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トスカーナ・オリーブの夢 12

右も左も分からぬまま、急いで「独立」を決めたのには、訳があった。


心の友が購入した敷地と家は、cancello chiusoカンチェッロ キウゾと言って、敷地内全てのものが契約と同時に心の友の所有となった。
その中には、2台分のトラクターも含まれていたのである。
トラクターの所有にあたっては、農家であることに必要な税務番号が必要だったのである。
既に家族で会社を経営している心の友は、別の税務番号を持つことが出来ない。
オリーブオイルの製造や販売は、私が担当するのだし、この際だから、「今」税務番号を取ってしまおう!というのが、この勢いで、独立することになった大きな理由である。

今からちょうど3年前、私は、イタリアで車の免許を取得した。
日本でオートマ限定の免許は持っていたものの、書き換えが出来る期間をとっくに逃していた私は、「いつか、田舎に住みたい!」思いを胸に、イタリアでの免許取得に奮闘したのだった。
イタリアでオートマ限定など無いから、乗ったこともないマニュアル。
試験の当日さえ、エンストしていた私が、よくまあ取れたなぁと思うけど、今は全く運転していない。
独立して、落ち着いたら車を購入しようと呑気に構えていた私が、突然降って沸いた話に、
「え⁉︎ 大型免許も取らなきゃ行けないの???」と、
ちょっとドギマギした。

心の友は言った。
「敷地内の運転は大丈夫だと思うよ。それに書類上の話だから。」

正直、ちょっとビビった。
普通に免許を取った時でさえ、聞き慣れないイタリア語にまみれ、一生分の勉強をした…と思っていたのに、またあの日々を迎えるのかと思ったら、ちょっと自信がないなぁと思っていたからだ。
それどころか、完全なるペーパードライバー。
普通の車さえ、どうか…というところ。
そんな私が、トラクターの所有者になるなんて。

独立申請をしてから、1週間後、私は、オリーブ農地のある地域のACIアーチという、管轄の交通局に向かった。

ここでも、不動産屋のステファノが面倒を見てくれた。
同じ頃、トラクターを運転していた若者が横転してしまう事故が地方ニュースに流れていて、元所有者のシニョーレが、私ではないのか?と「心配していたんだ…」とこぼした。
ちなみに、エンジンのかけ方すら、知らない。

呆気のないもので、所有者の書き換えは、本当に書類上だけのもので、あっという間に手続きが終わった。

「おめでとう。今日から、トラクターに乗れるね。敷地内に限ってだけど。」
ステファノはそう言って、笑った。
私も、笑う。

6月中旬。

イタリアで初めて車を所有することになった。
しかも、トラクター。
なんだか微妙な気持ちである。

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