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トスカーナ・オリーブの夢 7

不動産屋のステファノに促されるまま、「ぜひ見せたい!」と豪語する物件のある場所へと、私たちは向かう。

「この物件はね。とにかく、見晴らしがいいんだ。南向きの物件でね、一日中、日が当たる…」

嬉しそうにステファノは話し続ける。
正直、あまり大きな物件には興味がない。
というか、予算もない私にとっては、その話すら、BGMのようにしか聞こえない。

さっきの場所から、車で15分。
あたりは、広大な農地で、オリーブ畑が広がっていた。

この土地の持ち主であるシニョーレは、もう80を超えるのだそうで、いよいよ体がキツくなってきたから、手放したいのだと語った。
14ヘクタールもの土地。
専門は農家かと思いきや、「技術学校の先生なのだよ。」と語ってくれた。
そのピントした背筋に、とても80を超えているとは思えない。
いつも思うけど、イタリア人のご老人は、本当に元気な人が多い。
かつて、「もっと外に出て、色んな人と出会った方がいい…」と教えてくれたのは、やはり84歳なるシニョーラだった。

14ヘクタールの土地、
2軒分のアパートと倉庫のある家、
そして改装したら素敵だなと思える納屋がある。

「14ヘクタールの土地は大きいねぇ。」

農家の経験すらない私は、ヘクタールという単位だってピントこないのに、その壮大すぎる土地に、そんなヘンテコな言葉しか出てこなかった。

「ここはね、かつて、ワインも作っていて、この辺りでは、評判の良いワインだったのだよ。」
そう言いながら、そのシニョーレがとったプレミアムを嬉しそうに、なぜか、ステファノが見せてくれた。

Bagno di Gavorrano という土地は、その名の如く、雨に降られやすい。
最初に、この土地の名前を出した時、周りのイタリア人がいうところの、イメージが今ひとつだったのには、土地名に由来するイメージから来ると思われた。

オリーブの木は、程よく乾燥した土地の方が育ちやすい。
湿度の高いところはな…と思ってたところへ、ステファノが言った。

「ここのね、隣の広大な土地はドイツ人経営のゴルフ場になっていてね、だからか知らないけど、周りに住んでいる人たちの質も良いんだよ。ここから500メートルほど先の道を挟んで向こう側は雨にやられるんだけど、ここは太陽に恵まれている。こんな良い土地は、なかなか売りに出されないんだよ。だからどうしても、君たちに見せたかったんだ。」


なんだか、夢物語を聞いているような気分で、その土地を後にした。

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