てみると、前半戦の2.50ほどではないですが、1.10とゴロアウト優勢のアウト割合となっています。
フライアウトが増えたこともあってか、被本塁打は2本浴びてしまいましたが、27.9%を誇ったK%から分かるように、支配力の高さを示す内容を見せていました。

Ⅱ球種の数だけでなく一定の質を持つ球種が3つ以上

前半戦同様にスライダーはカウントを作れずイマイチでしたが、後半戦はそれ以外の3球種のPitch Valueはプラスを記録しています。
特にストレートは空振り率が倍近く上昇し、力で押すことが可能になったことで、マイナスからプラスに転じることになりました。

リリーフ適性

Ⅰ完全アウトの割合

力で押せるようになったことでK%が大幅に上昇したこともあって、後半戦の完全アウト率はリーグ平均を上回る31.7%を記録しました。
極力野手を関与させない、勝ちパターンを務めるに値する投球が出来ていたと言えそうです。

Ⅱ絶対的な球種の有無

前半戦と比べて3球種の数値が向上していますが、その中でもストレートの上昇値が非常に大きく、PV/100は基準とした1.0を優に越す数値をマークしています。
といったところを見ると、後半戦は絶対的な球種を作ることが出来ていたと言えそうです。

以上より、後半戦は先発適性、リリーフ適性ともに2つとも基準を満たしていました
スタミナが持つかは不明ですが、先発、リリーフどちらも可能な、非常にクオリティーの高い投球を見せていたと言えるのではないでしょうか?

3.先発・リリーフ間に生じる成績差

後半戦に入って全く別人のような投球を見せていたことが分かりましたが、果たしてその状態の森浦が先発に回ったとして、どれほどの貢献を先発で残すことが出来るのでしょうか?
もしリリーフで残した貢献以上に先発で貢献を残せるのであれば、先発への転向も本格的に検討されるべきなのではないかと考えます。

ここで用いたいのが、先発とリリーフの間で生じる成績差について、データ面から捉えた上記記事です。
こちらでは先発とリリーフの間では、FIPで0.78の差が生じることが述べられていますが、これを森浦の後半戦成績に反映させ、リリーフとして50イニング(2021年はNPBで27人)投げた場合と先発として130イニング(2021年はNPBで28人)投げた場合とでWARを比較してみようと思います。

WAR算出における注意点として、基本的にはDELTA社の算出法を参考にしていますが、ここではtRAではなくFIP(定数は3で固定)を用い、リーグ平均値やRPWは2021年のものを使用している点にご留意頂ければと思います。

そうして算出したWARが上記となります。
先発では補正をかけたFIPでもリーグ平均を上回る数値を記録しており、WAR2.5というと単純比較は出来ませんが、2021年の他の投手と比べると松本航(西武)や秋山拓巳(阪神)と同等の貢献度と捉えられます。

リリーフでも1年間後半戦のクオリティーの投球を続けると、中川皓太(巨人)や清水昇(ヤクルト)並みの貢献を得られますが、倍近いWARの差が生じていることを考えると、チーム事情にもよるでしょうが先発に回す方が得策なように思います。

ちなみに前半戦の成績で同様にWARを算出してみると、先発でのWARはマイナスに突入してしまっています。
先発っぽい投球と考えていた前半戦の投球ですが、むしろリリーフの方が一定の貢献を見せられていたようです。

以上から、本題の森浦の最適な起用法については、後半戦のような投球を続けられるのであれば、先発での起用が最適であると言えるのではないでしょうか。


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