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イタリア、郵便物の旅

その日、外出先から戻って郵便受けを開けると、珍しく、1枚の不在票が入っていた。

役所から送られてきていた書留郵便。
紙には、私の名とそれを届けようとした日時、トラッキングナンバーと送り主しか書かれていない。
早速、インターネットであたってみる。これが出来るようになっただけ、随分マシになったイタリアである。イタリアの郵便事情は、本当に悪い。
調べてみると、2回までお届けのチャンスがあり、その後、郵便局にて15日ほどの保管期間があり、それを過ぎると、送り主に戻るらしかった。

2回目のお届けは、きっと翌日あたりに来るのだろうと、朝は8時半から待機をし、いつでも外に出られるような格好で夕方の5時くらいまで待ってみる。が、来ない。
仕方ないから、そのまた翌日も、待ってみた。でも、来ない。
そんなんで、3日という日が過ぎていった。

ネット上では、相変わらず「お届け中」の文字。
仕方ないから、向こうから来ないのなら、こっちから出向いてみることとする。
まずは、近場の郵便局から。
「すみません、この書留郵便を受け取りたいのですが。」
郵便局員のお姉ちゃんは、カチャカチャとコンピュータを操作して、言った。
「これ、ココにはないわ。あっちの郵便局に行ってみて。」
来た郵便局とは、反対方向の郵便物保管所を指定される。時間を調べたら、その日は既に閉まっていた。

翌日、朝8時半。その時間が、保管所の開く時間である。
家から15分ほどトコトコと歩き、辿り着くは、警察署と一体化している郵便物保管所。なんか、物々しい感じがするけど、特に引き留められず中に入れた。案内に向かって、奥へと進んでいく。
中に入ると、おばちゃんが一人で対応していた。
「ここにあると聞いたのですが。」と不在票を差し出した。
おばちゃんは、言った。
「ここは、駐車違反とかの罰金の書留扱い専用だから、奥の倉庫の方に行ってみて!」

この時点で、もう確実に、「たらい回しの刑」にあっている。

奥の倉庫にたどり着く。中では、忙しそうに郵便物を扱う人たちが働いていて、「あ、ここに入ってきちゃいけません!」と怒られる。
困っていると、オリジナルがアフリカか南米系のお姉ちゃんに助けられる。お互い、イタリアの中の外国人って括りになるのだろうか、とにかく、ありがたい。責任者を呼んでくれることになった。
中では、従業員たちがケンカ腰で言い争いしている。その奥の方から、責任者であるシニョーレがやって来た。
手早く、事の経緯を説明すると、「ちょっと待っててね。」と、不在票を持って奥に行ってしまった。途中、言い争ってる従業員をなだめながら。責任者って、やっぱり普通の従業員とは違う。

数分して、ようやく戻ってきた責任者は言った。
「これ、怒って良いよ。郵便物は、君が先に行った郵便局にある。」

えっと、これは、なんですかね。たらい回し?
回されてる?
いや、これは、ひとつの…旅だな。いや、冒険か。

人は、とんでもない状況に陥ると、発想もおかしくなる。

もう、乗りかけた船だから、そのまま、昨日行った郵便局へと出向くことにした。
朝の9時半。人はそんなに居ない。
昨日とは違うお姉ちゃんが、コンピュータでカチャカチャと調べてくれた。
「あのね、まだこちらに向かって搬送中だから、受け取り可能は明日以降になります。」

そっか。明日は土曜日だけど、早起きするしかないな。
時は、コロナの真っ只中。イタリアでは再びロックダウンの勢いの中である。スーパーなどを併設している施設だから、人が多そうな気がする。

家に戻ってきて、色々と用事を済ませ、ふいにネットを覗いてみた。
「本日より指定の郵便局での受け取りが可能です。」

証拠にと、郵便局のホームページをスクショして、再び、郵便局へと向かった。とうとう、クライマックス。
さっき来た郵便局は、運良く空いていて、すぐに呼ばれた。
見ると、昨日のお姉さんだった。
何事もなく言う。「身分証明書!」
毎日、いろんな人を相手にしてるから、多分、昨日のことは忘れてる。でも、お陰で、私は、郵便物を巡って、旅をした。あんまりしたくはない旅だけど。

「ここにサインをしてください。」と言われて、サインをした。

そうして、ようやく受け取ることが出来た、私への郵便物。
なんと、1週間かかった。
速達の書留便なのに、長い長い旅である。

イタリアは時々、日本より遠く感じたりする時がある。

それで思い出した。
銀行のカードが送られているはずなんだけど、
あれは、どこに行ったのだろう…
送られてから、既に1ヶ月以上が経っている。

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