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私が理科教員になるまで(4)〜編入した大学での苦労話〜

はじめに

最初の大学を卒業した後、3年次編入した国立大学の農学系学部。
順風満帆どころか、苦労に苦労を重ねてきた2年間だった。
そんな中、どのような日々を送ってきたか、言える範囲でご紹介。

私が編入してやりたかったこと

そもそも私が編入したのは、教員免許の取得もそうだけれども、生ゴミの資源化について研究を深めたかったらである。
最初の大学では、研究といっても図書館や市役所に行って資料を調査するに留まっていた。
編入後は自然科学の知識や考え方も取り入れ、卒論作成を通して政策提言をするというところまで考えていた。

単位を取るのが思った以上に大変

大学3年次に編入・転入する際、以前の大学で履修した科目から読み替えが効くのは、62単位というのがほとんど。
私は元々社会科学系の学部にいたので、そういったの科目は読み替えが効いた。
ただ、編入後の必修科目への読み替えがほとんど効かなかったので、4年生になっても結構多くの科目を履修しなければならない状況だった。
しかも、教職科目も履修していたので、なおさら大変だった。
就職活動もままならかったけれども、幸運にも高校の教員になれた。

ゼミ室が心の拠り所だった

新しい環境で、不慣れなことばかりだった。
実をいうと、私は極度の人見知りで、こちらから人に声をかけるのが苦手だった。
同じゼミの人や一部の下級生以外しか話せる人がいなかった。
しかも、昼は学食が毎日満員。
生協もレジ売り場が毎日渋滞中。
それで、授業の空き時間はゼミ室にこもり、毎日のように教授と一緒に食事をとっていた。
環境政策の研究室だったが、教授は科学論がご専門で、その観点から環境について研究されていた。
また、この教授の紹介で、科学史学会が主催する例会にも時折参加させていただいた。
学問的な話をいろいろとし、毎日充実した昼間を過ごせた。

生物系科目には苦労した

実は私、高校1年で物理・生物を履修した後、2・3年生で物理・化学を履修していた。
最初の大学の3年生で応用生物科学(生化学のさわり)を履修してから、2年間ブランクがある。
編入当初は細胞の構造と酵素の働きを覚えてたくらいで、後は全くわからなかった。

タンパク質の合成って何?

活性型運搬体って何?

動物生理・植物生理・生態学に関しては全く学んだことがない!

そんな状況だったものだから、授業を聞いても消化不良ばかり起こしていた。
それでも何とか講義を聴いて、ノートはきちんととった。
中には、授業終了時にリフレクションシートを毎回配布してくださる先生方もいらっしゃったので、いろいろ質問を書いては、丁寧にコメントしてくださった。
(成績はボロボロだったけど…(~_~;))
そういった先生方には多大なご迷惑をおかけしたけど、この経験が教員として生物の授業をする際に役に立っていた。

実験にも苦労した

高校時代は化学にハマっていたにも関わらず、最初の大学にいる間に化学と離れていた。
(実はこの間、放送大学の科目履修生として基礎化学をかじっていた)
またそれ以前に、高校時代の化学の授業では、中和滴定と銀鏡反応の実験しか行ってなかった。
しかも私自身手先が不器用。
そのせいで実験にもだいぶ苦労した。

例えば化学実験では、主に高校時代に学んでいることがテーマとなっていた。
ガラス細工・中和滴定・アセトアニリド(薬の原料)の合成・金属イオンの分離&分析など。
予習は必須。
でも訳がわからないまま実験に臨んでいた。
そんな有様だったので、人一倍時間がかかったような気がする。

土壌学実験も履修し、物理系と化学系の実験の両方を行った。
まず化学系実験としては、土壌を水に浸し、水田土壌のモデルを作った。
それを一定期間静置し、さまざまなイオンの分析を行った。
ただ、分析化学を履修できなかった私にとっては、機器分析の意味がわからず一苦労。
次に物理系実験として、土壌中の水の流れ・熱測定・CODの測定などを行った。
実は私、高校時代は3年間物理を履修はしていたものの、訳がわからず途中で挫折。
そんな状態で大学での実験に臨んでいたので、実験後の考察問題ができなかったってことがどれだけあったか😓

ただ、実験を行っている上で、ご指導いただいた先生の中には何かと気にかけていただいた方もいらっしゃった。
それから現在まで交流が続いている先生もいらっしゃり、私が教員になってからも学ばせていただいく機会がある。

印象に残った科目

1.飼料学
この科目を履修する以前に、自分のゼミの教授から、生ゴミの飼料化について研究をされている先生がいらっしゃると聞いたことがあった。
それが何と、先述の化学実験でいろいろお声をかけていただいた先生で、この授業を担当されていた。
(この先生は微生物学をご専門とされているが、当時は生ゴミの飼料化の研究をされていた。)
飼料についてはもちろんのこと、食品リサイクルの状況や、動物の栄養の摂り方や代謝まで幅広いテーマを扱っていた。
それでいて実にわかりやすく、深みのある授業をされていた。
また、毎回授業の最後にリフレクションシートというのを配布され、授業に関するコメントを毎回書いていた。
その中での先生とコメントのやりとりは本当に面白かった。
この先生は毎回楽しそうに授業をされていて、本当に生物が好きなんだなあというのが印象的で、受講している私も楽しくなっていた。
私が大学を卒業して高校教員になった際、私の勤務校に入試説明会で顔を出していただいたこともあり、今でも交流が続いている。

2.プロセス工学
ご担当はもと某大手食品会社の役員をされていた非常勤講師。
ご自身の会社でのご経験も踏まえ、環境問題・食料問題とその対策について講義をされた。
授業では先生独自の考えも仰ることもあった。
例えば、これからは土壌ではなく、植物工場をつくって作物を栽培すれば、地球環境を壊さずに農業ができるといったように。
私も「えっ!?」と思ったことがあったが、熱心な講義に惹かれた。
ただ、この授業のスピンオフとして工場見学&懇親会があったが、自分の時間割の関係で参加できなかったことが惜しかった。

3.分子生物学
ご担当は植物病理学の権威といわれる先生。
細胞膜を通した物質のやりとりや、タンパク質合成についてゆっくりとわかりやすい講義をされていた。
当時は理解できていないことばかりだったが、今になって、そういうことだったのかと思えることが多い。
この先生の授業でも最後にリフレクションシートが配られ、講義のまとめと、コメントを書くことになっていた。
この先生には質問だけでなく、要望・提案を結構書いていたが、本当にご丁寧にご返答をいただいた。
特に、私の要望・提案については多くのことを取り入れて改善してくださり、本当にありがたく、恐縮している。

4.食品工学
ご担当は編入試験の面接官だった先生で、いろいろと突っ込まれた覚えがある。
(実際お話ししたら、気さくな方だった。)
この講義では日本酒の製造工程を例にして、食品を製造するときの有用微生物の利用法・殺菌・廃棄物の処理等について扱われていた。
世界にはさまざまな醸造酒があるが、アルコール度数が世界で一番高いのが日本酒なんだとか。
この講義がきっかけで、定期的に酒蔵を見学したいという欲求が身についてしまった😅
私は今まで勤務していた学校で、SPP(サイエンス・パートナーシッププログラム)という高大連携授業の運営担当をしたことがあるが、その際、この先生の研究室の皆様にご協力を頂いた。
そのときに、廃棄されるコンビニのおにぎりから微生物発酵によって、バイオエタノールを取り出す実験を行った。

心残りもいろいろ

編入して怒涛の2年間だったが、授業の履修については心残りがいろいろある。
その中でも特に思うことをつらつらと。

1.微生物学が履修できなかった
生ゴミを堆肥化する際、微生物による発酵が必要。
ということは、その微生物がどういうものかを知っておかなければならない。
それなのに、時間割の都合上、微生物学(+微生物に関連する科目のほとんど)を履修できなかったのである。
無念。
それで大学を卒業した後、放送大学で微生物に関する科目を履修し、微生物・発酵に関する本をいろいろ買い漁って読んだ。
現在、高校理科の「科学と人間生活」という科目で微生物について扱われているが、こうした独学がまさか授業でそのまま活きるとは意外だった。

2.肥料についてガッツリ扱う科目がなかった
私が本当に学びたかったのは、肥料の化学的性質や生ゴミ堆肥のつくり方の原理。
土壌学や植物栄養学でも肥料と関係するものの、やはり肥料についてガッツリ学びたかった。
なので当時は堆肥に関する本を買い漁って読んだ。

3.生ゴミ堆肥で農作業をしたかった
恥ずかしい話、生ゴミのリサイクルを研究したいとは述べたものの、他の方がされている活動を見学しただけで、自分で実践をしていなかった。
やっぱり自分で生ゴミリサイクルの装置を実際に扱い、それで農作業をすることで初めて中身のある研究になったのではないかと今になって思う。
いつか生ゴミ堆肥を使って農業したいと思う。

とりあえずここまでで一息

ということで、今回は農学系に編入したからの授業について紹介させていただいた。
私が編入した大学だからかもしれないが、農学が扱う範囲は自然科学だけでなく、社会科学にも渡っているので、大学では幅広く学問にふれることができた。
ただ、気をつけておかなければいけないことを3つ。

高校の生物・化学・英語は完璧に復習すべし。

意外と物理も使う。

自然科学だけでなく、経済学の考え方も知っておくべし。

正直な話、私自身、ここまで偉そうなことを綴れるほど勉強してこなかった。
もちろん成績も芳しくなかった。
こんなことなら大学時代にもっと勉強しときゃよかったと言いたいところだけれども、自分の中では禁句にしている。
今の職業柄ということもあるが、大学でふれたことについて、当時以上に学んでいるからだ。
成果は出せずとも、大学時代の経験は、これからの学びへのスタートだったのかもしれない・・・と思いたい。

そして、これだけは声を大にして言いたい。
農学は面白い!

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