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英語朗読を学んでみよう《実践編》

前回の「英語朗読を学んでみよう」で英語朗読がどのようなものであるか概要はわかったと思います。ここでは実際にどのようなことをすると英語の音読が朗読へ変化していくのか、ということを例文や音声を用いて紹介していきます。皆さんも是非挑戦してみてください。

今回使う文章はこちら↓

We walked down the path to the well-house, attracted by the
fragrance of the honeysuckle with which it was covered. Someone was drawing water and my teacher placed my hand under the spout. As the cool stream gushed over one hand she spelled into the other the word water, first slowly, then rapidly.
I stood still, my whole attention fixed upon the motions of her
fingers. Suddenly I felt a misty consciousness as of something forgotten¬-a thrill of returning thought; and somehow the mystery of language was revealed to me.

​これはヘレンケラーのThe Story of My Life という自伝からの抜粋(第4章の途中)です。英語版の青空文庫ともいえるGutenberg projectで全文を読むことができます。(下線部をクリックしてください)それでは朗読してみましょう!

・・・と言ってもすぐに声に出せばよいというものではありません。前回も言ったように朗読は①聞き手を意識する音声表現である②文字以上の情報を声に出す③読んでいる文章が聴き手に情景のようになって伝わる、ことが大切と言ったことを覚えているでしょうか?そのためにどうすればいいか一つ一つ丁寧に考えていきましょう。

1.内容を理解する

当たり前!と思うかもしれませんが、これは実はとても大切なことで音読しているとついつい忘れてしまうことなのです。声に出して文章を読む時、実は何も考えずに音読することは可能のなので,結果オウム返し(Parrot reading)や空読み(Eye-mouth reading)というものになってしまう危険性があるのです。皆さんも学校の宿題で「10回音読しなさい!」と言われて読んだものの、大して内容を覚えていない、という経験があるのではないでしょうか。これは英語だけでなく日本語でも同じ現象をもたらします。書かれた文字のみに注目し、回数をこなすことをゴールとしているため、文字が単なる音声シンボルとなっているのです。英語という日本人にとっての第二言語(second language)となっているため、余計に「音を出す」ことに意識が行ってしまうからなのです。自分で内容を理解していなければ聞き手に内容を正確に伝えるのは不可能です。「この読み手は内容をわかっていないんだな」ということだけが聴き手に伝わってしまいます。

自分の書いたスピーチやプレゼンテーションでも難しい単語を使いまくったり、偉い人の言葉を引用しすぎたりするとかっこよく聞こえるかもしれませんが、聞き手には「届かない」ことがよくあります。それは文章が悪い、というよりは語り手がその内容を十分に理解し、「自分のもの」にしていないからなのです。

では内容理解はどうすればいいのでしょうか?最初に黙読してざっと内容を頭に入れる・・・というやり方もありますが、英語のアナウンサーは最初から声を出して音読する、という方法をとることが多いです。私が所属していた放送局では15分のラジオの生放送で多い時は10本の原稿を読むことがあります。下読みと言われる「準備の時間」は30分程度くらいしかないことが多く、つまり何度も繰り返し練習する時間がないというわけです。黙読してから音読してわからないところを調べる・・・という余裕がありません。ですから最初から声を出して読み、分からない発音、意味がわからない単語に印をつけ、文節の区切りにスラッシュを入れて、繋がる単語は一区切りによめるようにマークをつけていくなど様々な「マーキング」をして同時に内容を理解していきます。先ほどの文章でしたらこんな感じになるでしょうか。

We walked down the path/ to the well-house, /attracted by the fragrance of the honeysuckle /with which it was covered.// Someone was drawing water /and my teacher placed my hand /under the spout. //As the cool stream/ gushed over one hand/ she spelled into the other/ the word “water”,/ first slowly,/ then rapidly. ///
I stood still, /my whole attention/ fixed /upon the motions of her fingers. //Suddenly/ I felt a misty consciousness as of something forgotten¬/-a thrill of returning thought;// and somehow/ the mystery of language /was revealed to me.

/ はスラッシュ、文節毎、もしくは文節の中の内容(意味の塊)で区切っています。太文字にしているのは繋げて読む必要があるため、単語のグループをひとまとめにするという印です。アナウンサーは現場では自分で手書きで書き込みますので印にこれといった決まりはなく、自分がわかればいいのですが、英語学習では「スラッシュリーディング」や「チャンク読み」といった学習法がありますのでそちらを参考にするのも良いかと思います。これは英語の内容を理解しながら読む時有効とされています。まずはこのマーキングにそって読んでみましょう。

We walked down the path/ to the well-house, /attracted by the fragrance of the honeysuckle /with which it was covered.// Someone was drawing water /and my teacher placed my hand /under the spout. //As the cool stream/ gushed over one hand/ she spelled into the other/ the word “water”,/ first slowly,/ then rapidly. ///
I stood still, /my whole attention/ fixed /upon the motions of her fingers. //Suddenly/ I felt a misty consciousness as of something forgotten¬/-a thrill of returning thought;// and somehow/ the mystery of language /was revealed to me.​

どうでしょうか、文章の「意味」はなんとなくわかってきましたね。ここまでは実は「音読」の範疇なのでやったことがある人はいるのではないでしょうか。ここをまず丁寧に行っていかないことには朗読には進めませんので①丁寧に声に出して読む②わからないところを調べる作業を徹底的に行いましょう。

2.背景を理解する

朗読では「文章に書かれている以上の内容を表現する」と何度も言っていますがそれはどういうことなのでしょうか。書かれた文章の内容の理解の仕方は1.で行いましたが、それはまだ「書かれた文章」の理解に過ぎません。ここからは文章を書いた作家、時代、含まれたメッセージなど文章の「背景」を理解していきます。これにより文章のどの部分が大切で強調スピードの変化声のトーンの変化といった「プロソディ」を導入、し読みに彩りを与えていくことができるからです。

作家はだれ? 答えはHelen Kellerです。でもここで終わってはいけません。ヘレンケラーはどんな人なのか?そこに注目しましょう。今ではインターネットで大抵のことが調べられますからさほど難しいことではありません。

ヘレンケラーが1歳半の時に病気で目と耳の機能を失ったこと、この年齢で耳が聞こえないということは話すことができない、いわゆる三重苦という困難を背負う人生であること、彼女との運命の出会いとなったアンサリバン先生はヘレンが7歳の時に家庭教師としてやってきたこと、そしてヘレン大学在学中にこの「The Story of My Life」を書いたということなどはすぐに調べればわかりますよね。ではこういった情報をこの文章にどう反映するか・・・そこが朗読のみせどころならぬ「聴かせ」どころとなるのです。この他にもYoutube などで彼女の映像や音声を観たり聞いたりすることができます。読み手が作品の背景を深く理解することは読み手の声に説得力を生みます。聞き手は安心して聞くことができるのです。興味のある方は是非こちらを参考にして題材の文字以上の情報を取り入れておきましょう。

3.プロソディを活用する

さあ、ここからいよいよ「音読」を「朗読」に変えていく作業に入ります。これはとても細かい作業となりますので少しずつみていきましょう。

まずは最初の文章sentence1.

We walked down the path to the well-house, attracted by the fragrance of the  the honeysuckle with which it was covered.

朗読で大切なポイント①comprehension(理解・解釈)②Imagination(想像)③Visualization(可視化・映像化)というのは前回お伝えしました。そして1.では文章そのものの理解2.では背景の理解 つまりHelen Keller その人についても色々調べました。なのでここでは②Imaginationと③Visualizationに注目します。全体の文章がないのでわからないこともあるかもしれません。(そんな時は?・・・そう調べればいいのです!)冒頭にもリンクを貼ってありますがこちら(The Story of My Life 第4章の最後の3パラグラフ)です。少し前(少なくとも4章だけでも)読むことで何が起きているのか全体を把握することも可能です。①の理解・解釈は「詳しく」知ることも意味します。何度も言っているように「聞き手に正確に情報を伝えるためには何をすればいいのか」を考え、工夫することがよい英語朗読につながります。それは質問された時にすっと答えられることも意味します。

少し話題が反れますが、スピーチコンテストやプレゼンテーションなどで すらすらと、メモも見ずに完璧に暗記した内容を発表できるのに、その後のQ&Aではたじたじになってしまってなんとも格好の悪い思いをする・・・ こんなことを実際体験したり、他の人をみたりしたことありませんか?  それは「本当に内容を理解」していないからなのです。文字に書いた、声に出した内容だけではなくその背景、その先、その詳細、例など時間などの制限からはぶかざるを得なかったディテールがあるはずなので、それをきちんと頭の中に整理して入れていれば、質問が来ても対応できるはずなのです。表面的に暗記した内容をきれいに音声化するだけでは聞いている人に「伝わった」とは言えない・・・コミュニケーションとは双方向であるため、聞き手に応える、聞き手が何を求めているのかを想像して語る、そんな行為が必要なのです。

そこでこの冒頭の文章、の最初の箇所 We walked down the path to the well-house, ここを読んで何がわかるか考えてみましょう。ここはどこだろう?ヘレンの家の庭のようです。Weというのはヘレンとサリバン先生(全体を読んでいればわかりますよね)小道の先に井戸小屋(井戸の上に屋根がついている小屋のようなものかな?という想像はつくでしょう)二人が手を取って庭の小道を歩いていくところを想像してみましょう。その小道の先に井戸小屋がある・・・そこまで想像できればもっと良いですね。

次に以下の箇所を読んでみましょう。

attracted by the fragrance of the  the honeysuckle with which it was covered.

ポイントはthe fragrance of the honeysuckleという部分です。あえて香り=the fragranceと書いてあることに注目していることに気づきましたか?何故鳥のさえずりではなく、小道の花壇(あるかどうかわかりませんが)の花ではなく、香りなのでしょうか?Helenがどういう人なのか思い出してみましょう。彼女は目が見えない、耳が聞こえない。残されたのは触覚と味覚と臭覚なのです。足元の小道の土(か芝生か石畳かわかりませんが)と手をつないでいる先生の手のひらの感触と井戸の方から漂ってくるhoneysuckle(スイカズラ)の香りしかわからないのです。Helenにとって「スイカズラの香り=井戸小屋」という認識があるのだろうと想像ができます。ということは、the fragrance of the honeysuckleはHelen にとって大変重要な情報だということがわかります。スイカズラの茎が弦のようになって井戸小屋を覆っている状態が目に浮かぶでしょう。

          honeysuckleってこんなお花です。

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    Aftabbanoori, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commonsより

そこへ向かって手に手をとって歩いている20歳くらいの若いサリバン先生と7歳くらいのヘレンの姿を想像しましょう?脳内で描いてみましょう。可視化するとはこういうことを意味ます。

①まず全体の文章のキーワード、ねらい、メッセージをつかみます。ここで全体の声のトーンを整えます。どんな音色で、高さでスピードで読むとこの文章のイメージを聞き手にとどけられるか。(童話や昔話なら優しい語り調になるでしょうし、スピーチ(内容によりますが)強い口調になるかもしれません。詳細がわからなくても「こんな感じ」というイメージを音調で伝えることをするのです。②次にパラグラフごとの狙い、メッセージ、イメージへと内容理解の焦点を狭めていきます。パラグラフは「シーン」を描いていることが多いのでその場面ごとのイメージをとらえていきます。その場面が前の場面と異なっていればば声にも変化が必要になります。声のトーンの上げ下げたりする工夫が必要になってくるでしょう。読むスピード・テンポも速くした方がいいのか、ゆっくり読んだらいいのか。また、シーンの変わり目にはどのくらいのが必要なのかそうしたことを考えて音声表現技術であるプロソディをを用います。さらに③パラグラフ内の文章ひとつひとつを分析することで単語の持つ本当の意味や作者の思い、狙いが理解できますので何を強調して、どこに間をつけて、声のトーンをどうとらえて読めばよいのかがわかってきます。簡単な例をあげると「As she whispered " I am fine, good bye." a tear dropped down her cheek.」という文章を読んだ時もし全体文でこれが悲哀に満ちたラブストリーだとしたらこの文章は恋人との別離を表しているかもしれないので彼女のささやきは悲しい声になるかもしれません。

しかしもしこのヒロインが「一人で生きていくのよ」と決意したシーンであれば自分に向けて「大丈夫!」と言い聞かせているような声になるかもしれません。

 このように朗読とはとは全体→パラグラフ→文章と少しずつ焦点を細部に移動して音のトーンや表現、イメージを決めていき、そしてまた全体の雰囲気まで戻すという作業を繰り返していきます。その都度音声表現をチェックし工夫します。

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こうしてみると、後で出てくるwaterが関連する「well-house」という単語とその井戸小屋を想像させ、さらにヘレンの状態を伝える」「the fragrance of the honeysuckle」の持つ意味が理解できるので大げさな強調はしないものの、注目して読むのだろうと気づくのではないでしょうか。

強調・stressというと大きな声で言ったり大げさに言ったりすることを想像する人は多いのですが、何か大切なことをいう時に実はその単語だけ大きな声をしたりオーバーに言ったりすることだけではありません。(むしろこういうことをするのは子供が多いのです)①ゆっくり発声する②前後に間をつける③強い音(大きさではなく、音に圧をつけるようなイメージです)などの工夫を行うことを意味します。この文章にこの音という正解はありません。読み手がどのように解釈し、どのように相手に伝えたいかにかかってきます。ですからなおさら深く理解し、聞き手に届けるようなく風が必要になるというわけです。

さらにここでのポイントはthe fragrance of the honeysuckleの箇所をひと塊としてまとめてつなげる意識で読む、ということが大切になります。意味だけ考えながら読むとthe fragrance/of the honeysuckleと切りたくなりますが、切って声に出すと意味が伝わらなくなるのです。「スイカズラの香り」で一つの塊です、というよりも一つの意味の塊にならなくては聴き手が文章を聞いた時脳内で小道に漂ってくるスイカズラの香りを感じることができないのです。ですから文章を区切るとしたらその後のwith which it was coveredの前で一旦区切ります。文章が長い場合一息で読めませんから、息継ぎはここでします。息継ぎを適当な場所でしてしまうと聴き手に正しい内容が伝わりませんから、文章の区切り、文節の区切り、意味の塊の区切りで小さく息をします。

会話をしている時、息継ぎは聞こえません。自然と「意味の区切りで」小さく息を吸っているからなのです。逆に焦っていたり、走った後など息をゼイゼイしている状態の人が何を言ってるかわからないのは「息継ぎの場所が意味の内容と合致していない」からとも言えるでしょう。会話ではわかっているのに文章を読んだり、書かれた文章を暗記してしまうと、文頭や文法的な箇所で機械的に息継ぎをしてしまう人が多いため「語り」にならないのです。朗読は「語り」でもありますから、話すように読む!これが肝心です。

さてこの文章をそれでは内容を想像しながら「語るように」読んでみましょう。

We walked down the path to the well-house, attracted by the fragrance of the  the honeysuckle with which it was covered.

続いての文章sentence2です。

Someone was drawing water and my teacher placed my hand under the spout. 

この文章でわかることは、①井戸小屋に到着している。②誰かが井戸(ここはポンプ式です。何故ポンプ式なのかはspoutという単語でわかります。映画化もされているのでyoutube などで調べるとーリンク―この井戸の形をより具体的に「見る」ことができます)で水を汲んでいる。③そしてサリバン先生がポンプの水が出てくる先に自分の手をもっていっているという光景です。

この文章のポイントはSomeoneです。目の見える人のSomeoneと目の見えない人のSomeone、どんな違いがあるでしょうか。遠くからなのか近くからなのかどの段階でのsomeone なのかはわかりませんが、目が見える人には「人がいる」ことはわかるけれども「誰なのか」がわからない。顔が見えないのかもしれないし、知らない人なのかもしれませんが少なくとも「人間の存在」は確認できています。一方ヘレンは目が見えないので、このsomeoneはもっと曖昧です。「人間なのか生き物なのか、何なのかよくわからないけれども何か人間ぽい気配がする」くらいの認識なのかもしれません。実際のところはわかりませんが、このsomeoneは(映画や舞台では先生とヘレンしかこのシーンにはいませんので)井戸のポンプを動かしているのとヘレンの手を水の下に持っていっているのが両方ともサリバン先生だと想像できます。でもヘレンにはわからないのです。自分の手をつかんでいる人は(今まで手をつないでいたりしている経験上)サリバン先生だと認識できていますが、ポンプを動かしている人と同じ人物だとは(音も聞こえませんから)わからないのです。この「わからない」ことに気づくとsomeoneの発音が普通に発音する音よりももっと????と疑問度が強く出る音になると考えられます。国語の授業のようですが、登場人物の気持ちになって考えるとどう表現すればよいのか工夫することが容易になってきます。想像して、映像化する。その映像を聞き手に届けるのです。ポンプを動かしている先には水が勢いよく出てきていますか?

ではこの文章を朗読してみましょう。

Someone was drawing water and my teacher placed my hand under the spout.

だんだんコツがつかめてきたでしょうか?続いての文章sentence3はこちらです。

As the cool stream gushed over one hand she spelled into the other the word water, first slowly, then rapidly.

この文章は2つのパートにわかれているということがわかりますのでまずはそこを区切りましょう。前半はAs the cool stream gushed over one handですね。冷たい水が・一方の手に勢いよく流れ落ちたという意味ですからこの中でも区切りを入れます。 As the cool stream/gushed over one hand ここで注目するのはcool stream=ヘレンは触覚を使って水を感じている様子を想像すること。冷たい水が流れ落ちてくる感覚です。そしてgushedという動詞の意味と音にも注目しましょう。流れるという意味ですがpour でもflowでもなくgushという動詞を使っていると読んだ時の音に勢いがある、日本語のオノマトペのような効果があることに気づきます。音と意味を合致させることで聞き手がよりそのシーンを想像しやすくなるのです。多めの量の水が7歳の子の小さな手のひらにざーっと勢いよく流れ落ちているシーンですからgushedという音を静かに優しく読んではイメージが湧きませんし、むしろ聞き手はgushという意味と音が合致しないので混乱してしまいます。語り手の大事な任務は「情報を正確に聴き手に届ける」ことですから単語の持つ意味を正しく音声化することが必要となるのです。

ここでも少し余談ですが、正しい発音、きれいな発音は何故必要なのか考えてみたことがありますか?かっこいいから、ネイティブみたいだから・・・ではないのです。誤解を招かない、間違った情報を与えない、聞き手を疲れさせないためなのです。発音が間違っているもしくは聞き取れないと、聞き手は一生懸命に聴き、聞いた音を「あれかな?これかな?」と考えます。いちいちそんなことをしていては疲れてしまい、終いには「もういい」とあきらめてしまうかもしれません。コミュニケーション不成立です。発音をきちんと正しくすることは聴き手への配慮=工夫です。英語朗読でわからないところを無くそうという言っているのには「正しい発音を調べて再現できるよう練習する」ことも含まれます。それは聴き手のために、正しい情報を伝えるためなのです。

さて戻りましょう。後半部分、she spelled into the other the word water, first slowly, then rapidly. ここは少しトリッキーです。まず文章の区切りを間違えてはいけません。she spelled into the other/ the word water,/ first slowly/ then rapidly. 細かく切るとこうなります。(先ほど片方の手は水をざーっと受けていることはわかっています)もう片方the other の後にhandが本来あるはずなのが繰り返しなので省略されていることに気づかないと分割がうまくいきません。次の括りにこのパッセージ全体の一番のキーワードともいえる単語が登場します。the word water. このWATERをどう読むか、、、先ほどの「強調」というプロソディを用います。この場合は間と緩急を用いてみましょう。強調したい単語=waterの前後に小さく間をおき、waterを少しだけゆっくり読むという手法です。さらに一番のキーワードなのでややゆっくりめに読むことで他の文章や単語よりも目立たせることができます。

そしてこの後、first slowly, then rapidly.へと続きます。何故最初はゆっくり、次に速くw-a-t-e-rとサリバン先生はヘレンの手のひらに文字を書いたのでしょうか?以下は推測ですが(調べているのですが確認ができていません)まず一つ一つゆっくり文字を書いてそれが「文字である」とヘレンに意識させたい。文字の違いを認識させたい。そしてそれら文字が組み合わさって「単語」「言葉」になることを示すために、つまりまとまりと気づいてもうらうために速く書いた、のだと判断しました。朗読の場合、著者の解釈はある程度は調べることはできますが、全てに確認をとることは不可能です。自分で聞き手に納得させられるような解釈をしなくてはいけません。それには自分自身が納得できないといけませんから考えて「責任をもって」こう思うのでこういう読み方をしたと説明できることが必要になります。その説明をさらに正しく音声化しなくてはならないのです。

first slowly, then rapidlyを表現する方法は単純にゆっくり読み、速く読むということも考えられますがそれは文字を速く書いたりゆっくり書いたりすることになるでしょうか。むしろしなくてはいけないのは手の動きを想像しその動きを音にする、ことだとすれば、slowlyは丁寧に、rapidlyは勢いよく、はやめにとなるのかもしれません。読み手の解釈によって結果は変わってくるかもしれませんが、「想像して音にする」という作業は同じですので皆さんそれぞれ想像してこのシーンを音にしてみてください。

ではこの文章sentence3を朗読しましょう。

As the cool stream gushed over one hand she spelled into the other the word water, first slowly, then rapidly.

いよいよこのパッセージの(この本全体の)クライマックスに突入しますのでがんばっていきましょう。

I stood still, my whole attention fixed upon the motions of her fingers. 

皆さんはこの場面をどうイメージしたでしょうか。前の部分から切り離されて突然しーんとした、ヘレンが一人で真剣に考えている、もっというとヘレンの脳内に入っていくような、そんな場面を描いた人がいるかもしれません。Visualizationと言ってもわかりにくいかもしれませんが、自分が画家、映画監督、アニメーターになったとしたらどんなシーン(場面)を描くか、それを考えてみてください。シーン(場面)ごとにVisualizeことで全体の文章との関係性や場面転換、時間経過、登場人物の位置関係など様々なことを考えより詳しいシーンが描けてくるはずです。

この7歳のヘレンが手のひらに流れ落ちるもの(この段階では「水」という概念=名前が彼女にはまだ存在していません)が先生が自分の手のひらに書いているw-a-t-e-rとどう結びつくのか・・・考えている、プロセスしている貴重な瞬間です。「奇跡の人」はこれがなくては存在しない、それほどこのストーリーでは重要なシーンです。クライマックスにたどり着くまでのこの時間をきりとってみてください。強調させる方法の一つには先ほどいった「間」を前後につけるという手法があります。この間の時間を延ばすことでより際立たせることが可能になります。間というのは単なる無音ではなく、音のない効果音という意味合いがあります。英語ではsound of silenceなどという表現がありますが、無音には様々な意味があるのです。怖かったり、わくわくしたり、息をのんだり、言葉にでなかったり、それをすべて間で表わすことができます。文章に書いてある以上の情報もしくは文章に書いてある情報をよりわかりやすくするのが「間」を使った音声表現なのです。

以上を念頭に置いてまずは文章を区切りましょう。I stood still, /my whole attention/ fixed /upon the motions of her fingers. still の後の間の長さをどうするかはそれぞれ読み手の解釈によると思いますが、意味で考えるとこうなります。太字の部分は「ひと塊」として読むということになります。「私の意識まるっと全て」という塊、「先生の指の動き」がひと塊なのです。想像すると先生の指と動きを分けて描くことができないということからもまとめて読むのだと確認できます。こうして区切りながら、sentence 4の意味を考え、想像し、聞き手に届くように工夫してシーンを映像化して読んでみましょう。

I stood still, my whole attention fixed upon the motions of her fingers. 

最後の箇所になります。

Suddenly I felt a misty consciousness as of something forgotten¬-a thrill of returning thought; and somehow the mystery of language was revealed to me.

まずは意味を考えましょう。前の文章では静まり返った中、ヘレンが一生懸命水とw-a-t-e-rの関係性を探っています。そして「突然」何か忘れていたものを思い出すような、もやもやっとした意識を感じたのです。それは何か記憶が戻ってきてはっとした、感情がちょっと高まるような感覚です。そしてどういうわけか説明できないんだけれど言語の不思議に気づくことができたのです。というような内容でしょうか。

ここで大事なのはヘレンがこの時どういう感情でいるのかということです。トーン(声の音質・音色)をどうするかが大切な要素となる箇所です。ヘレンは気づいたのです!あ、モノには名前があるんだ!とわかった瞬間です。それまでのヘレンは4章の前の部分を読んでわかる通り、サリバン先生に何度も人形がdollであると指文字で教えられていたのですがピンとこなかったのです。先生の意図が全くわからなくてイライラして癇癪をおこして人形を壊してしまうほどでした。そんなヘレンが「わかった」瞬間はどんな顔をしているのでしょうか?その時の大切な瞬間を思い出した女子大生のヘレンはどんな表情でこの文章を書いたのでしょうか。各地で講演をしたヘレンはどんな風にこのシーンを再現して観衆に伝えたのでしょうか。

ヘレンの気持ちになるなんて無理・・・そうかもしれませんが、誰しも学びをしていて「あ!わかった!」英語でいう「a-ha!moment」瞬間のがあるでしょう。難しいと思っていた数学の問題が解けた、外国の人の言っていることが理解できた、管楽器の音を出す口の形が作れた、スポーツをしていて投げ方、打ち方、蹴り方のコツがつかめた、はじめて鉄棒で逆上がりができたなんでもいいのです。何度教えてもらってもピンとこなかったこととが頭の中でむすびついた瞬間です。やった!と思う人もいれば、気持ちいいーと思う人もいるでしょう。ホっとしたと安堵する人もいれば、じわじわ幸せをかみしめる人もいるかと思います。そんな瞬間を思い出してみましょう。では、ヘレンはどんな風だったのか・・・それを音にするにはどんな工夫が必要か、考えてみてください。顔の表情と声のトーン(音声)は繋がっています。笑顔だと笑顔の声が出ます。緊張していると緊張した声が出ます。朗読している時に百面相になる必要はありませんが、書かれた文章の内容と異なる表情をしていては違う音が出てしまい、聞き手には伝わりません。先ほどの「音と意味を繋げる」、がここでも言えるのです。

またまた余談ですが・・・スピーチやプレゼンは堂々としましょう、笑顔で語り掛けましょうというのは内容を聞き手に正確に伝えるためなのです。緊張していたり、つまらなさそうな声を出していると内容がどんなに素晴らしく希望を持たせる内容でも、緊張と退屈ばかりが聴き手に伝わってしまいせっかくの内容が聴き手に伝わりません。コミュニケーション失敗です。声のトーン、音色にも充分注意して内容と合った音を出しましょう。

さて、文章に戻りましょう。まず区切ります。

Suddenly/ I felt a misty consciousness/ as of something forgotten-/ a thrill of returning thought;/ and somehow/ the mystery of language/ was revealed to me.

スラッシュは区切り、太文字部分の①a misty consciousness  ②a thrill of returning thought ③the mystery of languageはひと塊に読むまとまりです。something と somehowは前半に出てきたsomeoneと同じような意味合いを持っていると解釈することもできます。はっきりとしていない、曖昧なもやもやした何か、なんだかわからないけれどもどうにかしてという意味です。女子大生になったヘレンが7歳の当時を振り返っている文章ですが、この時も何故分かったのか、どうしてモノに名前がつくことで概念が生まれる、ということの説明がうまくできない・・・というような様子がうかがえます。その「わからない」という内容をどう表現すればよいのか考えて声に出して客観的に聴いて修正してみましょう。録音して聞くのがとてもわかりやすいです。

また文章が長いですから大きな切りどころ、ここでは Suddenly/ I felt a misty consciousness/ as of something forgotten///¬-a thrill of returning thought; ///and somehow/ the mystery of language/ was revealed to me.でしっかり間が取れますからここで息継ぎをすることが可能だとわかります。もちろんそれ以外の短い「間」でも息継ぎはできます。逆に言うと、息が続かないから一気に速く読む、というのはNGです。聞き手は内容を初めて聞く、原稿がない、そしておそらく一回しか聞けないのですから、一度できちんとわかりやすく伝わるように読む必要があります。まくしたてるように早口で読んでも何も伝わりません。意味の塊で区切って、大きく内容が変わるところや強調したい箇所はしっかり間をとって「語る」「伝える」ようにしましょう。sentence 5の朗読です。

Suddenly I felt a misty consciousness as of something forgotten¬-a thrill of returning thought; and somehow the mystery of language was revealed to me.

最後に全文を英語朗読してみましょう。

We walked down the path to the well-house, attracted by the
fragrance of the honeysuckle with which it was covered. Someone was drawing water and my teacher placed my hand under the spout. As the cool stream gushed over one hand she spelled into the other the word water, first slowly, then rapidly.
I stood still, my whole attention fixed upon the motions of her
fingers. Suddenly I felt a misty consciousness as of something forgotten¬-a thrill of returning thought; and somehow the mystery of language was revealed to me.

4.おわりに

英語朗読実践、1つのシーンを細かく分析して読んでみましたがいかがだったでしょうか。最初に意味を理解するために(=自分のために)音読していた時と、内容を理解し、想像し、映像化したシーンをどんな音で表現すれば聞き手に正確に届けられるか考えて工夫して読んだ時とはずいぶん音が違っていると思います。びっくりするほど大きな違いは自分では感じられないかもしれません。でも聞き手を意識をする読み方になっていることにより確実に変化しています。録音して比較してみてください。そして文章を声に出して読む時、自分のプレゼン、スピーチ、を練習するとき、①comprehension ②imagination ③visualizationを思い出してみてください。間、強調、緩急、トーンといったプロソディを用いて工夫してみてください。何より「聞き手に届ける」という意識を忘れないでください。

英語朗読を楽しみましょう!

    

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