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私小説をファンタジーに還元したストーリー。大理石の幻獣に吹き込まれた命。気鋭の彫刻作家佐野藍の個展『ANIMA』を訪れた。

『ネバーエンディング・ストーリー』で見たファルコンの背中に乗りたい…と一度は思ったことがあるはず。

映画や漫画の中のファンタジーであったドラゴン。それが今私に目を向け、生温かい体温で静かに鼻を鳴らしている。

これが大理石のドラゴンとの出会いであり、彫刻家の佐野藍さんとの出会いである。

佐野さんは幼い頃庭でトカゲと、未知との遭遇をしたことがきっかけで(恐竜と思ったらしい)、幻獣をモチーフとした大理石の制作を続けている。多種多様な幻獣を知っているのは、お母様の大学時代の専攻が古代オリエントの動物意匠だったことも影響しているそうだ。

東京芸術大学大学院の修了制作は大学が買い上げ、アートフェアでも話題を集めた佐野さん。彼女がこの度、初のアニメーションに挑戦したという個展に伺った。

来店予約を済ませ、根津の雑居ビルに店を構えるギャラリー花影抄へ。

壁一面に貼り付けられた、700枚にもおよぶアニメーションの原画がまず目に飛び込んで来た。奥の壁面には1分程のアニメーション作品、中央には主人公であり、石彫作品の『ANIMA』が展示されていた。

このANIMAちゃんが卵から生まれ、おぼつかない足取りで初めて外の世界に触れる。別の命を食べることで自分の血や肉とし生きていく。普遍的な生と死の営みをアニメーションと石彫で表現した。

アニメーションが背景の物語をつくることで、石彫作品にリアリティが出ていた。そのため石彫の姿は、命の物語のワンシーンとして強く印象に残る。

曇りのない瞳の輝きや柔らかく抱きしめたくなるような出で立ちは今でも鮮明に覚えている。

また、作曲を佐野さん、ピアノの演奏を山田磨依さんが担当した楽曲は儚くも明るい音色でとても心地の良い音楽だった。

今回の展示を見て、以前佐野さんに取材した際の「自分の薄皮1枚先は全部死と境界線。同時多発的に生まれることと死にゆくことが同じなんだ」という言葉を思い出した。

死を受け入れることで、生きているということがどれほど美しく尊いものかが初めてわかる。

しかし、漠然とした「生命」というものに対して、ここまで必死に訴えかける、無数の小さな命が創り出せるのは、佐野さんだからだ。

ここ数年テーマでもあった「生命」と真摯に向き合ってきた彼女にとって、「生命」に纏わるあらゆる葛藤がこの個展で昇華されたのではないだろうか。

ANIMAちゃんが今後すくすくと育つことを願いつつ、梅雨空の根津を後にした。




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