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行動経済と公共政策① ~標準的経済学の限界と行動経済~

1. 標準的経済学(Standard Economics)における合理的意思決定者の想定


標準的経済学では、意思決定者は
・完全に合理的であり
・個々人の好みは自分以外の他のものからの影響を受けない
・完全に自己中心的に行動する(他者の利益を考えない)

と想定してきました。

しかし、1980年代からこうした想定は見直され、
・人間の合理性は限定されており
・個々人の好みは社会により形作られている

に注目が集まり始めました。

2. アジアの病気実験 ~人はそんなに合理的じゃない~

Kahneman and Tverskyは「Asian Disease (アジアの病気)」実験により、人は非合理的な判断をすることを示しました。

アジアの病気実験
実験において、参加者は、「あるアジアの病気は、何も行動を起こさなければ600人が死にます。しかし、以下の二つのプログラムのうち一つを選択することにより、損失を減らすことができます。」と伝えられます。

グループ1は、以下のようにプログラムを示されました。
①プログラムAを選択した場合、200人を助けることができます。
②プログラムBを選択した場合、1/3の確率で600人を助けることができますが、2/3の確率で誰も助けることができません。

あなたならどちらを選ぶか、考えてみてください。

・・・・・

さて、グループ2では、以下のようにプログラムを示されました。
③プログラムCを選択した場合、400人が死にます。
④プログラムDを選択した場合、1/3の確率で誰も死にませんが、2/3の確率で600人が死にます。

この場合、あなたはどちらを選ぶでしょうか?

・・・・・

実は、①は③と、②は④と全く同じことを言っており書き方が違うだけです。①・②では情報を「得るもの」で示し、③・④は「損失」で示しています。

合理的意思決定者の想定が正しければ、参加者はグループ1と2で同じ内容を示すプログラムを選ぶはずです。

しかし、実際には、グループ1では①を選んだ人の方が②を選んだ人より多く、グループ2では④を選んだ人の方が③を選んだ人より多かったのです。

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あなたの選択はどうだったでしょうか?
(私が授業でこれをやったときは①・④を選びました。典型的な思考回路ということですね笑)

この結果は、
人は「損失を嫌う(Loss Aversion)」こと(何を得て喜ぶ度合いよりも、何かを失うことを嫌がる度合いの方が大きい)
結果を「得るもの」で表すか「損失」で表すかが人の意思決定に大きな影響を与えること(フレーミング効果)
それにより、一貫性を欠く意思決定がなされ得ること
を示しています。

この2点目はフレーミング効果というものです。人間の認知能力には限界があり、情報の提示のされ方によって受け取り方が大きく変わってしまうのです。

ということは、人間の行動を合理的意思決定者のモデルのみによって説明することは出来ないということになります。
この実験は行動経済学の発展に大きく寄与しました。

参考文献リンク:Tversky, A. & Kahneman, D. (1981), “The Framing of Decisions and the Psychology of Choice”

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