フィレンツェの空 22/5/2021
テラスの花が満開になっている。
パセリやローズマリーにキャベツやブロッコリー。
私の育てている植栽は、その殆どが食用で、
食べてしまえば終わりかと思っていた野菜たちの生命は、
だがしかし、しっかりと季節の中で生きている。
今年のイタリアの春がいつもより寒くて、5月も中頃を過ぎたというのに、
今になって花を咲かせている。
その花に、ミツバチがやってきて、せっせと蜜を集めている様子を見て、
ふと、昔のことを思い出した。
あれは、小学校の4年生か5年生くらいの頃だったと思う。
まだ中学にも行かないのに、大人たちは、私たちがどこの高校に行くだろうとか、そんな話をしていたのだと、母ちゃんから聞いた。
「先生が言ってたよ、この高校くらいは行けるんじゃないかって。」
その頃は、成績によって、行く高校のレベルが決まっていたようなものだった。
そんなことなど全く興味のなかった私は、大して勉強をしているわけでもないのに、「勉強はもういいかな。」なんて思っていた。
今考えても、青い。
「あのね、将来は田舎の小さな一軒家に住んでね、自給自足の生活をするの。だから、高校とか大学とかは(行かなくても)いいかな。」
私の口からそんな言葉が出た。
なぜ、そんな事を言ったのかは知らない。
全く根拠のない、言葉だった。
「あんた、そんなこと言って。虫が嫌いなくせに、田舎に住みたいってね、考えが甘いのよ。」
母ちゃんはそう言って笑い飛ばした。
虫…特に、飛ぶやつとか、好きではない。
母ちゃんは、自分の子供のことをよく分かっていた。
腹は立つけど、いいところを突いてくる。
田舎には行きたいけど、虫が嫌だなぁ…というのは、いつも私のテーマみたいなものだった。
田舎に行きたい…
これは、今私が思う、将来の夢である。
いろんな仕事をして、ここまで歩いてきて、今再び、あの頃、私の口から飛び出た将来の夢を実現させようと思う自分がいる。
テラスの野菜たちには、いろんな虫がやってくる。
虫には虫の事情があって、それぞれの世界で生きている。
もちろん、天敵ってヤツも居るのだけれど、虫のおかげで、育つものもいる。
本当に世の中、上手くできている。
テラスで花を咲かせる野菜たちを見ていて、思う。
自然の法則って言うのだろうか。
人は、自分たちの都合の良いように、勝手に世界を変えてきたけれど、
それすら、結局は、淘汰される。
このコロナだって、そうなのかもしれない。
そんな世界を垣間見ているうちに、
虫なんて、さほど、気にならなくなってきた自分に気づく。
ああ、やっぱり、私は田舎に行きたい。
思いは、ますます、強くなる。
5月も下旬。
空は相変わらず、雲に覆われていて、なんだか今の世の中を見ているみたいな気分にさせられる。
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