「第２３話」アメリカ初の授業で教授が２回も来なかった話

エピソード４（ニューヨーク・短期大学時代）第２３話

ニューヨークのコミュニティーカレッジで初めて統計学の授業に出席した朝。教室にいる生徒の９割がアメリカ人だと知った私は縮こまった。NYCに渡り数週間の私が、これから英語でアメリカの学生らと対等に授業を理解していけるのか不安だった。

５分待てど教授は来ない。それから１０分。１５分たっても教授は一向に姿を現せず、おかしいと思った何人かのクラスメイトはゾロゾロと教室を後にし、Eビルディングの２階にある、数学のデパートメントへと向かっていった。私も金魚の糞のようにみんなについて行く。クラスメイトの一人、ヒジャブを被った女の子が、みんなを代表して受付の誰かとやり取りをしてくれていた。彼女は非常にテキパキとしており頼れる存在だった。教授が来ないと見限り、大きくハァーとため息をつき、教室を率先して出て行ったのも彼女である。良い意味でも行動力があり、ここから私は何かエネルギーというものを感じた。こういった能動的な行動から、学生の学力がある程度分かるものである。（←持論である）短期大学で覇気のない学生を沢山見てきたが、彼女の率先した優等生のような行動が誇らしくあった。と同時に、私がこんな優秀そうな彼女と同じクラスにいて良いのか。そんな不安もあった。

彼女は受付の人と長い間やり取りをしていた。５分から１０分は経っただろうか。彼女は自分の大学ノートの一ページを破り、クラスの皆に自分の名前を書いて、それを回すように言った。アメリカでは教室のパソコンに不具合があり、出席をつけられないときに、そのようなアナログの手法をとる事がしばしあった。ちなみに、この統計学の授業はアメリカの短大で一番最初に取った授業である。ESLよりもこの日の授業が最初なので、記念すべきアメリカでの初の授業で教授が来ないというハプニングが起きた。どうやら事務局の手違いで教授が指定の教室に来なかったとの事。不備を訂正しておくから、今日は出席は取っているから帰って、次の授業で来なさいとのような事を彼女は言っていた。その日は自分の名前を紙切れに書いて私は帰った。

アメリカとは凄い国である。統計学の授業は確か月曜日と水曜日に取っていたと記憶している。初日の月曜日に教授は現れず、やれやれ、とんだハプニングを食らったと思っていた矢先である。水曜日にも全く同じことが起きたのである。笑 これにはゆう子もウソーンバカーンイヤーンである 笑 今度は学生は１０分も待たなかったと思う。また皆で数学のデパートメントに行って受付の人に文句を言う。その日も自分の名前を渡されたノートの切れはしに書く。

この時まで、実は私は何が起きたのか良く分からなかったのである。教授が来ない、何かの手違いというのは分かっていたのだが、私たちが教室の場所を間違えているのか、それともこのクラスは存在しないのか、漠然としていたのである。英語が出来ないときに、トラブルの解決が云々という旅先での苦い失敗談等を良く聴くが、私の場合はそれ以前の問題だった。まず何が起きているのか、状況を把握できないのである。こういった事がニューヨークに移り住んだ最初の年に多く起こり非常に苦労した。良くも悪くも、自分から助けを求めないと、相手には伝わらない。日本の高校や大学で、いかにも西洋人のマイケルがオロオロしていたら、周りの学生は手を差し伸べるだろうが、ここは人種のるつぼニューヨークだ。周りの学生は、埼玉県春日部市出身の英検３級レベルの東洋人がわずか数週間前にNYCに渡ってきたことを知るすべもない。ここで、言葉を理解していない私を助けようとは思わないし、そもそも皆問題を共有している感じだった。私はどうしても何が起こっているのか知りたい、そしてクラスでも存在感を出すために、事務局の片隅に座っていた黒人の女生徒に話しかけてみた。「月曜日も教授は来なかったよね？」彼女らは、悲し気というか、共感するという感じではなく、単純に疲れた様子で「Yeah...」とボソッと言った。

私は反応は薄かったものの、自分の言っていることが通じた。そして東洋人の私を良い意味でも悪い意味でも特別視することなく、適当に「Yeah」と言ってくれたのが嬉しかったのである。私はアメリカ人学生とのちょっとした会話をこの時初めて交わすのであった。

【続く】

写真：なんとエリザベスが大好きなカーネル教授の写真を先ほどパソコンから発見！（毎週金曜日はパソコン部屋で、実際にパソコンを使ったライティングに授業にフオーカスしていた）

ジャズピアニスト 二見勇気
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