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さよならGoodbye #12

第12章  作戦実行の日

「おい、田島!お前、髪の毛ボザボサじゃないか!」
出勤と同時に井上課長に怒鳴られる彼・・・
「すみません・・・時間がなかったもので・・」
「今日は、赤坂見付のTTI社に同行営業する日だぞ!ちゃんと段取り取ってるのか?」
「はい、そちらは準備万端です。来月の団体旅行用へのセールスプロポーザルもすでに印刷済です。」

「OK!いつになく計画的じゃないか!どういう風の吹き回しだよ?」
「課長!今日は自分の勝負の日ですからね!」
「なんの勝負だよ?相変わらず訳わかんない奴だな!まぁいいや、とにかく時間に遅れるから出発だ!」

TTI社は、学校の修学旅行を中心に集客をしている旅行会社で社長をはじめ役員も教職あがりの人ばかりだった。

無事にTTI社へのプレゼンもうまく終わり、井上課長は上機嫌だった。

「おい、田島!今日のお前はいつになく冴えてたな!俺はびっくりしたぞ!」

「ありがとうございます。これが本当の実力ですよ!」

「ばか言ってるんじゃないぞ!まぁいいや・・・おっとまだこんな時間か?帰社するにも早いんでお茶でも飲むか?」

「課長、お茶も良いのですが、トリップワンの今後の成長を神頼みすると言う事でそこの日枝神社にお参りしませんか?」

「お前ってそんな信心深かったのか?意外だな・・」
「自分は、赤坂に来たら必ず日枝神社にお参りする事にしてるんでよ!」

永田町から山王坂を下った角を左に上ると、日枝神社の山の形をした大きな石の鳥居がありそこにある古い急な52段の階段が山王男坂。
階段の先には日枝神社の正面、いわゆるこれが表参道である。

お参りが終わり、山王男坂の最上段から見る景色は絶景だった。

「都会の喧騒とは無縁の世界だな!田島もなかなかいい場所を知っているじゃないか!」

その時だった、山王男坂の大きな木の陰の身を隠していた副島孝司が人のいない事を確認するといきなり飛び出て井上課長を後ろから
突き飛ばした。それは一瞬の出来事だった。

「うあー」と言う大きな声と共に52段の階段を転げ落ちる井上課長!あっと言う間に最下段の鳥居まで転げ落ち石で出来た鳥居に激しく
ぶつかった。

それを見ていた彼は思わずつぶやいた「やばいぞ・・これは・・・」
呆然と立ち尽くす彼・・・・そこには、孝司の姿はなかった。
「救急車!救急車!」一人の年配の参拝者と思われる男性が叫ぶ!
すでに、最下段の鳥居の周りには人だかりの山ができていた。
数人の男女が頭から血を流している井上課長の頭にタオルをかぶせて圧迫止血をしているのが見えた。
彼もふらつきながらも最下段の鳥居の前まで下りてきて遠巻きに井上課長の様子を伺っていた。
すぐに救急車とパトカーが数台、大きなサイレンの音を鳴り響かせて到着すると一瞬で辺りは緊迫した空気に包まれた。

救急隊員が叫ぶ
「この方の関係者の方はおられますか!」
「あっはい!」手をあげる彼・・・
「会社関係の方ですか?」彼の耳元で叫ぶ救急隊員・・・
「あっはい・・・」か細い声で返事をするや否や救急隊員に引っ張られて救急車に乗せられる彼・・・
ストレッチャーで運び込まれる課長・・・
 救急隊員が叫ぶ! 「聞こえますか!」「聞こえますか!」 
「だめだ意識がない!気道確保!人工呼吸!胸骨圧迫!」通常救急車には3名の救急隊員が乗車している、彼らの迫力に圧倒される彼だった。
「虎ノ門病院、山王病院対応不可!聖路加病院で受入れ!!」
救急隊員の応急処置は、病院に到着するまで続いた。
そして聖路加病院に到着、あわただしく運び込まれるストレッチャー!
「あなたは、ここで待っていてください!」若い看護師さんの指示で彼は、指定されたベンチで待機する事になった。

 ベンチでうなだれる彼・・・そしてボソッとつぶやく
「疲れた・・・もう嫌だ」

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