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「小麦粉を作るために生まれてきた」生産者の美味しい粉

ずっと使い続けていた小麦粉の精製場の見学に行ってきた。

店をやっている時から、ずっと行きたかった場所。
店に配達に来てくれた時に、小麦粉のことを話し出すと止まらない、すごい熱量を感じて、こんなに情熱を持って生産している人の粉を見に行きたい!と思っていた。タイトルにも書いた通りの、「僕は小麦粉を作るために生まれてきたんだ!」と話していたのがずっと印象に残っていた。

年始に研修に行ったベーカリーIscoでも、近頃仲良くさせてもらっているポルトガル産のものばかり扱うComida Independenteでも扱っている、Falinhas Paulino Horta(ファリーニャス・パウリーノ・オルタ)の小麦粉。どんな風に生産されているのか、実際に見てみたかった。

リスボンから車で50分くらい北上したところにある、Alenquer(アレンケル)という場所の、丘の上に製粉場はあった。最初に目に飛び込むのは、かつて使われていた、可愛らしい製粉小屋。風力でミルを動かして粉を挽いていた。だからこんなに風が強い場所にあるんだ!家族経営で今の世代のおじいさんたちが1800年代にここを使っていたそうだ。


今は訪れた人が見学できるミュージアムのようになっている
昔使っていたミル

昔は使われていた器具たち。粉を計るマスが、日本の米用のマスと似ている。

壁際に置いてあるのが粉を計っていたマスたち

現在はその隣にある、立派なモダンな製粉場で、様々な粉が挽かれている。
小麦粉、米粉、とうもろこし粉、オートミール、などなどたくさんの種類の粉がある。

小麦粉も、昔ながらのやり方で、石臼を使って挽く伝統的な小麦粉と、最新の機械で、12回も分別とふるいを繰り返して製粉される、細かい粒子の小麦粉の2種類を生産している。

うちの小麦粉は、栄養や旨味のある胚芽を全て落としてしまわないように、気をつけながら少量で製粉しているよ

。スーパーで安く売っている大量生産の小麦粉は、摩擦で粉自体の温度も上がってしまうし、胚芽はほぼ全て落とされてしまうから、味があまりないんだ」

本当に愛情を持って生産しているのがよく伝わってくる。きっと伝えることがたくさんありすぎるのだろう、私が何度も質問しようと声を発しても、すぐに彼らの話で遮られて、なかなか質問までこぎつけるのが大変だった(笑)



繊細な細かさの粉はこの機械で12回も製粉を繰り返して出来上がる。


土地によって種類の異なる小麦の種類の説明や、それに伴うそれぞれのパンの特徴を教えてもらう。

「小麦の種類が違うから、ポルトガルは地方によってこんなにパンの種類が変わるんだよ。

例えばこの粉は、マフラのパンを作るのによく使われるんだ」


挽き具合の違いを見せてくれた


ポルトガルで一番よく使われる小麦粉は、Tipo55という番号のもので、日本の粉で言うと、中力粉のような感じらしい。日本の薄力粉、強力粉は、たんぱく質の量で分けられるが、ヨーロッパは、粉に含まれる灰分量で、55、65、80、というように分けられる。

色んな種類の小麦粉を少しずつ出して見せてくれた時に、夫が「ラーメン屋が麺作りの粉を決めるときはこうやるんや」と言って粉を舐め始めたので、私もそれに習って味見。そしたらどれも味わいが全て異なって、感動した!

近年リスボンにも本格ピザ屋がたくさんでき始めているけど、コロナ期間、その多くの店が、

イタリアから00粉を仕入れることができなくなったらしい。その時に、このFarinhas Paulino Hortaの粉を試しに使ってみるピザ職人たちが、使ったのが55Superというタイプ。

これはタンパク質が多く含まれている、一番細かく引かれたもの。この粉が、とても良かったらしく、輸入が再開された今でも、これを使い続けている店が何軒もあるらしい。こうやって、国産の粉で作られ、消費されるものが増えていくといいなと思う。


家族経営されているので、毎週末、天然酵母から家族分のパン、サワードゥを焼いているのだそう。普段パンをあまり食べない親戚たちが集まった時も、「このパンは美味しいからいくらでも食べれる!」と大人気なのだそうで、こんなスペシャリストたちが作っているのだから、そりゃそうだよね!

「近頃は自分達で酵母を起こしてパンを作る店が減ってしまって残念だよ。この街でももう一軒しかないよ。」

と嘆いていた。

「酵母を起こすのなら、この粉がいいよ!」とアドバイスももらえた。

それでも、リスボンでは天然酵母パンが逆にトレンドになってきている。値段は少し上がるけど、人気店は行列だ。

ポルトガルの古代小麦を復活させて、契約農家に栽培してもらい、粉にしているものも見せてもらった。これもスペルト小麦のように、グルテンが少なくて、味わい深い粉だ。少し舐めてみると、個性的な味わいがある。

「この粉は最近こだわりのあるベーカリーではとても人気がでてきているんだ。」

ポルトガルの古代小麦粉、バルベラ小麦

ポルトガルは元々どっしりとした味付けの食べ物が人気ある。だから全粒粉や古代小麦の穀物の香りと味が豊かなパンは、きっとこれからもどんどん人気が出るだろう。

日本のパンは食べたことあるかな?いつか美味しいものが焼けたら、持っていって意見を聞いてみたいな!と企んでいる。







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