第6話 初めては…

初めてのスタジオに初めてのレッスン。
初めてだらけの私をレッスンの部屋まで連れて行ってくれたのはAさん。
綺麗なグランドピアノが2台置いてある部屋はあまり見ないので新鮮だった。

「名前なんて呼べばいい?」

(あ、まだ名前面と向かって言ってなかったんだ)
いざなんて呼べばいい?と言われるとなんて答えればいいのかわからない。
Aさんは戸惑ってる私を見て
「じゃあ○○ちゃんでいいかな?」
「あ、はい、大丈夫です」

普段ちゃん付けで呼ばれることなんてないから変に意識してしまう。先生からも○○ちゃんなんて呼ばれることがなかったから…

Aさんの演奏を聴くのは2回目。
なのに…演奏を聴いていたら何故か涙がこぼれていた。けど、その涙はAさんにはバレないように。
Aさんが演奏し終わった頃、
私は思わず「最高でした」と言っていた。
今まで聴いた演奏の中で1番心が演奏に吸い込まれた。
忘れられない演奏になった。

Aさんの初回レッスンは何もかも新鮮であった。
小学校中学校で習ってきた基礎的な音楽の知識をフル活用しながら、楽譜の読み方を習った。
初めて授業を真面目に聞いていて良かったと思えたレッスンだった。

帰り際にAさんは笑顔で
「また来てな」
握手を交し、最寄りの駅へ向かう。
なんとなく駅のホームで握手を交わした手を眺めていた。
あっという間にすぎた1時間。
1時間ってこんなに早いものなのだろうか。
なんて考えていたら電車が来た。
運良く空いていた隅の席に座る。
いつもは数分おきにスマホを開き、先生とのチャットを眺めるが、今日はそんな気分になれなかった。それよりも、レッスンのことを振り返りたかった。

この心の動きが今の私を作り上げていた。

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