読んで歩く、穂高。
ここは標高3000mにある山小屋。
北アルプスの穂高連峰の一角にある。
穂高連峰は、標高3000m峰の岩稜線が連なるところ。山歩きのレベルとしては、上級者向きの登山道になる。
私は今、毎日山の中にいる。
山で仕事をしている。
それなのに、最近山歩きに行けていない。
なんといっても、天気が悪い。
酸欠ならぬ、"山欠"である。
ガスで真っ白な世界を眺めては、
「そろそろ稜線が見たいなぁ。」と呟く。
もどかしい。
けれどもそれが、
何日かぶりに、気持ちいいくらいに晴れた。
これは、山歩きに行くしかない!
そう決めて、休憩時間に
穂高のほうを目指して歩きに行くことにした。
山歩きは、1時間ほど。
そのほとんどが、岩の道。岩登りだった。
穂高の岩稜線は、大昔に火山噴火が起きて形成されたもの。
ひさしぶりの山歩きで、心がウキウキ。
岩登りが、こんなに楽しいなんて。
私が岩登りを好きになるなんて。
股関節が動いて、
ふくらはぎが動いて、
全身の血流と細胞が巡りだす。
体に酸素が行き渡り、
呼吸がどんどん深くなる。
*
北アルプスの山に行く前に、山を始めたいと言う友人を、京都の大文字山に連れて行った。
「こんなに汗かくと思ってなかった〜」
初めて登山靴を履いて山を歩いた友人が、想像以上の運動量に驚いていた。
そう、山を歩いていると、じわりじわりと汗が馴染む。それも心地よくなってくるのだ。
初めはキツイと感じていた登り道も、ランナーズハイのように、途中から快感が生まれてくる。険しい道は、緊張感が漂うが、そこを乗り越えたときの安堵感は、癖になる。
この日は風が強く、ゴウゴウと吹き抜ける風を浴びながらも、ぐんぐん歩みを進めていく。
大きく深呼吸をすると、冷たくて心地よい空気が体の中を駆け巡る。
*
登山を初めて約7年。
いつまでも山を歩きたいし、新しい山域も挑戦していきたい。山を快適に軽やかに歩きたい。
そんな想いから、
食事のことや、下半身を鍛えること、山のギアの研究など、デイリーケアを取り入れるようになった。
もともと運動音痴だったのに、
体との対話が進み、
だんだんコツがわかってきて、
自分の体がうまく使えるようになってきた。
だから今、体動かすことが楽しいんだろうな。
山の中にいるのに、眺めているだけなんて。そんなのつまらない。やっぱり山は、歩いて楽しむのがなんぼです。
山を歩けば歩くほど、憧れだった場所が、いつの間にか身近な存在になっていたことに気がつく。心の距離が、ぐっと縮まっていくのだ。
蝶ヶ岳、常念岳、大天井荘岳‥‥、
あっちには、笠ヶ岳、剱岳‥‥。
私の中で、点でバラバラだった山々が、山を歩くことで、地図として線になってゆく。
そんな瞬間に、顔が綻ぶ。
毎日が晴れじゃないからこそ、
今この瞬間に、
この道を歩けていることが嬉しい。
今日歩けて、幸せだなぁって感じられる。
山を歩き、山を眺め、空を見上げて、
風になびく雲を追いかける。
そして大きく伸びて、深呼吸をした。
また、穂高を歩きたいな。
いつも楽しく読んでくださり、ありがとうございます! 書籍の購入や山道具の新調に使わせていただきます。