冒険! 恋! 謎解き! 読みどころいっぱいで大人が楽しめる児童書! 『豆つぶほどの小さないぬ』

2021年最初の「本と、おしゃべりと、」のテーマは「絵本・児童書」ということで、佐藤さとるコロボックル物語『豆つぶほどの小さないぬ』を、ややネタバレありで紹介します。
ややネタバレありという微妙な書き方をしているのは、いわゆる児童書のイメージがあると、おすすめしてもなかなか手に取らない人が多いと思ったからです。そのため「大人楽しめる」ではなく「大人楽しめる」というタイトルにしていますし、少しネタバレすることで、子どもだけのものというイメージを払拭してもらいたいので、ここから頑張って見どころをお伝えしていきます。

※トップの画像は磴 千草さん撮影の梅の花です。作中にも梅の花が登場しますし、記事公開が1月末でちょうど梅の時期なので選ばせていただきました。

1・60年が過ぎても色あせない工夫1…冒険、恋、謎解きなどエンタメ要素がいっぱい!

本書は1960年(60年前!)に書かれた作品なので、近年のエンタメ作品のような過剰なジェットコースター展開はありません。しかし、そうかといって当時の人には面白かったけど、現代人にはつまらない、という心配は不要です。
時代背景として、ラジオが貴重品だったり、日本からのブラジル移民があったりと、現代人にはわかりにくい部分もありますが、それらがほとんど気にならない工夫があります。
それは何と言っても、恋あり、冒険あり、謎解きあり!というエンタメ王道要素がバランスよく埋め込まれているからです。

そもそもコロボックル自体が子供のイメージがあるかもしれません。しかし、彼らは小さいけど子どもではありません。今作のメインキャラ・クリノヒコと、ヒロイン・クルミノヒメは、コロボックル社会で重要な役職を受け持つ若者です。
二人の主要な業務はコロボックルにとって超貴重な人間の仲間:せいたかさん夫婦との連絡窓口ですから、大使館勤務の若手エリート男子新人女性職員と置き換えることもできます。(かなり違うか?💦)
その二人の不器用な恋が、さりげなく書かれていますが、じっくり読むとかなり尊いです。
児童書として扱われることが多い本書、表現は穏やかですが、勘違いから起こる最悪の出会い、仕事上のマウントの取り合い、秘密の共有、二人の関係の進展が謎解きのカギになるなど、ほぼ恋愛ミステリードラマと言うこともできます。

しかも、クルミノヒメは、人が多いときはサバサバ系男子口調女子なのに、軽く詩を書いてみせる文学女子の側面もあり、ときどき「魔女のようなわらいがお」(小悪魔的笑顔?)を見せるなど、多面的魅力で読者を楽しませてくれます。
クルミノヒメはストーリー前半では登場シーンが少ないので、男子が主人公の作品にありがちな可愛いだけのお飾りヒロインなのかと思わせておいて、中盤以降では要所に登場してしっかり話を進めてくれる重要キャラだった、という良い意味の予想の裏切り方も見どころです。

メインストーリーは伝説の生き物・マメイヌの存在を、伝承を頼りに解明し、さらに捕獲に挑むという内容で(そもそもコロボックル自体が伝説の小人ですが)、前述の恋愛を抜きにしても十分楽しめます。
さらに、数名のコロボックルが知恵とチームワークでマメイヌに迫っていくワクワク感がありますし、マメイヌに関わる人間たちの多様な思いが交差するなど、侮れない魅力がてんこ盛りです。

調査の途中でネズミの集団に襲われて、片足の自由を奪われたまま戦うアクションシーンもあります。
ちなみにクリノヒコの身長は3.2cm、敵がクマネズミだとすると平均体長は17~26cmですから、身長比は5.3~8.1倍! 身長180cmの人間に例えれば、約10~15m程度の猛獣の群れに襲われて、しかもその場所から動けないとなれば、ほとんど絶望的な展開と言えるでしょう。
この場面も単なる見せ場で終わらず、謎解きに関連するのもまた見事です。

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2・60年が過ぎても色あせない工夫2…コロボックル目線による語り口のうまさ!

もう一点、年月が過ぎても楽しめる工夫があります。
それはコロボックル目線で物語が展開し、人間社会はあくまでも背景程度に抑えている構成のうまさです。そもそも寓話的存在であるコロボックルが語っていますから、人間社会に距離を置きやすいわけです。
もしストーリーが同じでも、例えばせいたかさんが語るスタイルであれば、コロボックルの恋愛や冒険は人間目線になってしまい、数年で古臭くなることが予想できます。そのため、コロボックルが語る構成の本作は親しみやすさと躍動感が失われにくいのです。

ちなみに2015年に刊行された有川浩(現在は有川ひろ)によるコロボックル物語の続編 『だれもが知ってる小さな国』は、人間の男の子目線で書かれています。こちらはボーイミーツガール+コロボックルの暮らしを守る取り組みがテーマで、佐藤さとるによる1作目『誰も知らない小さな国』へのリスペクトが強く出ています。
往年のファンにも目配せした面白い作品でしたが、コロボックル自体を活き活きと書ききっている点では、『豆つぶほどの小さないぬ』が圧倒的に上位にあると私は思います。

3・おまけ

本書は実はコロボックル物語の2作目です。シリーズものなら1作目から紹介するのがセオリーですが、私としては本作がシリーズで一番面白いと思っているので、いきなり2作目を紹介しました。1作目はだいたいこんな話でした、というあらすじ書きもあるので、2作目から読んでも支障はありません。

また、1985年に刊行された新版のあとがきでは、
最初に構想したのはこの2作目のような話だったけど、いきなり小人が活躍すると不自然すぎるだろう、と考えて1作目は人間とコロボックルが出会う話として考えた、
という趣旨を佐藤さとるが語っています。
つまり、著者はそもそもこの2作目のようなものを書きたかった、と考えて差し支えないでしょう。

そんなわけで非常におすすめの作品、『豆つぶほどの小さないぬ』、ぜひ手に取ってみてください。

最後に、コロボックル物語の良さをもう一つ上げます。有川浩『だれもが知ってる小さな国』に明言されていますが、このシリーズは往年の名作としてほとんどの図書館に置いてあるので、非常に手に取りやすいメリットがあります。図書館に出かける手間をかけずに読みたいと思う人はネット販売の利用もアリですが、試しにとりあえずちょっと読んでみようかな、と思う人はぜひ最寄りの図書館もご利用ください


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