見出し画像

短編朗読作品【30個の命】

「かみさま」から30個の命をもらった。
命が30個もある。
ゲームみたいだ。と思った。
僕はいくつかの方法で命を落としてみたが
そのたびに心臓が冷たくなって
しばらくするとあつく燃えて、また鼓動を始めるのだった。
「命を無駄にしちゃいけません」
女の子が言った
「命を無駄にしちゃいけません」
女の子は僕の手を握って泣きながら言った
「でも僕には、まだたくさん命がある」
僕がそう言うと、女の子は悲しい顔のまま帰っていった。


次の日、女の子は死んでしまった


僕は「かみさま」のところへ行った
「どうかあの子に、たくさん命をあげてほしい」
僕は「かみさま」にお願いした。
「余っている命はどこにもない。」
「かみさま」は言った
「じゃあ僕の、僕が持っている命を、どうかあの子にあげてください」
僕がそう言うと、「かみさま」は笑った
「君の命は、あとひとつしかない」
「・・・それでかまいません。僕はたくさんの命を落としてきた。そのたびにあの子は泣いた。
『命を無駄にしちゃいけません』と泣いてくれた。
正直死ぬことはちっとも面白くないんです。痛い思いはしたくないし、死ぬたびに心が灰色の石のようになるんです。
だけど僕は、そばで泣いてくれる彼女が愛おしかった。
『命を無駄にしちゃいけません』という言葉が聞きたくて、僕は命を無駄にしていたんです。
・・・せめて最後の命は、無駄にしたくないんです。」
「君は、なぜ彼女が死んだのか知りたくはないかね?」
「かみさま」は僕の心臓に優しく触れながら言った。
「知りたくもありません。あの子の死んだ姿ですら、僕は見られなかったのですから。」
「かみさま」は僕の心臓をぐっと握った。
身体がどんどん冷たくなっていくのを感じた。

遠のく意識の中で、あの子が泣いていた。

「命を無駄にして、ごめんなさい」

---
この作品は2016年6月18日に行われた「永遠の幻想・美の幻影展」内で行われた音楽と映像と朗読によるパフォーマンス、実験工房『down - path』用に描き下ろしたものです。
---

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?