「初音ミク」はVOCALOIDを越えてしまった。


1.究極の歌姫〜バーチャルシンガー・初音ミク〜


 明日「プロフェッショナル 仕事の流儀」になんと「初音ミク」が登場する。タイトルは見出しの通り。その放送内容の説明にはこのような文が。

米津玄師、YOASOBI、Ado。今、音楽シーンを席巻するアーティストたちのルーツとも言える存在が、バーチャルシンガー・初音ミク(16)。制作した楽曲を歌ってくれるソフトとして2007年に世に出ると、それまで手段を持たなかった才能たちのよりしろとして次々と新たな音楽を世に放ってきた。時に人の能力を超えた歌唱を披露し、それをさらに超えようとすることで生まれた、歌い手たちの進化。初音ミクの素顔と真実。

プロフェッショナル 仕事の流儀「究極の歌姫〜バーチャルシンガー・初音ミク〜」

 何故だろう、この説明文にモヤモヤした感情が残る。


2.切っても切り離せない「歌い手」の存在


 ”歌い手たちの進化”
そう、VOCALOIDと密接に関係する存在「歌い手」

 今ほどではないが、昔のボカロシーンには
「こんな難しいボカロ曲歌える○○さん神!」
「ボカロより○○さんの方が良い!」
そんなコメントや評価を見るたびに、ただただ落胆する。勿論、ボカロ曲を歌える歌い手が凄いことは理解できても、何故か嫌悪感を覚えるわけで。歌い手自体が嫌いなわけじゃない。でも、歌い手という単語を見るだけでUターンしたくなる。そんなモヤモヤ。

 今の時代は「歌い手」は死語に近い。そして昔よりも大人になったから考え方も増えて、捉え方が変わったり。
でも、今回のプロフェッショナルの説明文で”あの頃と同じ感情が湧き出てきた”のだ。


3.アイドル・初音ミク


 別にボカロは「歌声合成技術」なのだから、特段感情を”それ”に置くことがないのだ。今でこそボカロに「キャラクター性」は必要で、歌声に特徴を出すのが当たり前だ。でも、当時の状況からすると初音ミクの存在は異質で
「実在しないキャラクターが貴方が作った曲を歌う」という実在しないキャラクターに歌わせる理由が見つからない。

 でも、この初音ミクというキャラクターをどう調理すればよりキャラクターとして映えるのか。皆から愛されるようなキャラクターになるのか。創作者…ボカロPたちは試行錯誤をしていた。
 最初の初音ミクの歌っている曲というのはカバーばかりだった。使い方も操作感もあやふやな状態で挑むのだから。そしてカバーだと初音ミクの色が沢山出ているわけではない。かわいらしい女の子が無機質に原曲のカバーをしているだけ。そこで次に登場したのは「キャラソン」みたいに初音ミクを表現する。

 「みっくみくにしてあげる」という曲をご存知だろうか。ボカロ史、ボカロシーンを語るには外せない1曲。この曲こそが初音ミクの「キャラソン」として爆発的にヒットしたのだ。ミクという単語をかわいらしく並べてその曲を聞くやいなや、情景が脳内で勝手に描かれるのだ。ステージの上で、踊り歌う”アイドル・初音ミク”の姿が。それまでは無機質な声に聞こえたミクの声が元気いっぱいに、16歳らしい天真爛漫に聞こえるのだ。
 そうおそらく僕の中でとても短い「VOCALOID・初音ミク」の存在期間だった。


4.キャラクター性が感情を乱す


 「メルト」
ボカロ史・ボカロシーンへの衝撃。アイドルとして歌っていた初音ミクが突如として変化した楽曲。
 メルトの歌詞を見ればわかるだろう、少女の恋心の曲。初音ミクが歌わなくてもいいようなJ-POP曲が世に放たれたのだ。

 初音ミクは一夜にして「キャラクター」から「シンガー」に変貌したのだ。

 衝撃だった。でもよく考えればこれでよかったのだ。知名度や愛されるシンガーにはなれているのだから。
 別に初音ミクは初音ミク自身の曲を歌い続ける必要はない。”私達”が初音ミクをプロデュースするのに”私達”の想いを届けてはいけないという枷があるわけではない。

 そして、歌い手たちはこのメルトを聞いて「このボカロ曲は私たちにも歌える」という風になるわけだ。ニコニコのランキング上位がメルトで埋まり、まるでメルトという曲が、初音ミクというシンガーが、人気であるかのように見え(まぁ人気ではあったけども)これが”メルトショック”と呼ばれるようになる。

 初音ミクを最初期から追っている自分からすれば、初音ミクの変化に戸惑いを隠せないし、でも初音ミクの存在が世に知れ渡るのは嬉しいこと。しかし、最初期のキャラクターアイドル・初音ミクが好きな自分は「電子の歌姫」になった初音ミクに寂しさを覚える。悲しいことだが。


5.ただ、初音ミクが好きなだけ


 そして歌い手が徐々に注目されていくことにも謎の嫌悪感を抱く。何故ミクではなく、そちらに注目されるのだと…ただそれも次第に薄れていく。そして歌い手たちがミクに歌わせたりするようになったり、色々時代が変わっていったのだ。

 しかし、ボカロPが初音ミク以外のバーチャルシンガーを使って曲を公開した時や歌い手がオリジナル曲を出した時は「うーんミクじゃないかぁ…」となってしまう自分がいる。別に嫌いとかじゃないし、好きな子だっている。
 ただ、自分の中で「初音ミクで聞きたかった」が我儘しているのだ。
 彼女の声質が魅力で、ボカロシーンの14年以上も引っ張って今や「電子の歌姫」として活躍しているからもっと見たい、聞きたいとなるだけなんだ。

 本当にただ初音ミクが好きなだけ。

 愛が重くて本当にごめんなさいって感じ。モヤモヤもただ、初音ミクが見たいだけなのに初音ミクが下に見られたような気がしたのが原因なのだ。

 

 だからこのプロフェッショナルの放送にも期待と不安がある。彼女の活躍をどう魅せてくれるのか。


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