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1杯のコーヒーから何円が生産者に渡っているのか、解説。

コーヒー1杯の値段のうち、生産地の農家さんにはいくら渡っているのでしょうか。

自家焙煎のコーヒー屋さんを経営して、エチオピアやインドネシアの生産地で買付けも行ってきた僕が、実際の内訳をまとめてみようと思います。


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図にまとめるとざっくりこんな感じ。

これは、超美味しいコーヒー豆での値段。流通の大半を占めてる大量生産のコーヒーはもっと安く、この半分くらいの価格だったりするかもしれません。

あくまでわかりやすくしたざっくり価格です。本当はもっと細かい経費や、コーヒーによって価格の違いはあります。


解説

(計算根拠について説明するので興味ない方は読み飛ばしてください。)

1杯500円のコーヒーに使うコーヒー豆は15gくらい。焙煎することでコーヒー豆は水分が飛んで軽くなるので、17gくらいの生豆が必要。ざっくり計算すると、日本の商社では1kg 1500円くらいで生豆が売られてるので、生豆代で25円。焙煎費用は生豆代と同じくらいかかると考えるとわかりやすく、焙煎豆をロースターから業務用で卸してもらっても生豆仕入れ値の倍くらいの価格になると思う。

25円の生豆価格は、日本で商社から買う原価。商社は赤道付近のコーヒー生産地で、この約半分の12円で仕入れてくる。コーヒー生産の起源でもあるエチオピアではトップグレードのコーヒー生豆で1kg 6-7USDで買付けされているので、17g分だと大体12円くらい。国によっては1kg 8USDくらいになる国もあれば、手間をかけた特別グレードだともっと高い場合もあるし、低いグレードのコーヒーはもっと安い。輸送費は仮にコンテナをフルに埋めた理想の費用として1kgあたり1USDで輸入できたとして計算。輸入規模次第でもっと高くなる上、輸入商社はここから更に渡航費や買付の必要経費を、取り分の中から賄う。

12円の生産地での生豆価格のうち、半分の6円が農家さんに、6円が精製所に支払われる。農家さんは実際にコーヒー農園を持って栽培したコーヒーの木からコーヒーチェリーを収穫する人。精製所は、そのコーヒーチェリーを皮むき、乾燥して生豆とする加工場のこと。農家さんが農園に精製所を構え、自分で加工することもある。コーヒーチェリーからコーヒー生豆にするまでで、皮や水分、ハンドピックした豆の重さが飛んで、15%くらいの重量になる。エチオピアだとコーヒーチェリー1kgあたり40-50セントくらいなので、17g分のコーヒー生豆をつくるのに、113gのコーヒーチェリーが必要だとすると、6円が元のコーヒーチェリー代金という感じ。

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議題1: 6円は安すぎる?

1杯500円のコーヒーのうち6円しか農家さんに渡ってないと見て、安すぎると思った方も多いかもしれません。でも、これは本当に安すぎるのでしょうか?

まずコーヒーの消費国である日本と、生産国であるアフリカや中南米は物価が違います。エチオピアの平均月収は15,000円くらい。さらには都市部と農村部の暮らしにも大きな違いがあり、農村部では月収はもっと少なく自給自足に近い形で食料は自分たちでつくって暮らしています。大規模なコーヒー農園はあまりなく、裏庭栽培的な感じで食糧などと一緒に、服を買ったりする商品作物としてコーヒーチェリーを育てています。農園のサイズは平均0.7haくらいなので、仮にコーヒーの木を多く育てていて500本の木があり1本から5kgのチェリーが採れるとしたら、2500kgで125,000円のお金になるので大きな収入になります。木の本数や収穫量が少なくても、物価から考えたら、安すぎるとは言い切れないと思います。

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とは言っても、僕はもっともっと生産者にお金が渡るようにしたいです。1杯のコーヒーができるまでいろんな人が関わっていて、飲んでくれる人に売ることができて初めて生産者の努力が価値に変わります。つまり、売り手であるコーヒーショップがどう伝えられるか、がとても大事。また、美味しさも必要不可欠。もっとお金が渡るべきだからという理由で価格を上げても、最終的に飲んでくれる人が楽しめないと続かないので、美味しいから価値が伝わり生産者に渡るお金が増える、という流れがあるべき形だと思っています。

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議題2: どこまでが生産者なのか?

ここでは、6円が農家さんに渡ると話しました。でも、収穫後のチェリーの処理の仕方で風味は大きく変わります。もとの素材がないとはじまらないけど、美味しく仕上げる精製もとっても大切な要素なんです。コーヒーの生産者を思い浮かべると、一般的には農家さんを思い浮かべますが、精製をしている人たちも含めて生産者と捉えてあげましょう。

生産地では、育てる人と、美味しく仕上げる人、そして売り先を見つけ出荷する人、のチームプレーでコーヒーが作られています。ちなみに輸出入の商社の仕事もとても大変です。想像してみてください、美味しく作ったけど売り先が見つからず倉庫で眠ったままになってしまうコーヒーや、輸出手続きや船の手配が遅れて品質を保って届けられないリスクを。適切な仕事があるから、コーヒーは美味しく作られ、美味しく届くのです。

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議題3: 商社の大切さ

僕個人もコーヒー生豆を仕入れて売るということをやったことがあります。でも、上で載せたようなきれいな数字にはなりませんでした。というのは、輸入の仕事、本当に本当に大変です。18tの生豆でコンテナをフル埋めないと輸送費は理想から大きく離れ、平気でこの倍以上かかったりします。ここから渡航費や倉庫費用なども必要で、規模で薄まらないと成り立たないのですが、そもそもおいしいコーヒーって規模も増えにくく、量をカバーしてやっと成り立つ力仕事でもあります。

私たちは作る人の取り分にフォーカスしがちですが、運ぶ人、管理する人の仕事があるからこそ、私たちは美味しくコーヒーを楽しめるんです。美味しさに取り組む小さな商社でも儲かる形がつくれたら、もっと生産者の価値が世に広まるはずです。運ぶ人への尊敬の念に堪えません。

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議題4: コーヒー屋さんの人件費

もう一つ気付くのが、コーヒーショップでのコスト。特にコーヒーを作る人件費です。収穫から精製、輸出入まで主に人件費ですが、1杯のコーヒーを作るための5分〜10分の人件費100円はとても大きく占めています。1杯あたりのコストでとても大きい要素だったのであえてこの人件費だけ書きました。もちろんこれはざっくりした平均なので、忙しいお店で効率的にコーヒーが作れたらもっと薄まりますし、1日1000杯のようなコーヒーが売れるならコーヒーはもっと安く提供できるはずです。

コーヒーは人が作るから美味しくなります。これは生産地でも消費国でも同じ。人の価値を大切に、もっとたくさんの人にたくさんのコーヒーを届けたいなとも僕は思っています。ビジネス的にも、たくさんつくってたくさん飲んでもらう仕組みができれば、人件費も薄まり、スケールし、より生産地に利益を還元できるようになり得るとも言えます。

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彼らは幸せなのか?

これを読んで皆さんはどう思ったでしょうか。

よく、コーヒー生産国は貧しくて、かわいそうという声も目にします。でも僕は、かわいそうだとレッテルを貼ること自体が、彼らをかわいそうにしているのだと思います。

物価も、暮らしも、価値も、すべてが違う中で、幸せの物差しは本人しか持っていません。コーヒーは1700年ごろの植民地時代から、発展途上国で育ち、先進国で価値をつけて消費されてきています。


フェアなトレード、いろんな形があるかもしれないけど、価値が伝わるから対価が持続的に渡り、フェアになるんだと僕は思います。そしてその価値は消費者が決めるもの。フェアさはつくる人が決めるもの。


僕たちが今できることは、コーヒーの価値のギャップを憂うことではなく、それぞれの仕事を認識してとにかくコーヒーを楽しむこと。きっとそれが、努力を価値として認め、生産者にとって今以上に幸せになりうる選択肢を増やすことにつながっていくと思います。



美味しいコーヒーを楽しもう。



川野優馬


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さいごに

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農園からのコーヒーの商流、このnoteでも解説してます。


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