おひるね

公園のそばで小鳥と暮らしています。ひとりひとりの人生の背景にあるドラマを書くのが好きで…

おひるね

公園のそばで小鳥と暮らしています。ひとりひとりの人生の背景にあるドラマを書くのが好きです。

最近の記事

晩夏の祈り

今年も道に蝉が落ちる季節が来た。 大抵はアスファルトの上。 運が悪いと車に轢かれてフラットになる。 最期は突然やってきて、 まだ昼間の熱さが残る地面にねじ伏せられ仰向けになる。 虫が嫌いな人はこの季節が憂鬱だという。私は大丈夫だ。 できれば植え込みの中に入れてあげたいが、時たままだ気力が残っているヤツは仰向けのまま、ジジジジと逃げていく。 先週、建物の入口に大きめの黒っぽい甲虫が落ちていた。 「助けようか?ゴキブリかな?じゃ、やめようかな」と自分勝手に虫に優先順位

    • 大学4年生の分岐点「私だったかもしれない人」

      飼っているインコがご縁で知り合ったオリエさんは駐妻だ。駐在員の妻を略して駐妻。私の世代だと、短大を出て人気の商社に就職して、職場結婚。 旦那さんが海外駐在になって、家族として世界各国で暮らす。それにあこがれる人も少なくなかった。 オリエさんも学校を卒業して商社に入り、職場結婚した。旦那さんの定年退職間近まで、アメリカ大陸、ヨーロッパで暮らした。さまざまな国のお料理が上手で、とくに東南アジア系が得意だ。すでに社会人になった一人娘のルリコさんを大切にしていて、友達親子のふたりは

      • わたしの大切な命は卵ひとつより軽い

        6年前にももこさんが家に来た時、もともとは男の子を迎えるはずだった。セキセイインコの女の子はふつうおしゃべりしないし、卵詰まりを起こすと簡単に落鳥する。悲しい思いをするのは嫌だなと思ってお店に男の子をお願いした。 ひと月後、女の子が店に入荷したと聞いたとき一瞬お断わりしようかと思った。でも待てよ。それじゃあ、私が大学生の時の就活で会社の採用情報さえ送ってもらえなかったのと同じじゃないの?女だから要らない。学卒の女なんてどう使っていいかわからない。女は結婚したら腹がでかくなる

        • 月とヘリンボーン

          「なんで、そんなこと知ってるの?」 母はちょっとの間、考え込んだあとで、ぎょっとした顔で私を見た。 「いや、見てたの。それを覚えてるだけ」。 「よしひろが私のお腹にまだいたから、9月だったかしらね。その人、お父さんの異母兄弟で、東北大学の研究室にいるって言ってた」 2歳にもなっていない赤ん坊の私は、出窓の木製の欄干のうえに乗せられて、外の空気を吸っていた。 少し先の道ばたに低い木の電柱が少し傾いて立っていて、その右上には上ったばかりのオレンジ色がかったまんまるな月がやわらか

        晩夏の祈り

          創業明治四十三年 寿司屋の暮らし

          パパさんが子どものころ、玄関を開けるとすぐに舗装していない土の道だったそうだ。今は舗装された2車線道路の向こうに区民センターがどっかりとそびえ立ち、右どなりには高さ131メートルのタワマンが建設中。ビルの谷間の日陰で押しつぶされそうな小さな5階建ビルの一階に、その寿司屋がある。2階、3階は家族の住まいで洗濯物が干してある。創業明治43年の寿司屋は今年で114年、今の大将で6代目だという。 木製のおしぼり受けは角が丸くすり減って、木の目が浮き出している。明治、大正、昭和、平成

          創業明治四十三年 寿司屋の暮らし

          オタクのご成婚

          実家の家族とのLINEに「リカが婚約した」という投稿が流れて来たのは今年の3月。 姪っ子のリカは超ド級のオタクだ。おまけに身内を褒めるのははばかられるが滝川クリステル似のハーフのような美形だ。 でもあまりにオタクすぎるのと、ほとんど口も利かないから実年齢イコール彼氏いない歴。男性に追いかけられたら逃げる。周りに取り巻きの男性たちはいるけれど誰とも付き合わないで今年の秋で30歳になる。 まだ3か月で婚約?マッチングアプリに違いない。。。 3か月は早すぎだろと思って、一度同棲

          オタクのご成婚