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なぜ僕らはコーヒーを売るのか

僕はコーヒーが好きで、コーヒー屋をもう7年やっています。
コーヒーという仕事は、美味しいコーヒーをつくるという「ものづくり」でありながら、その魅力を知ってもらう「橋渡し」や「発信」の仕事でもあります。

改めて今、僕らはなぜコーヒーを仕事にするのか、その中でなぜ美味しさにフォーカスしたスペシャルティコーヒーを届けているのか、知って欲しいし、自分の意思を言葉にする大切な機会だと思ったので、改めて今日はまとめてみようと思います。



コーヒーを売る理由: 生産者が続くため

コーヒーの中にもいろんな産地、いろんな流通のコーヒーがあります。どんなコーヒーにも意義があるのですが、僕は「スペシャルティコーヒー」と呼ばれるおいしいコーヒーを伝えたいと活動しています。もっと言うと、生産者ごとに細かくロット分けがされた「シングルオリジンコーヒー」、おいしいことで生産者が正当な対価をもらえるコーヒーを広めたいと思っています。

コーヒーは多くの流通が、まとめて生産し、混ぜて大きなロットにして安定させ、消費国の商社がまとめて買うという流れでした。大量生産・大量消費からの流れが大きくあります。生産者からすると、他のたくさんの生産者の豆と混ぜられて量で評価されるのであれば、最低限品質を担保できればそれ以上の品質に関しては手を加えず、量の効率性に集中するのが当然です。もちろん僕たちが、どこにいてもそれなりにおいしいコーヒーを安く楽しめるのはこうしたコスト構造や効率を追求した流通があるおかげですし、まとまった量が安定的に売れることで助かる生産者がいるのも確かなことなので、とてもありがたい「進化」ではあります。

ただ、物質的に恵まれた今だからこそ、僕たちは「モノ」としてコーヒーを楽しむ以上に、コーヒーを作っている人に良い影響があり、飲んだ時の味だけでなく生産者の思いやストーリーまで楽しめるような、社会的に意味があり精神的にも豊かになるコーヒーを楽しむことに、より大きな価値があると僕は感じています。

生産地の山奥の一人一人の農家さんがもっと潤うようになり、彼らの声にもっと耳を傾け、そして伝え、コーヒーを作る活動が続いていく形にしたいと心から思っています。効率的な流通で便利さがある一方で、美味しさを評価するトレードが足りていないのも事実です。美味しいコーヒー作る農家さんがもっと増えてもいいし、彼らのコーヒーがもっと美味しくなる余地もあるし、僕たちの生活圏でも彼らの生活圏でも、選択肢にもっと美味しいコーヒーがあっても良いと思っています。

なぜスペシャルティコーヒーでは、生産者の持続可能性が高まるのか。それは、豆の買い付けを行う時に、おいしい分だけ高い価格で買うことができるからです。コーヒーは、品種や精製方法、環境によって、生産を極めると、オレンジやストロベリー、花や蜂蜜といった、豆ごとに色とりどりの素晴らしい風味がするようになるんです。そういった、飲み手に価値が伝わるコーヒーだからこそ、買い付けに競争も起き、生産が評価され、生産者が経済的にも続く形になり得るのです。

様々な、フェアトレードと呼ばれるような、生産者のための流通や買い付けが取り組みとしてはなされていて、それぞれの取り組みを応援したいと思うのですが、僕は「おいしいから」が一番のフェアだと思います。おいしいから価値が生まれる、おいしいからファンがつく、おいしいから生産がつづく。生産者から商社からロースターからバリスタ、消費者まで、上下関係もはなく、全員素晴らしいんです。みんないるからこそ回っていく。つくる人も、間に立つ人も、楽しむ人も、全員気持ちよく、そしてどこにもしわ寄せがいかない、そんな対等な流れをコーヒーで増やしたいです。量から質へとよく言いますが、その意味は関係性の対等さだと僕は思います。



コーヒーを売る理由: 飲む人をわくわくさせるため

コーヒーを飲む目的は様々あります。リラックスするため、目を覚ますため、気合を入れるため、味を楽しむため。1日を通して朝から夜まで、家でも店でも職場でも、あらゆるシーンにコーヒーがあります。

マイナスの気持ちを減らす役割、プラスの気持ちを増やす役割。いろんな効果や楽しみ方がありますが、気持ちを切り替え、全体としてプラスに向かっていく意味は共通していると思います。

なぜコーヒーは人の気持ちを変えられるのか、もちろんカフェインの効果も大きく寄与しているのですが、おいしいからこそプラスになるのだと思います。美味しさという感覚は人の気持ちを動かす大切な要素です。

コーヒーは五感すべてに関わる飲み物です。コーヒーを淹れて飲むたった10分の間に、滴る音や綺麗な色、挽いた瞬間や湯気で立ちのぼる香り、舌から喉にかけて感じる温かさや液体の質感、そしてコーヒーの甘味や酸味といった複雑な味、五感すべてを日常的に楽しむことができるんです。

この気軽さも、僕はとてもいいことだと思っています。誰でも楽しめるんです。器具さえあればあとは豆とお湯だけ、お金も時間もさほどかかりません。近くのコーヒースタンドに行くでももちろんよし。日常の中で流れるように五感の刺激を楽しめるんです。

こうしたコーヒーを楽しむ時間から、「自分が感じているということを認識する入り口」としてコーヒーが機能して、もっと人が人間らしく、感覚やリアルの体験に目を向ける機会になったらと僕は思っています。

自分はいい香りや美味しさを楽しんでいるんだ、これをもっと楽しんでいいんだ。そんな感覚から、今夜は好きな料理を食べてみよう、気になってたビール屋さんに行ってみよう、週末キャンプにでも行ってみよう、映画や音楽、趣味をもう一度はじめてみよう、とった、リアルを楽しむわくわくの力が生まれたらと思っています。コーヒーがおいしいということには無限の力があるんです。



まわることが目的

では結局、つくる人と飲む人、どっちが一番の目的なのか?そんな風に思う方もいるかもしれません。

僕は、生産者がいるから価値が生まれるという論理も、需要があるから生産がきるという論理も、とても理解しているのですが、どちらが上という優先順位はつけられません。僕がスペシャルティコーヒーをやっている目的は、つくり手から飲み手までの循環構造をつくることだと思うんです。自然な形でコーヒーがまわっていく、そのためにおいしいコーヒーを伝え、生産者と消費者の橋渡しをして、循環の後押しをしている、そんな感覚です。


自分というフィルター

なぜ自分がやるのか、なぜ自分がコーヒーをやって楽しいのか、そこにも意味は感じています。

例えばどんな豆を仕入れるか、どんな美味しさを基準にするか、お店のレシピや味の伝え方には、そのバリスタ、お店の「感性」が表れます。こんなコーヒーこそおいしいんだ、こんなコーヒーこそ面白いんだ、というバリスタ・ロースターなりの主張、そしてそんな自分の「良い」という感性を認めてもらったり共感してもらえた時の嬉しさもどこかにあります。

もちろん自分のためだけにやっている仕事ではありません。でも楽しいからこそ続きます。生産者がつくった素材を伝える仕事なんだけど、どんな形にすれば伝わるのかを考え、自分というフィルターを通してコーヒーを伝えているのだと思います。





このような形で今回は、僕が好きでコーヒーを仕事にしている意味や意思を言葉にしてみました。きっと誰にも、こういった理由や目的、エネルギーの源泉や意思があると思います。言葉にするのは難しいことだけど、「なぜ自分はこうなのか」ということを知ってもらうことは、とても大切だと僕は思いました。

僕はこんな理由でコーヒーを売っています。飲んだことない方はぜひ飲んでみてください。きっとこの意思が届くはず。


川野優馬


さいごに

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