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スマホが使えなくなるミカ

【ミカのつぶやき】
また妹のマホが私のスマホを勝手に使ったので、思わずひっぱたいたら涙目になって外へ出て行った。妹のマホは中学に入ってから私のスマホを黙って勝手に使う。あいつにはこのスマホを使う権利はない。

このスマホは、年に数回会うお父さんに去年買ってもらったものだ。スマホが欲しいと言ったら、「マホが、ちゃんと大人になっているか確認したら買ってやる」と言われて、車の中で胸を触られ買ってもらったスマホだ。もちろんマホも他の五人の妹や弟もそしてお母さんも、なんでお父さんが私にだけスマホを買ってくれたのか本当の理由は知らない。お父さんから「このことを誰にも話すなよ」と言われている。そして来月は久しぶりにお父さんと会う予定だ。毎月の通信料をお父さんが払っているので、会わないとスマホを止められる。お父さんは会うとすぐにスマホを保護者機能でロックする。このロックを解除してもらうために、私の身体が成長したかどうかの確認を行う。そうやって使っているこのスマホを、何もしてないマホが勝手に使うことは本当に許せない。

「このことは誰にも話すなよ」とお父さんに言われているけど、木曜日に毎週行っているこどもソーシャルワークセンターの夜の居場所トワイライトステイで、この前ボランティアのお姉さんと銭湯に行った時に、スマホがロックされて解除してもらうのが大変って愚痴をポロッとしゃべってしまった。いつもニコニコしながら話を聞いてくれるお姉さんの顔色が変わったのにびっくりして、すぐに話題を変えたけど気づかれてしまったかも。

そういえば来週のトワイライトの時に大事な話があるって連絡がきてたけど、まさかこのことかな。いや、きっと冬休みにみんなで行くお泊まり会の話か高校受験の話だよね。
 
【ボランティアスタッフの告白】
 
こどもソーシャルワークセンターではトワイライトステイが終わったらボランティアみんなで職員の人たちと今日の活動の振り返りをする。私が銭湯でミカちゃんから聞いた話をした時に、別のボランティアからも「この前、スマホで写真撮った時に、女豹ポーズやM字開脚とか言いながらポージングをしてておかしいなと思った」という話も出てきたので、職員さんがあわててセンターの代表の人を呼びに行った。その後は個別に代表の人に話を聞かれた後に、今日の話は絶対に他のボランティアに話さないようにと言われた。そしてミカちゃんは一時保護される可能性が高いと話していた。ここでボランティアをして三年になるけど、センターに来ている子が突然、センターに来なくなることは今までもあった。今日その理由がわかった気がする。

 【解説】

 この物語は2022年6月より、京都新聞(滋賀版)にて月一の連載としてはじまった「こどもたちの風景 湖国の居場所から」の前半部分の物語パートです。こどもソーシャルワークセンターを利用する複数のケースを再構築して作っている物語なので、特定の子どもの話ではありません。

 第6回目は、第1回目の主人公と同じ中学生三年生のミカ。前回はケンカした妹マホが主役の話でしたが、ケンカの元になったスマホの秘密について書いてみましたが、性的虐待ということで重たい話になっています。しかし、居場所活動の中で性的虐待や性被害に出会うことは決して少なくありません。

 性的虐待や性被害について、直接的な被害を受けていることを本人から話してくることはまずありません。居場所活動の中で、違和感を感じてアンテナを高く張っておくことになります。例えば前回の話のように、家族が狭い部屋で過ごしている家庭環境(パーソナルスペースがない)、子どもがいる前で夫婦の性行為が当たり前のように行われていたり、子どもの前で家の大人が成人向けの映像や画像を当たり前のように見ていたりなどは、活動中のおしゃべりの中から察知することが出来ます(小学生の低学年の子がびっくりするような言葉を使ったり)。自傷、摂食障害などで身体症状が出ている時も気にしますし、異性のボランティアへの距離感(これは遠い時もあれば近い時もあります)なども気にかけながら子どもたちと関わることになります。とはいえ、児童相談所や警察が具体的に動くためには、何か決定的なことが起こらないといけないので、「おかしいな」「変だな」と思いながら活動を通して見守りを続けることになります。何かが動く時は、本人からの相談ではなく、たいてい同じ居場所に参加している仲間やボランティアにポロッと話してことが動きはじめます。まさに今回の話のような感じで、性的虐待や性被害を発見に至ることとなるわけです。

 半年に渡って連載してきた、子どもの居場所に通う中学生三人(ミカ、マホ、ナオ)を主人公とした話は一度ここで終わります。来月からの下半期の連載はまた違う主人公で子どもの居場所の物語を紹介していきます。

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