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広島の左腕投手育成の向上

広島の歴代の左腕投手というと、大野豊や川口和久らの名前が挙げられるでしょうが、そんな彼らが一線を退きつつあった1990年代後半以降、常に左腕投手が不足し、毎年のように補強ポイントに挙がっていました。

それは、リーグ3連覇を果たした昨季までも変わらず、左腕投手でチームの優勝に貢献したと言えるのは、ジョンソン・フランスアといった外国人くらいで、日本人投手がその輪に入ってくることはありませんでした。

それが今季、トミージョン手術明けの床田寛樹が先発ローテに定着し、クビ寸前の崖っぷちの立場にいた中村恭平がセットアッパーの立ち位置まで登りつめ、塹江敦哉も150kmを記録するストレートと140km近いスライダーを武器に一軍へ昇格を果たすなど、日本人左腕がかつてないほど多く台頭しています。

長らく左腕不毛の地であった広島に何が起きているのかについて、以下にて分析していきます。

※成績は8/24終了時点でのもの

1.広島左腕投手メンバー推移

まず、過去数年どのような左腕投手が広島に在籍していたのか、整理していきます。

年ごとに確認していくと、2014年は当時入団3年目の戸田隆矢の台頭はあったものの、WAR1.0を超える投手すらおらず、人材難ぶりを感じさせる布陣です。

翌2015年はジョンソンが加入し、WAR5.8を叩き出す活躍を見せ、外国人とはいえ待望のエース格の先発左腕投手が誕生しましたが、日本人投手で戦力になったのは戸田くらいと、全体で見た人材難感は拭えません。

2016年に入っても大きく状況は変わらず、ジョンソン・戸田は戦力となりましたが、その他に開幕当初は期待されたオスカルが尻すぼみに終わり、久本祐一や江草仁貴といった実績のあるベテラン投手も依然活躍できないままでした。

2017年は前年まで左腕投手陣の柱となっていたジョンソンが年間通して稼働できず、日本人投手の星であった戸田も精彩を欠く中、当時ルーキーの床田寛樹や2年目の高橋樹也など若手左腕投手が一軍登板を果たし、ポジティブに取れば未来への希望が見られたシーズンでした。

2018年も日本人投手の目立った台頭はありませんでしたが、カープアカデミー出身のフランスアが新たに台頭し、平均で150㎞を超えるストレートを武器にセットアッパーとしてチームを3連覇に導く働きを見せ、左のリリーフという広島万年の課題を埋めてみせました。

2019年は上述の通り、床田・中村恭・塹江といった日本人投手が台頭を遂げ、それにジョンソン・フランスア・レグナルトといった外国人左腕投手が加わり、左腕投手王国と呼んでも差し支えないような布陣となっています。

以上より、2018年まではほとんど日本人投手の台頭はありませんでしたが、2019年に突如日本人投手の台頭が進んだとともに、フランスアに代表されるようなカープアカデミー出身の投手も一軍の舞台に顔を出し始めていることが分かり、直近での左腕投手の育成力向上を感じさせます

2.広島左腕投手に訪れた変化

続いて、上記にて確認した左腕投手について、各投手の球種・球速からその変化について分析していきます。

2014年は最速のフィリップスで143.2㎞と然程速くなく、スライダー系をメインピッチとしている投手が多かったですが、いずれも120㎞台の平均球速で、投球スタイルのわりにはパワーで押し切れるような投手がいないことが分かります。

2015年は先発投手にしては143.7㎞とスピードのあるジョンソンや、145.8㎞を記録したザガースキーなど外国人の存在が光りましたが、球種割合的には前年と同様にスライダー系をメインピッチとする投手が大半を占めています。

2016年は日本人投手でアベレージ145.9㎞を記録する塹江が一軍デビューを果たし、力で押せるこれまでとはタイプの異なる投手が出てきました。

ただ、全体的には球速球種割合ともに前年までと大きな変化なく、スライダー等横変化中心のものとなっています。

2017年はジョンソンが145.8㎞まで球速を伸ばしたものの、その他の日本人投手は軒並み球速を落とし、140㎞がやっとというレベルがほとんどとなってしまっています。

球種割合的には、スライダーの他にチェンジアップを多く投じる投手も増え、縦変化を加える投手も多くなってきたような様子です。

2018年はアベレージで150㎞を超えるフランスアがセットアッパーに定着し、高卒2年目の高橋昴也が一軍登板を果たすなど、外国人日本人両方にスピードのある新戦力が出てきました。

球種割合を見ると、シンカーやチェンジアップに活路を見出す投手も見られ、前年までとはまた多少の変化が感じられます。

2019年は、上述の通り多くの左腕投手が台頭しましたが、その裏には2点の大きな変化があったことが球種球速データから窺えます。

それは全体的な球速の向上とスライダー系の高速化です。

2018年は左腕投手の中で、フランスアに次ぐ球速を誇っていたジョンソンが、球速が落ちたわけでもなく、2019年には下から2番目の球速の遅さとなっていることが分かります。

フランスアとジョンソンの間の、左腕投手としてはかなり速い部類の球速帯(145km~150km)に、4名もの投手が新たに加わったのです。

加えて、球速向上に比例してか130km台中盤から後半のスライダー・カットボールを多く投じる投手も増え、中村恭に代表されるように、2ピッチで力で押し切る投球ができる投手が増えました。

このように、多くの左腕投手が台頭した2019年に、急激に大きな変化が生じていることが分かるかと思います。

3.なぜこのような変化が生じたか

それでは、なぜこのような変化が生じたのでしょうか?

これだけ同時に多くの左腕投手が、同じような変化を辿ったため、何かチーム単位で左腕投手に対する取り組みが実施されたのではないかと思われます。

その中で重要な役割を担ったのが、二軍投手コーチ・菊地原毅ではないかと推測されます。

前提として、現一軍投手コーチの佐々岡真司が二軍投手コーチを務めていた頃、右投手の球速の向上と130km台後半のスライダー・カットボールを武器とする投手が増えるという、今季左腕投手に生じた事象と同様の傾向を見せています。

岡田明丈や薮田和樹なんてのは、その典型例の投手です。

このように右投手にはある程度のメソッドはあったのでしょうが、左投手となると体の構造や感覚の違いからか、元々右投手の佐々岡ではそのメソッドを適用できず、右投手と同じように育成できなかったのではないでしょうか。

そして、左腕投手にも適用できるように、メソッドのパイプ役となったのが昨季まで三軍投手コーチを務め、今季から二軍投手コーチに就任した菊地原ではないかと推測されます。

以前「左腕投手育成と左腕投手コーチ」というnoteにて、左腕投手育成と左腕投手コーチの存在にはある程度の相関性があることを述べましたが、右投手と左投手では様々な面で勝手が違うようですし、右投手と同じように育成できなかったことも合点がいきます。

そんな中、広島に待望の左腕投手コーチが誕生したことで、球速向上とスライダー系の高速化のメソッドの左腕投手への水平展開が可能になったのではないでしょうか?

ただの一介の左腕投手コーチというわけではなく、菊地原自身が三軍ではあるが数年広島にコーチとして在籍し、右投手の育成過程を間近で見ていたことや、オリックスに7年間所属していた経験もあるため、それらがあってスムーズな水平展開となったのでしょう。

左のパワータイプの投手を獲得してきた過去のドラフトが、このような形で身を結ぶようになったわけです。

4.まとめ

・広島左腕投手メンバー推移
2019年に突如多くの左腕投手が台頭し、左腕王国と呼んでも差し支えの無い状態に
・広島左腕投手に訪れた変化
細々とした変化はあったものの、2019年に全体として球速の向上とスライダー系の高速化がなされる
・なぜこのような変化が生じたか
以前から持っていた右投手への球速向上とスライダー系の高速化のメソッドが、菊池原の二軍投手コーチの存在により左投手への適用が可能となり、右投手と同様に球速向上とスライダー系の高速化が実現した

過去に類を見ないレベルで、広島の左腕投手がレベルアップを遂げていますが、一つ懸念として、岡田や薮田といった右投手が早々に劣化の局面を迎えているという点があります。

今季は各投手レベルアップを見せたものの、来季はもしかしたら右投手と同様に劣化を迎えるかもしれません。

もしそのような事象が生じれば、このメソッドも継続的に活躍するために何らかの改善を加える必要性が出てくるでしょう。

ただ、おそらく育成メソッドがどうと言うよりは、酷使等の起用法の影響が強いのかとは思いますが‥

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