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再度出会う

もう誰も追わない、誰とも知り合わない。
密かに感じていた。
私の心の音と貴方の心の色は此処から見る夜空の向こうの電波塔と繋がって、微弱な電波から流れ出るシンパシーは私の心を占拠しているように感じられていた。
私の心が誰かの空を呼ぶ度、不気味に浮遊する物体は私の胸元から入り込み私の身体に呪いの様なものをかけていく。

静寂の中、月を見上げると、さっき迄其処に浮かんでいた筈の月は消えていた。
公園の隅の背の高い時計はゆっくりと逆回転を始めて、私は眩暈を感じ其処に倒れていた。

全部夢だった。全てが空想だった。
運命の輪が逆回転に回り始めた時、私はその予兆に気づくことが出来ていなかった。

全て失くした。私はかつて少女だったころのぼんやりとした不安を思い出した。
私は幸せだった。過去の記憶を思い出した。結末はもうすでに前世で知っていた。

みんないない。此処にただ一人だけでいる私。
私以外の人はみんな消えてしまった。
声は届かない。でもまだ知らない誰かと繋がっている気がした。
それは誰なのか私には知る由も無いのに。


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