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【読書感想文】同志少女よ、敵を撃て

本屋大賞を受賞した本作品は、人類史上最大の犠牲者を出した1941年~1945年の独ソ戦を舞台にした物語です。

私はこれまで、戦争を題材にした映画や小説を積極的に見ることができませんでした。悲惨な描写が次から次へと押し寄せて、しばらく暗澹たる空気を引きずってしまうからです。

でもこの物語はこれまで見てきた戦争と大きく違いました。まるで主人公に乗り移ったような感覚になります。戦闘シーンはとても緊張感があり、のめりこんでしまいました。そして感じるのは、悲しみよりも先に混乱と怒り、恐怖です。

戦争の恐ろしさは、多くの命が奪われてしまうことだと思っていました。もちろんそのことに変わりはないのですが、主人公の変貌を目の当たりにすると、心が麻痺して蝕まれていくのも戦争の恐ろしさと感じます。

イワノフスカヤ村にいたとき、自分は人を殺せないと、疑いもなく思っていた。それが今や殺した数を誇っている。

同志少女よ、敵を撃て

狙撃兵になる前の主人公は、鹿を一匹撃つときも意識が濁ります。しかし、復讐心に支配され狙撃兵となった彼女は、まるで別人になってしまうのです。

また作中には、ドイツ兵とソ連兵どちらも死んでほしくないと訴えるソ連の女性が登場します。彼女の言っていることは、本当にそのとおりだと思います。

しかし、そんな彼女に苛立ちを覚える主人公。自分が撃たないと殺されてしまう環境にある主人公からすると、彼女の発言は綺麗事に聞こえてしまうのでしょう。

人間を人間と思えなくなるのは、本当に恐ろしいことです。

重たい内容ではありますが、狙撃小隊の少女たちの会話シーンなど、ふっと一息つける場面もありました。全体的にとても読みやすい作品なので、戦争を描いた作品が苦手な方にもおすすめです。




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