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短編
白いカーテンの先に風が擦れた淡い朝の色が残っている。土曜の八時の心地いい気温に、私は思わずくしゃみをする。桜が散って、しばらくたって、季節がまたゆっくりと回りだしている。ほけきょと私は寂しくなく。
机の上には書きかけの手紙がにさん。一つは母へ、引っ越しの報告を。母はLINEがラインと読めなくて、それを私は堪えられずに笑ってしまったから以後報告はすべて便箋直筆三枚と沙汰を受けている。普通に大変、楽しいけれど。一つは故郷の先生に、進学の報告を。四国を飛び出しついには私、東京にいますよ。
そして余った便箋一枚。メモ書きに使うには惜しいから、ちょっとだけ綺麗な字で目標を書いてみることにした。
まずは下書き、の前に朝ごはん。焼き始めていたトーストが向こうで私を呼んでいる。牛乳は大人になると飲まなくなるとか言ってたけれど、私は朝食と一緒に用意したコップの、なみなみと注いだ牛乳の、あのほてっとした液感がすきだ。ごくごく飲んで、ぱりっと食んで、またごくっと。
開け放しておいた窓から、朝の音がする。文明の音が私に自信と激励をくれる。だが今日は土曜日、大都会も少しだけ静か。
やっぱりここでよかったな、と私は思う。緑もあるし、川もある。電車に乗ればどこへでも行ける。通学時間の少し長い生活も、まあ悪くはない。扉閉まってるのに乗っていくあの感じは今でも怖いけど。
ごちそうさまを、きちんとして、何も書いてない紙にペンで書く。
目標、もくひょう、ううむ。
お金を貯める。←大学生っぽい。
友達と舞浜に行く。←いいけど目標じゃなくない?
スタバに独りで入る。←たぶんもうできる。
スカイツリーのぼる。←ちょっと高そう。
近所の人と仲良くなる。←あんま人と会わないよね。
授業さぼらない。←大学生っぽい。
んー。なんか、ないかなあ。なんか、ぱっと明るくこれだって感じの。
椅子にもたれて閃きを待っている。風が通る。少しぬるい、湿った風。梅雨ってどれくらい降るもんなんだろ。東京の人は傘ささないってほんとかな。今度大学で聞いてみよ。ついでに舞浜連れてってもらお。
あ、それか。
きれいな字で、なんて忘れて私は夢中で描いた。真直ぐな便箋に、少しくねってそれでも濃く。油性だか水性だかの黒いペンで、淡い色をした紙に書き出した。
「とにかく楽しむ!」
あとでどっかに貼り付けよ。私はぐぐっと、伸びをする。今は何でもできそうな気分で、体の中から、ぐおおっと力が湧いて出ている。ぐおお。
力を抜いて、外を見る。もうすぐで九時だ。今日は何しよう。夏の予定でも決めようか。
夏が始まる。今年の夏は暑くなりそうだ。
2023.6.28 東京
少し遅めの新生活応援
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