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誕生日のプレゼント③

夫婦は、改めてレジカウンターで男性店員と対面し、なるほど…と、思った。
彼の胸には「研修中」のバッジ。顔を見ると、その表情や肌の張り具合から、にじみ出る若さを感じる。新入社員なのか学生のバイトなのか。いずれにせよ妻が感じていた違和感は、この「経験の浅さ」だったのだ。

店員は、バーコードを読み取ると、
「19,800円です」
と言った。
おや?たしか9,800円の赤札が付いていたはず。夫は、すかさず、
「9,800円…ではないんですか?」
と聞くと、一瞬店員の表情が曇った。
「少々お待ち下さい」
そう言うや否や、慌てて横にいたスタッフに小声で話しかける。
「そういうことは、上司に聞かないと!」
強い口調で跳ね返されているのを見ると、おそらく店員が聞いた相手は、電器屋のスタッフではなくメーカーの人なのだろう。

若い店員は、夫婦のところへ戻り
「すみません、只今確認いたしますので、お掛けになってお待ち下さい」
と言い残し、上司と思われる人物の元へ駆け寄った。

座って待っていてと言われたが、夫婦は事の成り行きが気になって仕方がない。
レジカウンターの奥の方を見てみると、上司と思われる人物がパソコンを見ながら、スマホを耳に当てている。上司も、さらにその上司へ確認しているのだろうか。

10分が過ぎ20分が過ぎても、まだ確認作業は続いているようだ。隣のブロックの時計売場から、中年の女性店員も心配そうにこちらの様子を伺っている。スプレーと白い布を手にし、掃除をしている若い女性スタッフも、掃除をする手を止めて、怪訝そうな表情で夫婦を見ている。

退屈しのぎに、ショーケースの時計を見て歩く妻。

20代と思われるビジネスマンは、小ぶりのスーツケースを脚に挟めながら、店員と話をしている。
その男性が試しに手首に付けている時計は「タグホイヤー」。有名ブランドとあって、どれも10万円以上する白物ばかり。
「へぇ〜、こんなすごい時計を買うなんて、我が家と全然違うわ」
と、しみじみ思う妻。

また別のショーケースには、ピカチューなどのポケモンのキャラクターの時計が並んでいる。
SEIKOの商品で、価格は3万円ほど。
ポケモンとは言え、これは大人が付けるものなのだろう。妻は一瞬「息子に買ってあげようかしら。プライベート用に」などと、遠くに住む新社会人の息子のことを思い浮かべていた。

カウンターの奥を見ると、上司と思われる人物は、まだ電話をしている。
夫は妻にこう言った。
「きっと、値札が間違っていたんだよ。アレは9,800円じゃなくて19,800円だったんだ、多分。あ、オレちょっとトイレに行ってくるね」
そう言い残し、その場を離れた。

もう一度カウンターの奥に目をやると、電話を終えた上司と思われる人物が、黒いトレーに赤札の付いた腕時計を山盛りに乗せて向こうからやって来るのが見えた。

かれこれ30分は経っただろうか。
「大変お待たせいたしました」
ようやく若い店員に呼ばれた。

つづく

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