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『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の感想文
1・前置き -少しネタバレを含みます!
この記事は赤野工作の『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の感想文です。
足立区立舎人図書館と共同で行ったオンライン読書会第1回(2020年9月22日開催)で参加者の方から紹介された本なので、さっそく読んでみました。
ある程度のネタバレを含む感想ですが、ストーリーや結末を細かく語りはしませんので、「これ読んだから結末わかっちゃった💦」ということはありません。
ただしストーリーに触れる部分はあるので、ネタバレゼロで本作を読みたい人は、読了後にまたこの記事に戻ってきていただけると嬉しいです。
2・私なりのオススメポイント
2115年という未来から過去100年(要するに私たちにとっての現代と未来)を振り返って、「話題になったけど結果的に低評価だったゲーム」を何本かレビューしていくのが大筋です。
ブログ形式なので、最初は「これって小説?」と思う人も多いでしょう。しかし、主人公(2115年に生きるブログ執筆者)のゲーム愛や生き方が少しずつ語られるので徐々に物語性が増していき、明確な結末もあります。
ここで私なりに本作の読みどころを箇条書きでまとめます。
・筆者と主人公はゲーム愛にあふれている。ゲーム好きの人ほど共感を持ちやすいだろう。
・架空の未来でどんなゲームが開発されるのか? 紹介されるゲームの開発着眼点が見どころ。
・一般には低評価だったゲームに、主人公が別の視点で接するところが面白い。
・ゲームのレビューと並行して語られる主人公の生き方がサブストーリー的に展開する。最初は箸休めかと思うが、次第に比重を増す作りも注目ポイント。
実は私自身はゲームをあまりしないので、恐らくゲーム好きな人が笑える部分、興味を持つ部分が拾えなかったと思います。そのため、「ゲーム大好き」、「有名作品はほとんどプレイしている」という人なら、具体的に「このゲーム描写が面白い!」というポイントが多数あるのではないかと思います。
3・ゲームオタクは電気美少女の夢を見るか? -見るでしょ、絶対
私は往年のハードSFが好きなので、本作を近未来SFの視点で楽しみました。
私は特に、ロバート・A・ハインラインや、フィリップ・K・ディックが好きです。
彼らは人間ではないものを描くことで、「人間とは何者か?」というテーマを読者に突き付けてきます。
フィリップ・K・ディックの代表作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では、人間とアンドロイドの境目がわからなくなる瞬間を何度も徹底して描きます。
ロバート・A・ハインラインの『愛に時間を』では、長命人種と普通の人類、自我を持ったコンピューターの三者の視点から「愛ってなに?」という「古今東西の物語の究極テーマ」を扱います。
本作も「AI」を扱いますから、自然と「人間」と「AI」の違いを語ることになります。すると結果的に、「じゃあ私たち人間って何?」という問題も出てくるわけです。
ただし、本作はゲームレビューが主軸ですから、「一般人」と比較した「ゲームオタク」という第3の存在も話題になります。本作ではゲームオタクは一般人とゲーム機やAIの中間的な存在として扱われており、まさにフィリップ・K・ディック的悪夢も描かれます。ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に登場するイジドア君は、立場的にも能力的にも人間なのに人間とアンドロイドの中間的存在ですが、本作の主人公もそれに近いと言えるでしょう。
「ちょっと問題があるとすぐクソゲーという言葉で片付けてしまう一般人」と、「アレなゲームとはわかっていても楽しみを見出してプレイしてしまうディープなゲームオタク」は本作に流れる対立軸です。
この作品にはヒロイン的存在(?)として美少女アンドロイドAcaciaが登場します。Acaciaは孤独なゲームオタクが、一緒にゲームを楽しむために作られたアンドロイド。一見可愛いのですがいろいろな問題があるため、結果的に一般社会では見捨てられていきます。そして、主人公はAcaciaを「伴侶」と言ってしまうかなりのダメ人間です。
人類から生まれた人類以外の存在=ゲームオタクがどう生きていくのか、という題材は、やはり「人間って結局何だろう」というテーマ性をもっています。主人公がどのような結末にたどり着くかはここでは書きませんので、ぜひ本作を読んでみてください。
本作には電脳的なガジェットも登場するので、『マトリックス』や『攻殻機動隊』などに興味がある人も面白く読めると思います。
そんなわけなので、「ゲームやSF要素が強い小説は読まない」という人にはちょっときついかもしれません。
また、文章の冗長さは気になりました。本作は480ページありますが、もう少し簡潔に書けば3/4くらいになって読みやすかっただろうと思います。
4・まとめ –読書会だからこそ出会えた作品- これだから読書会は面白い!
前の項目にも書きましたが、私自身はあまりゲームをしません。そのため、読書会で紹介されなければこの作品を手に取ることはなかったでしょう。
読書会の参加者の方の紹介が素晴らしかったこともあって、読みやすかったのも間違いない事実です。
オンラインとはいえ対面して紹介された作品は、ネット上の知らない人が書いたレビューより脳に浸透します。
知らない作家、知らないジャンルに出会えるのは読書会の大きな楽しみです。
ぜひ皆さんも読書会に参加してみてください。コロナ禍はいろいろ大変ですが、気軽に参加できるオンライン読書会が増えているのだけは良い点だと思います。
また、2020年10月1日現在、リアル開催の読書会も少しずつ復活しています。
やはり対面して本の話をしたい、と思う人は足立区立舎人図書館での読書会への参加も考えていただけると嬉しいです。
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