ある日の銀行
それにしても今日の銀行では長く待った。
1時間は待っただろうか。
昨日大分旅行から遅くに帰ってきて
午後からの出社にしていたので
銀行だけで今日の仕事が終わるかと思った。
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新年度が近いからか、
銀行内には沢山の人がいる。
順番待ちのカードを持って、
私も唯一空いていた席に腰かけた。
ひとりの老人がやってきた。
ATMでお金を振り込みたいけどできないと
受付に言っている。
よく見かける超ベテランの受付は、
キャッシュカードを貸していただいてもいいですか?
70歳以上の方はATMで10万以上の振込が
できないことがあるので
それを確かめたいと言っている。
老人の耳は遠いらしく、
「はぁ?」と
何度も聴き返していた。
かなりの大声で受付は説明している。
70歳以上か、
あと15年くらいで私もその年代になるんだな。
いや待て、15年って案外スグだな。
そんなことを思いながら目の前の状況を眺める。
キャッシュカードを受け取り、
代わりに「受け取りましたカード(これなんて言うの)」を渡して、受付はカウンターの奥へ入る。
残された老人は周りに空いた席がないので
立ったまま待っていたが、
しばらくしても受付が戻って来ないので
カウンターの別の女性に、
カードはまだかと声をかけた。
このあと市役所にも行きたいので
時間が無いのだそうだ。
受付が戻ってきて、説明をしながら
一緒にATMで振込を始める。
受付は老人に急かされたことが気に入らなかったのか、
どんどん説明の口調がキツくなってくる。
しかしながら最初より受付の声は小さく、
しかも個人情報の関係で画面ではなく
違う方角を見て説明しているのに、
老人にはその声が聴こえているようだ。
耳が慣れてきたのか。
さっきの「はぁ?」はなんだったのか。
親切なような、そうでもないような受付と、
わかっているような、いないような老人の
微妙な雰囲気がATM辺りに漂っている。
私とも顔馴染みの受付は、
ちょうどこちらの方角を向いて説明をしている。
目が合いそうになったので
スマホの画面を見るふりをした。
5分くらいは経っただろうか。
格闘の末、
なんとか無事に老人の振込が終わった。
共に目的を達成した老人と受付は
お互いスッキリしたようで、
にっこりと笑い合った。
見ているこちらもスッキリするいい光景だった。
私の2つ隣の席には社会福祉協議会のジャンパーを
着た人が座っていたのだが、彼女もきっとスッキリしたに違いない。
老人はこれから市役所に行くのだろう。
てか、私の番号早く呼んでーーー。
(了)
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