見出し画像

『ここでのこと』は細部までとても贅沢な歌集。

こんにちは。
年明けから新刊の歌集が続々登場していて、Twitterで見かけるたびついAmazonでポチポチしてしまいます。
最近は告知ばかりでしたので、たまには読んだ歌集の紹介をさせていたください✨(※私の偏愛により、本の紙質に関する感想多めです汗)

歌集『ここでのこと』
制作・発行 ELVIS PRESS
愛知県にゆかりのある9人の歌人、谷川電話、戸田響子、小坂井大輔、寺井奈緒美、辻聡之、野口あや子、千種創一、惟任將彥、山川藍が、県内の様々な場所を想いながら作歌したアンソロジー歌集。
愛知県文化芸術活動緊急支援金事業/アーティスト等緊急支援事業「AICHI⇆ONLINE」の企画の一環で制作した1冊。
(ELVIS PRESS HPより)

この本は、オンライン・アートプロジェクト「AICHI⇆ONLINE」の一環として、愛知にゆかりのある歌人が「ここ」を詠んだ作品を収録した歌集です。

アートプロジェクトから生まれた歌集ということで、まず装丁がとても印象的です。
シックな紺色の広めの帯に、タイトル、9名の歌人の名前、イラストが金の箔押しで記してあってとても上品です。しかも、帯を外した内側も箔押し加工でとても贅沢。
この帯の深い紺色は、中日ドラゴンズのカラーからきているのか?と感じたのですがもし違ったらすいません。。
そして、紙質にもとてもこだわっています。
表紙は布のような手によくなじむ手触りで、紺色の帯も細かな凹凸が気持ちいいです。ちなみに中の白い紙も、少しざらつきがある厚めの紙が使われています。

そして、(やっと)中身ですが、冒頭のメッセージが印象的です。
そもそもこのプロジェクトはコロナにより、打撃を受けた文化芸術を明日につなぐために企画されたということで、
自粛によりこれまでの行動範囲や表現方法が制限されても、これまで見落としてきた自分の半径1kmくらいの地図の解像度をグッと上げて未来の文化に繋げようといった想いが冒頭に綴られています。

確かに、2020年以降、田舎にも簡単には帰れない世の中となったけれど、
近所の商店街を何度も散歩する中で、今まで入ったことのなかったカレー屋にハマってみたり、都会のパンケーキ屋よりも今は近所の極厚の鯛焼きがお気に入りだったりと、新たな発見があった一年でもありました。
今の自分が立っている足元にじっくり向き合えた期間だと思うと、少し前向きになれる気がします。

と、収録されている短歌を紹介する前に長々と書いてしまいましたが、掲載されている作品もとても素敵な歌ばかりです。
アンソロジー歌集ということで、今をときめく歌人さんが名を連ねます。

そんな中でも特に胸を撃ち抜かれた作品は、

 谷川電話さん

袖口にパン屑を点在させて人間でよかったときみはいう

太陽はゴルゴンゾーラチーズケーキひとつを奪うこともできない
 小坂井大輔さん

ミニスカートを履いたおっさんネタにしてバズった夜更けに染みるネクター

妹に長男の座を明け渡す書類が中村区役所にない
 山川藍さん

秋らしい大きな雲がシャッターを押した瞬間手に落ちてくる

入れないけれども美しい部屋の畳のへりの模様まで撮る

です。

本に散りばめられた、それぞれの作者のお気に入りのスポットや、長年愛してやまない人や物への愛情に溢れていて、そこから漂う地元特有の暖かくて緩い空気がとても心地良いです。
そして時々そんな中にも、
未だ”ここ”にいる自分に対しての無意識の罪悪感のような、違和感のような感情にハッとさせられたりもします。
愛知は三年前に訪れたことがあるのですが、またぜひこの本を片手に街歩きを楽しみたいと思いました(*˙˘˙*)ஐ
また、私もまねをして地元短歌を詠んでみようと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?